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act.2

いや、なんというか、すいません。

act.2





ボクは旅館の廊下を走る。

速度は一定、稼動できる限りの――――文字通り現在の状態での限界速度、即ち全力で。


風を切る音が耳に木霊し、古びた床板が悲鳴をあげる。

この旅館は、周囲に邪魔になる建物が存在しないため、民宿としては大きな規模を誇っている。とガイドには書いてあった。

建物の作りとしては、カウンターや厨房、大広間、そして名物の大露天風呂などを備える本館。

そこから、100m先にあるのが、今ボクらがいる分館。

分館は、3階建てで、階ごとに4つの部屋があり、計12の部屋がある。

というか、この館、部屋同士の距離が異常に離れている。

およそ25mはあるだろう。

部屋もそれなりに広いから、概観のバランスとしてはおかしくないけれど、建物構造としてはおかしく、部屋どうしに、10mは隔てがある。

さらに近代建築物としては、学校以外には例を見ないほどには絶滅種の3階以上なのにエレベーターがついていない、物件だ。

いや、近代の建物じゃないかもだけれど。というか、そもそもに旅館なのだから、エレベーターが在ったなら少し情緒にかけるけれど。

というか、要するに、だからなにかというと、


「階段までが、長いんだよ……!」


ボクらの部屋は、3階の一番奥。

奥というのは即ち、唯一の移動手段である、階段から、最も遠いということだ。

長い艶金色の前髪を鬱陶しく思いながら、ジーンズのバックポケットへと手を伸ばす。

疾走の速度は緩めず。中から、光沢のある、濃いブルーのケータイを手にとった。

すぐさま電話帳機能から咲夜 世亜の項目を選択し、callする。

呼び出し中の電子音を聞かせるそれを片手に、階段を飛び、跳ねるように階下へ向かう。


他の部屋に連れ込まれている可能性などを考えなかった訳じゃない。

この場においては、逐一全ての部屋を回り、無事な人とそうで無い人との確認をするのが良識的には先決だろうけれど。

それは朝顔さんがやってくれるだろう。

言わなくてもわかる、出来のいいやつなのだ。

あいつが仮に犯人に遭遇したとしても大丈夫だ。

あいつが死んでも、世亜を逃がすくらいのことはやってのけるだろうし。

それに、もしも犯人に人体破壊を施行されそうになっても。

むしろ、破壊しようとしてくれた方が、朝顔さんは、その生存率を高める。

あいつなら大丈夫だ。

多分、おそらく、きっと、いつか。

まぁ、そもそもに世亜は勝手に他人の部屋へ入ったりはしない。

くだらない思考の一人歩きの終わりとともに、階段を降り終わり、ボクは分館の玄関を走り出した。

ブーツだと異様に走りにくい。

よく軍隊の連中はこんなので荒地を走破するような、とか思ってみる。そもそも、ああいうのは、走破力云々よりも、耐久度などを重視しているのだろうけど。

どうでもよかった。


分館の玄関には、朝顔さんとボク以外の靴がなかった。

ということは、分館には今、朝顔さんしかいない。

部屋で死んでいた人の靴がなかった、という点ではおかしいけれど、今はどうでもイイ。どうせ死体は別の場所で殺害して加工した後にボク達の部屋へと置いていったのだろうから。

それに、朝顔さんは簡単に死ぬ役者じゃないだろうしね。

長いコールを聞かせていたスピーカーが、ぷっ、と接続音を鳴らした。


「もしもし、世 「おかげになった電話は、現在、電波の届かない場所にあるか、電源が、入っておりません…」 ……っち」


ケータイを閉じ、バックポケットにしまいなおす。

悪い予感しかしない。

とまず、分館から本館までの、舗装された石畳をひたすらに走った。









☆☆☆☆☆☆☆☆





side ((生無 朝顔





「せっかちだなぁ……」

まぁ、しょうがないか。と独り言を吐き出してみた。


あの、欠陥は受動的にしか動かないながら、一度行動を開始したら迅速だ。

綻びを、自らで埋めようとしてなのか。

その自らが、最も矛盾と綻びをはらんだ存在なのに。

それともなにか、あの赤眼だからこそ特別なのか。


………まぁ、なにもいうまいさ。


彼は親しい友人であり、命の恩人である。

ならば、受け入れようじゃないか、異常だろうと欠陥だろうと。

そんなもの、友情や恩義で強くなる人間の前では、ただの戯言だ。

ともあれ彼は、咲夜さんを探しに出たのだろうけれど。

注意不足だな、後々で注意しておこう。

彼女の荷物。

トランクとは別に持参してきていた、トートバックが部屋にない。

おそらく咲夜さんは、のんびり風呂にでも浸かっているのだろう。


あそこの風呂は素晴らしかった。

ここに来る前に、長時間荒地をバスに揺られるというあれだけの苦行を、鑑みても素晴らしい。

ああいう温泉に常に入らたら勝ち組なんだろうなー。

……高校卒業したら、ここに就職しようかなぁー。すでに高校卒業後の進路を無理やりに決定されている私にとっては、そういう選択の余地が、少しだけうらやましく思えた。

迷わなくてもすむというのは、けして良いことなどではないのだから。


いや、閑話休題。

まぁ、殺人鬼そのへんは心配ないとして…………問題はこれだな。

目の前の頭さん(仮)だ。

いや、事件云々。

危険などももちろんのことあるのだろうけれど。

それ以上の前提として。



正直、臭い。



溢れ出る鮮血の、

ひしゃげた骨の、

潰された内蔵の、


縮められた筋肉の、

生々しい匂い。



それが、堪らなく不愉快だ。

足元が不安定になって、自分の座標がわからなくなって。

自分が自分でなくなるようで。


私は昔から、物心ついたときから、生き物が、苦手だった。

堪らなく、嫌いだった。

理由などない。生無 朝顔という人間を形成する根幹がそう決定付けられているのだから、理由などない。いや、探したこともない。そうであればそうで、そこまでなのだから、それ以上どうしよう、という殊勝な頑張りを実行するつもりなど、私にはない。


だからそんなこんなで初めから始まりからきっと終わりまで、ただ、どうしようもなく、生きている物が、苦手だ。それは現在形で過去形だし、未来にもわかっている。


生き物の動きで目が疼き、


生き物の匂いで鼻が狂い、


生き物の音で耳が壊れ、


生き物に触れると、気が触れた。


それらを考え、さらに私は歪んだ。


見たくない臭いたくない聞きたくなくない触れたくない視たくない匂いたくない聴きたくない振れたくない有りたくない在りたくないィぃぃぃィぃ。


そしてそれを拒絶して断絶して嫌って嫌いきっているその私ですらが

『生』を内包しているという事実に、自分の存在を疑って、それがまごうことなき真実で事実であることから、さらに自分がおかしくなるのを、幼きながらに理解して――――順応しなければならないことを確認していた。

生きたくないーーーーーーけれど、死にたくはない。

そんな衝動で、私は自分を破壊し尽くしてしまいそうだった。


……まぁ、それも、あの欠陥や、お姫さまと触れ合うことでだいぶと収まってはきたのだけれど。

それでもやはり、ああいう『外れた』存在でない、

外れていない存在には、未だ慣れることができない。


いくら死に方がどうであれ、外れていないのであれば、それは嫌悪の対象だ。


「気持ち悪い…」


それが、一般的な感情から出たものとは遠かろうが、言葉にしてみれば大差はない。

気持ち悪いのだ。


しかし、人が死を嫌悪するのはそれが自分の死を想起させるものだから、と聞いたことがある。

なんだかんだと言いながら、そういう点で、他人と自分を相互評価できている。

他人と自分は違う、と言いながら、その死を自らにも当てはめている点で、


『自分は自分だ。』


そう思い込んでいる連中が大半なのだろうとわかる。

たかだか造詣が違おうが

たかだか思想が違おうが

たかだか能力が違おうが

性格が違おうが、肌色が違おうが、性別が違おうが、年齢が違おうが。


そんなもの、矮小な個性程度にしかならない。

そんなもので、他人との差別化を諮ろうなどと、愚かしいことだ。


閑話休題。


ともあれ、一人でいるのは危険なのかもしれない。

あの欠陥やろう、いたいけな美少女を危険に晒すとは…。

腕を組んでみた。特に意味はない。

しかし、おっぱいが邪魔だった。

私は、胸が大きいのだ。

いや、それだけでなく、自分でも認めるくらいにはグラマーなのだ。

ナイスバディなのだ。


え? 他人は認めているのかって?

そんなこと知らん。

こんな問題は他人に頼らずとも自己完結させればイイ。その程度のことだ。

まったく、いちいち評価を人に頼るな。


しかし、私は女の子、こんな危険な場所に一人、というのは非常にまずい。


「はぁ~……ザオリ○」


復活させようとしてみた。

頭に反応はない。

ただのしたいA(あたま)B(そのほか)のようだ!

私は痛かった。


そしてやっぱり無理だった。

わたしにはMPがないようだった。

MPがないというのは、これは前線で戦えと、そういう天のお導きなのだろうか。

ん~。

前線で戦うのは、性根に合わないんだけれどな。 性根どころか不向きでもあるし。

まぁ、いい。

ともあれ彼等と合流しないとな。

こんなところでむざむざと死にたくはない。

しかし、走ろうか。

歩こうか。

そもそもこんなところまでわざわざ面倒くさいけれど頑張って休養にきているのだし、疲れたくはない。

いや、面倒はすでに起こっているから、この後やってくるであろう疲労からは間逃れないからあれなんだけど。

それでも、温存はしておきたい。


でも、やっぱり危ないしなー。

ん~~~~~~~。

まぁ、なるべく早足で本館へ向かおう。と、私は歩き出した。






side out.



☆☆☆☆☆☆☆☆





本館の玄関には、女将が「思わず表紙がいして見たこの漫画…BLじゃねぇか!」的なびっくり顔で出迎えをしてくれた。

いや、偶然だろうけれど。


女将は、突然走り込んできたボクに驚き、「きぇぇぇぇっぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」うるさい。とりあえず、腰を抜かして、その場にへたり込んでいた。


いや、そこまで驚かれると申し訳ないというか。


「あらぁ………どうかなされましたかぁ?」


叫び声の後の割には、えらくのんびりとした口調だった。

立ち上がるのものんびりとしていた。

なんか、間延びした口調で、咀嚼しにくいしゃべり方だ。


「あー、とすいません。警察、お願いします」

簡潔に用件だけ述べる。人が殺されてましたー。なんて同道と公言するほどの度胸はボクにはない。嘘ですが。


「……………はぃ?」


ゆっくりと、首をかしげる女将。

何だか、平和な人だなー。と和んだ。

あれだ。世界対戦はじまっても、「まぁ~大変~」とか言ってるけどなにもしなさそうな人だ。

わりとそれどころじゃなかった。


「えーとですね。ボクらの部屋で、人が死んでました。あの、夫婦できてらした。物憂げな、細身の男性なんですけど…」


「……あぁー。(あがた)さんですかぁ。縣 明博(あけひろ)さん……………って、………亡くなってらした、んですかぁ?」正確には『殺されて』いたのだけれど、まぁどちらでもおなじことだ。

死んでいるのだから―――――同じことだ。


しかし―――うーん。なんかテンポがずれる。

あれ?

というか、もうちょっと驚くかと思ったんだけれど。

ボクが駆け込んで来たときの方が驚いてたよなこの人。

…………………うるさいよりはマシかな。


「はい。だから、警察を呼んでいただけると、助かります」


本当は自分のケータイでかければいいのだけれど、それもやぶさかでない事情があったりしてしまうのだ。


「はぁい。わかりましたぁ……」


間延びした発言のあと、カウンターへと向かって行く女将あの背中に、僕は声をかけた。


「えと、ボクの連れの、女の子みませんでした?

あの、髪が長い方の」


女将は、受話器を片手に、ゆっくりと振り向いて、


「ぁあー……えとー、露天風呂のほうへいらっしゃるようでしたよぉー?」


そういえば露天風呂は男女の交代が時間性だったはず。

そして、そろそろ交代の時間だ。

交代には、5分のラグがある。

その時間帯は、男女の時間が重なる。

…………あー。んー。あぶ、ない? のか?

正直、女将が無事な時点で、世亜が狙われる、という可能性は下がっていると思う。

この本館に班員が来ていない、ということが証明されていないこともないのだから。

しかしそれは、逆的に朝顔さんが危険になっているかもしれないということで…まぁいいか。


「ほかのみなさんは、無事なんでしょうか?」


「あぁ~。従業員のみなさんなら~今は厨房で夕食の準備をしていますけれど~。ほかのお客さまは、どうされたんでしょうね~?」


いや、無責任な。

………まぁイイか。まずは世亜だ。

流石に館内で走るのは気が引けるから、できるだけ早足で行こう。


「あぁーのぅ、ちょっといぃですかぁねー?」

女将に声をかけられた。


この人、声掛け事案の犯人には絶対なれないな、とか思った。

あれだ、話の途中で本筋が摩り替わるタイプの人だ。


「えぇとぉー、縣さん……どんな感じで?」


「えと…とりあえず、他殺だと思います」


あれで自殺はないだろう。殺された、以外だと証明できるならしてほしい。やっぱややこしくなるからいいです。


「えとぉ~、じゃぁ、貴方が犯人ですかぁ?」


「……いえ、少なくともボクとボクの連れの二人は違います」

そう聞かれてまともに答えるまともな人間はいないと思う。


「そぉですかぁ~。………では、ごゆっくりぃ」


「はぁ」


ごゆっくりとか、無理なんじゃなかろうか。

まぁいいや。

なんだか、考えるのが無駄な気がしてきた。

フロントを抜けてすぐ、『湯』と簡潔に書かれた暖簾をくぐった先が、露天風呂の男性更衣室だ。

気配を殺して、引き戸へ近づく。耳を澄ます。扉のむこうに気配はない。

扉を開け放ち、静かにパーカーと靴下を抜いで、浴場でも動きやすいようにする。

デニムの裾をあげながら、周囲を探るけれど、誰もいないようだ。


浴場へと入る。

湯気がすごすぎて辺りをうまく伺えない。

温泉の湧き出る音に混じり、かすかに、不自然な水流の音が聞こえる。

息の音と、足音を殺しつつ、音の方へ近寄る。

シャワー、か?

犯人だとしたなら、体についた匂いなどをとっているのだろう。


「……………っ」


一気に距離をつめ、背後をとる。


「……あ、っな!?」


気づかれたようだけれど、反応が遅い。

振り向かれた瞬間に、その両腕を頭の上で交差させ、壁に押し付け、自由を奪う。


衣服を身にまと、…………っていなそ、………の人、………物は

あれ?

この身長……

この、艶やかな茶髪……

透き通った白磁の肌に通った鼻筋。大衆にさらせば、朴念仁ですら簡単に魅了するだろうその造詣をしている―――少女。

大きな眼の

瞳だけが


かすかに――――――――――――――――『緋い』。


「……なにしてくれてんのよ……。あんた」


全裸で押さえつけられている緋い眼の少女は、咲夜 世亜だった


やっとヒロインでて来ました。


しかも全裸で。笑

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