act.4
すいません。
一日空きました。
毎日更新が確定している訳ではないですが、リズムは壊したくないですよね。
act.4
「一体何がどうなってんのよ!!」
口にされた叫びは、金髪巻き毛の愛党 渚、さらにその隣に座る名も知らぬ初老の女性をその音源とするもので、それは日常的に人の死を身近に体感していないものとしては成る程頷けるものがある混乱、
しかし、その疑問に答えられるものはここにはいなかった。
正確には、答えを知ろうがそれを口にしようと思うものが居なかった、なのだろうけど。
ここ、本館のロビーには、今日、ここにいて然るべき人間が、全員『生存者』という枠で、くくれるもののみ、存在していた。
ボクと世亜、そして合流した朝顔さんは、皆さんが集合している空間から少し距離をおいて立っている。先ほどから一人で旅館の管理人に喚き散らしている初老のおばさんを見て、
嘆息するとともに、朝顔さんがその口を動かし始める。
「しかし、めんどうなことになったね――――――――――死んだと確認できる人間以外の宿泊客、そして従業員が一斉にここに介している」
それは即ち、
「今、この場に、その二つの人体破壊を行ったものがいる。ということだよね。
それぞれ、別の人間が、行ったことだとしても、一人の人間が行ったことにしても、複数犯にせよ、なんにせよだけれど。
まぁ―――――――倫理や道徳を無視して、生存本能を優先することが許されるなら、わたしたち三人。
それと、―――――きみが『信用して言い』、と言ったあそこの3人、愛党さんと言ったかな? その連れの人たちで結託して、他の連中―――――――――12名を遠ざけてしまえば、もうそれで安全は確保できるのだけれど」
確かにそれをすればこと『殺人』云々に巻き込まれることはなくなるのだろう。
だけど、それは無理だ。否、無理ではないにせよ―――――無意味だ。
「残念だけど朝顔さん。それは時間稼ぎという点では正しいけれど――――――――最善手としての正解じゃない。そもそも、時間稼ぎ。その、時間の解決ってことが、期待できなくなってるからな」
そう言ってボクは、ケータイを取り出し、画面を開く。
その液晶には、先ほどまでとは明らかに違った部分が眼についた。
電波の有無。
さっきあったはずの、その電波は今、圏外と表示されている。
即ち、救援を呼べない、ということ。
そして、本館においてある据え置き型の電話は、見るも無惨に粉砕されていた。
それはおそらく、犯人、もしくはそのグループによる通信手段の妨害。
電波をかく乱させるような、そんな大仰な仕掛けがあるのなら、それはいよいよ、全滅狙いの意図か。
ともあれ、こんな状況だから、外部との連絡は取れない。
故に、時間稼ぎに意味があるのかどうかがわからない。
唯一、警察への連絡をしたかもしれない女将は、上の小広間で三等分になっている。
ミミズみたいに、分かれたところから動き出したりしてくれれば、まだ希望が有るかもしれない、と教えてもらえたものなのだけれど。
残念ながら人はそんなに生命力に満ち満ちている訳じゃないからな。
とまずは、この剣呑な空気をどうにかすることだ。
救いがない、という状況は人を疑心暗鬼に陥らせ、
希望がない、という環境は理性と言ったリミッターを簡単に外す。
「皆さん―――――――ちょっと、いいですか?」
愛党さんが、声を出す。
うちの高校の校長の朝礼スピーチを、マイクなしで聞かされた感じの声量だった。
まぁ、そんな体験ないんだけど。
その声量にか、はたまたこの状態を打破する何かを感じたのか、皆が静寂を構えて、金髪の巻き毛に注目する。
「私は、愛党 渚、と言います。今年17歳になったばかりの若輩です。皆様、私の愚鈍な申し出を聞き入れずともご理解なさっていることでしょうが――――――――しかし、今一度、噛み締めて欲しいと思うことが有ります。それは、この状況を、打破しなければならないということに、他なりません。――――――――――――――――――――それには、まず3つの問題が有ります」
淀みのない、澄んだ声音だ。
大衆の注意を弾き、理解を助長するとおった声。
まだ青さは残るけれど、人の上に立つことを義務ずけられたようなその風格が、この場を掌握していた。
「あえて、順序の逆から説明させていただきます。
1つとして最後に考えなければならないことながらに、重要なことです。
それは、ここからの脱出。
通信手段のない今、最悪の場合、最寄りの街まで徒歩で行くしか有りません。しかしこれは体力の劣るご年配や、子供も居るため、容易ではなきことです。故にこれはまず第一に考えるべきことですが―――最後に回すべき手段です。
そして2つめ。
食糧などの問題。
幸いとして、先ほど旅館側さんから、緊急自体として、食材などは、節約しつつも、惜しみなく、無償で支給してくれるそうです。
実はこの旅館と街をつなぐのは、予約されたバスのみでなく、概ね定期的に、通信便のようなバスが有るらしく、さらにそのバスは幸運にも、3日から4日後が次の予定になっているようです。
しかしこれは、今まで旅館側へのアポイントメントを欠かしたことのない慣例らしく、通信のできない状態である今、この通信便が、絶対に来る、とは言い切れません。
しかしながら、そう何日も連絡がないのなら怪しくもなるもの、おそらく、正確なほどはわかりませんが、いずれは街からの接触があるはず。
そのスピードは、街の方の危機察知能力に期待するしか有りませんが。
お分かりいただけましたか?
まず、今後の方向性の指南として食糧を温存しつつおよそ三日後の定期便を待つ。
その定期便がこない場合、私たちには選択が迫られます。
徒歩で街を目指すか、なおも待ち続けるか。
簡単な選択では有りません。
森は長く、車道からそれる脇道も多く存在し、迷えば、助かる保障は有りません。
逆に、ここで待ち続けても、助けはこないかもしれません。
そうなれば、いずれは食糧も尽きてしまいます。
非常に難しい問題ですが、まだその時ではないです。
焦る必要は有りますが、どうか、その件に関しては冷静な判断をお願いします」
なるほど、現状で考えうる限りには、なかなか利口な指針だ。
他の連中も、決して騒ぎ立てることはせず、しかし、希望の可能性に、それぞれの顔に活力が戻る。
例外として、朝顔さんは愉悦に満ちた表情を。
世亜は表情を崩さずに眠たげに構えている。いや、不安を隠そうと必死なのか、ボクの手を握る力を強めて、かすかに震えている。
しかし、まだ終わりではない。
彼女は――――――愛党 渚は、まだ、2つのことと、それの目的を話したにすぎない。
呼吸を整えて、姿勢を正す。
「最後に進言するのは、この上ない、戯言です」
正当な評価だ、
と朝顔さんが小さく漏らした。
「この中に、2人を殺害した人物がいます。
それを見つけることこそが、これから最初にすべきことだと、私は思います。
その人物が、他の人達を殺害しないなんて保障は有りません。
それは最も忌避すべきことで、回避しなければならない最優先事項。
先ほどの二つの案、それに府中する打開策において、殺人者の存在は、大きな障害となります。
ただでさえ神経をすり減らすことになる選択のため、そしてなにより安全のために安心し、安定するためにも、皆さんの力を貸してださい」
言い終えて、愛党さんは、緊張に眼を、不安に手を震わせながらも、決してその瞳を揺らすことはなかった。
その視線にこの場の全員が、もちろん殺人鬼であろう人物までもが、背中を強く推され、自信を増したような表情を見せた。
………………まぁ、ボクと朝顔さんは、どうしても置いてけぼり食らってる感じが否めないけどな、と
そう思った直後だった。
「くくっ……………………くっ、…………あは。……………………あはははは! あはははははははははは!!」
お前達の行ってること全て偽善さ!!
とか今にも叫び出しそうな思い切りヒールな朝顔さんの笑い声。
喋ってたの1人だけれど。
さっきから我慢してたのだろうけど、もう少しくらい我慢できなかったのだろうか。
この場の注目を集めると同時に、完全にこの場から浮いた。
いつもながら、水に浮くのは苦手なくせに(かなずちらしい)、なぜこうも地上で浮くのはうまいのか。
愛党さんも安騎さんも、眼を丸くして、なんだこいつ、とばかりに、隣の猫目を見る。
「いいね、素晴らしい演説、そして方向性の指南だった!
少なくともこの状況の下において、このうえなくそれは効果を発揮したものだったろうね。
いやいや見事だよ。天晴れ。
うん、本当に、私の人生においても十本の指に入るか、新たに十一本目を生やさざるをえないほどに感服したよ。
そもそもなぜ人の指は手足それぞれに5本ずつなのだろうね?
人間自体調和しきれない存在なのだから、綺麗に平等に5本ずつ、というのはそもそもおかしいと思うのだけれど。
それとも、体はそうであっても性質がそうではないというアンバランスさのそれこそが調和しきれないことの証なのかな?
あいや、これは余談だね。
失礼失礼。
しかしながらこれはある意味的を得ていないとも言えないことでね?
そもそも、右腕についた汚れを取ろうと思ったなら、わたしたちは左腕や、もしくは他人の力を借りてその汚れを取る訳だ。
人とは文化的に、表面的な汚濁を嫌う傾向が著しいから、汚れを放置するという方向はこの際考えないことにしてね。
まぁ、右腕の汚れは右腕のそれだけでは取れない訳だ。
それはそう、聞こえをよくすれば助け合い、というものだよね?
人体がそうなのだからその人体において成り立っている僕たちだって、この文化の中において、助け合わなければ生きていけないはずなんだ。
まぁ、つまり私が何を言いたあのかというと、つまりはそう、その犯人探しにおいて助け合おうということだ。
私も、――――――――協力しよう。
ただ一つ注釈するならば、私は身の安全の確保、即ち、きみがさっき言ったように安心して安定するために安全を、というコトも勿論なのだけれど、私にはそれに加えて、この探偵ごっこを楽しむ、という目的も有る。
不謹慎だとか、そういうのはなしだよ?
ナンセンスだからね。
それに、共通目的に思惑は関係ない。
楽しもうが必死だろうが、心苦しかろうが、結局はこの探偵ごっこを終了させれば、
それで、次の段階へ進めるならそこまでの思惑など関係ないじゃないか。
それで了承してくれよ。
と話が終わったところで早速、と、そう行きたいのは山々で、今の心情の性急さを一言で表すなら、『動きたいこと山の如し』なのだけれど、それでもしかし、一つ、はっきりさせておきたいコトが有る。
これは本筋に関係のない、私個人が単に気になるだけのことなのだけれど。
きみの、君だけの考えでいい、君自身の思いを、答えてくれ。
その犯人を、
その人殺しを、
指摘した瞬間に殺しにかかって来るかもしれないその殺人者を、
殺人鬼を―――――――正答して、
そのあとに、
その殺戮者に対して、
君はどう、方向性を指南してみせる?
隔離するのか、非難するのか、糾弾するのか、説教するのか改心させるのか等、いろいろ細かくあることは全て無視して、簡潔に問おう
―――――――――――――――生かすのかい?
それとも、
――――――――――――――――殺すかのかな?
答えてくれ」
長く饒舌で、ひたすらにくどいだけのその発言を前にして、誰も言葉を発することはできなかった。
いや―――――――――許されなかった。
そこにはただ二人。
不可思議な疑問の提示者と、
正解などない答えを要求された回答者のみがいた。
「私は―――――――――」
言いよどんだ訳ではない。
間を測っただけなのだろう。
聞く覚悟を待つために。
言う覚悟を、持つために。
「法律だとか道徳だとか、そういうことじゃあなくて。私は、私のエゴで、その罪を――――――――許すことができない」
だから、
「償いなんて言葉は好きじゃないけど、それでも。殺したから死んでいいなんて、――――――――――――殺し返して良いなんておかしいと思うから」
そう心から思うから、想うから、願うから、
「生きて、その罪を、償って欲しい」
回答者は、そう回答した。
難しい言葉だな、と、そう思った。
何に対する償いなのか。
何を持って償いとするのか。
それが果たして、償いとして、受け入れてもらえるのか。
それを、償いと受け入れられるのか。
それでも生きろ、と彼女は言った。
それは、責任を負わせ、
責任を負うということだ。
「わかった」
疑問者は微笑みを持って、その回答を受け取った。
そして、笑ったまま、ひとつ、手拍子を打った。
「では、始めようか、探偵ごっこを。いや――――これはただの回答だ。
正答の、存在する回答。
いささか興ざめかもしれないが、何を隠すこともない。
私はもう、――――正答を持っている。ココにいる全員がそうだ。回答権を持っている。
なんの虚勢でもない。犯人は、ただ『この場に居る』のだからね。後はそう、確立の問題なのだけれど、九分の一。文字通り九分の一が犯人として該当できるんだ。
まぁ、しかし――これが誤解を許されない設問であるからにして、私たちは政党しなくてはならない。間違っては、ならない。
ゆえに選択肢をしらみつぶしに検討して可能性を消去していかなくてはならない。
だからそうだね。
まずは分かり合う事から始めようじゃぁないか。
互いを知れば自ずと、私たちは正答へと近づくことができるのだろうからね」
成る程、空気と雰囲気を自分で破壊しておきながら、再構築しなおした。
一体なにがしたかったんだといえば、特に目的もなく衝動に任せて発言しただけなのだろうけど。
それが今回は上手く『いい方向』に好転したのは僥倖だった。朝顔さん、ぐっジョブ。
朝顔さんは一息ついて、再度口を開く。
その発言には皆が様々な注目をするこのタイミング。難しいが、ものにすれば一気に解決まで結びつけることも不可能ではない。
さすが、うちの学園でも歴代有数の頭脳を持つ女傑、と言ったところか。
「ではまず通過儀礼としての自己紹介だ。
私の名前は生無 朝顔――――おっぱいの大きな美少女だ。よろしく」
台無しだった。
すごく台無しだった。
もう今までの流れ全てが瞬時に瓦解しかねない程には台無しだった。
ホラミロ、皆、ぽかーんと口を開けて呆けている。
この状況、写真にとって椛にでも送ってみれば大受けするんじゃないだろうか。いや、実行はしないけれど。
隣を見ると、世亜が滅茶苦茶に不機嫌そうな顔をして朝顔さんを睨んでいた。
胸のことで嫉妬しているのだろうか。ならば仕方がない、ボクにはどうすることもできないところだ。しかし、そういう起伏に乏しいお胸様にも、ニーズはあるのだと聞いたことがあるきはするのだが――――あ、閑話休題。日和ってみた。世亜さんの視線が鋭さを増していくんですもの。この口調気持ち悪いな。
「おねぇちゃんおっぱいおっきいのー!?」
どんな返しだよ。と思わず口に出そうな発言の聞こえた方向を探した。
黒髪を肩の上で三つ編みにした小学生の女の子らしきが、天真爛漫な笑顔で朝顔さんに輝いた瞳と悪意なき笑みを向けている。
この女の子…旅館の宿泊客の一人だったはずだ。
「あぁそうだよ、おねぇチャンはすごくおっぱいが大きいんだ、巨乳美少女なんだよ。わかるかい?」
「きょにゅーびそーじょ?」おい。
「そう! 巨乳美少女! お譲ちゃん、お名前は?」おい、腐れ外道。お前ふざけ過ぎてるだろ。
「あたしのお名前は記式 期琴ー!!」この子、食べ物で釣ったらすぐ怪しい人にでもついていきそうな純真さだな。
「そうか、期琴ちゃん。あのね、美少女は正しき、そして巨乳は義しき、二つを兼ね備えた私は―――――『正義』なんだ」嘘過ぎてるぞその発言。まかり間違って真実かと誤認しそうになる。
「お姉ちゃんはヒーローなのー!?」いや……だから、
「そうさヒーローさ! ジャスティスなんだよ期琴ちゃん!」
…………もう突っ込む気すら失せてしまったのだけれど。
バカなのだろうか。いや、バカなのだろうな。もはやバカなのだろうな。
活き活きとした純真無垢な小学生に間違った知識と可笑しい見解を植え付けるのはもうこれは止めるべきなのではないだろうか。
というか朝顔さん、見た目優しい笑顔を浮かべたお姉さん、と言った風に見えないこともないけれど。
あたかも子供好きの好印象な若者に見えるよう、そう想われるように演じているけれど
必死に隠してはいるけれど―――――――――――――――眼が、血走っているんだよね。
体の心からこみ上げてくるとてつもない嫌悪を。
意識をぐちゃぐちゃに引っ掻き回されるような。
自らのその在り方を自らで否定しているかのような。
そんな、およそ理解に耐えない程の『気持ち悪さ』を持って、少女に接しているのだろう。
活き活きと、生き生きと。
あたかもそれこそが生の具現であるかのように、無邪気なその女の子と触れ合うことで。
『生物嫌い』の生無 朝顔は、自己否定を――――――切なく、拙く、体感している。
「こらこら期琴、あまりはしゃぐものではないよ」
ノータイの長袖白シャツに、ツータックのスラックスを毅然とした革ベルトで止めるスキンヘッドの初老らしきが、女の子の頭に軽く手を置き、行動を諫めた。フレームの凝ったサングラスのせいで瞳は確認できないけれど、顔の形は笑みをとっている。
孫と祖父、と言ったところか。
「お祖父ちゃん、あのね、きょにゅぅびそーぞのおねーちゃんと遊んであげてるのー!」
「遊んでもらっているんだろう、期琴。遊ばれている感が否めないがね…ふふっ」
苦笑する祖父に、駄々をこねる孫。成る程よくある光景ではあるが、今この場においてはどうなのだろう。勿論良い悪い、なんて狭量な偽善ではなく、頻度としてどうなのかという疑問だ。
しかし、女の子のワンピースにしろスキンヘッド殿のフォーマルな身なりにしろ、どちらも仕立ての良い洋服、装飾もさりげなく凝っているし、かなり裕福な家庭に身を置くものらしい。
祖父に寄り添うように位置を変えた孫の様子を見て、朝顔さんは眼を閉じて立ち上がり、したり顔でボクを一瞥してくる。
いや、お前がした行動を端的にまとめると、すごく滑稽極まりないことなのだけれど。まぁ、それをわざわざ口にするというのも、さしたる益のないことだ。
黙ったまま視線を返すことを労いとして、ボクはスキンヘッドへと視線を向けた。
スキンヘッドも、ボクを見ていた。
「私は記式 寧と言う、この子の祖父だ。名前でかまわないよ――よろしくね、少年」
笑顔を崩さぬままに、手を差し出してくる。それにボクは、手を差し出し返して答える。
暖かい手だった、そして、どこか違和感を感じる手だった。
「有外 頴娃梓です。えっと、こっちのは咲夜 世亜で――――――連れがすいません」
軽く朝顔さんの奇態について謝罪を述べておいた。
「いやいや、見事な演説だったよ」
笑って、
「しかし大変なことになったね」笑顔を消して言う。
「あぁ……すいません。うちのは本当に、いつもあんな感じで」
朝顔さんはあれでデフォルトなのだ。
「は?」首をかしげる寧さん。
「はぃ?」
疑問符を返されたので疑問符で返した。
あれ? なにかおかしなことを言ったのだろうか。失敗はなかったはずなのだけれど。
「あぁ………いやいや、そうじゃないんだが…」
「アァ……女将さんたちの件ですか」
しまった。盲点だったな、盲点になっている時点で平凡的には盲目的なのだろうけど。
「君は中々……おもしろいね」
そう言われて、ボクは「はぁ…」としか返せなかった。
そんなこんなで互いに自己紹介をしていく中で、互いの顔と名前だけは認識していった。
黒髪短髪の寡黙な従業員が秋元 永さん。
禿げ上がったひ弱で気弱そうな老人が、旅館経営者の汰疲 明真さん。
孫連れのブルジョワスキンヘッド、記式 寧さん。
それと安騎さんとボク。
以上が男性メンバー。
記式 期琴ちゃんが元気な小学生。腰あたりまでの長い髪。
愛党さんと過当さんは略するとして、縣 波木さんは、『殺人犯』被害者の奥様で、俯いて焦点のあっていない目をしている。旦那さんを亡くされたショックか。
母派 羽々(くには うう)さんはうるさいおばさんだ。茶毛の下の白髪が、少し汚らしい。
後は女中さんが三人、名前は…忘れた。まぁいいだろう。
これで9名、犯人を含めた、生存者達だった。
そうして、挨拶も一通り終えたところで、朝顔さんが声を高らかに、自慢の胸を張りながら、言う。
「やあやあ皆様ご苦労様。さてさてところで互いのことを少しでも分かり合えることができただろうか? いやいや、単に自己紹介しただけがどうなのだ、と言う疑問が出てくるかもしれないけれど。しかし名前と外見、そして喋り方をよくよく観察することで、対外の人間はその本質を看破する事ができるのだよ。それはなにも超人的な能力などではない。名前はその個人をあらわすために在るものだし、外見は見かけで人を判断するためにある、そして声音や声量と言うのは、その個人の現在の状態や感情を表す大きな材料となりえる。そう、それらの材料を検討し、判断し、適合し、推論を重ねることで、私は私なりの推理をした。曰く――――――看破することができたのだよ。犯人を、殺人鬼を、殺人者を、人殺しを、殺し人を。これだけのことで、それだけのことで、意図も簡単に私は理解できた。この犯人の幼稚さを、稚拙さを、これはそう―――突飛な犯行だったんだよ。考えればわかることだろう。こんな山奥まで来て、計画的な反抗を行うことには、何のメリットもないんだ。成功したところで、逃げ道がない。それは計画としては破綻していて、欠陥している。使い物にならない、ということだ。故に突飛。これはわかるね? いや、わかってもらわなければ困るのだけど。まぁ―――つまり、この計画は思いつきで、言うなれば刹那的な感情と思想によって行われたもの。こんなところまで来て置いて、そんな激情が芽生えるんだから、ままそれは相当なことだったのだろうね。
ところで考えても見ればいい、殺されていたのは男性と女性。女将と、縣さん、と言ったかな? とまずその男性だ。私は何も下種な考えでこれを述べるつもりがないと言うことを先に言っておくとして、これは非常に簡単な設問だ。あまりに、簡単だ。まぁ、もったいぶるのももったいない、言いえて妙なのはともかくとして、皆もそろそろ聞きたいんじゃぁないか? 犯人を、犯人の名を」
笑って、
「さて――――――――――縣 波木さん。アナタが―――――2人を殺したのだろう?」
なんかめんどくさくてすいません。笑
亜、て言うか、即刻改ざんしました!
巻き毛がいきなり変わりすぎてましたね。さっきの笑