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第9話 闇で呪いを解く



 午後の授業も終わり、放課後。


 この魔法学校は放課後の自由時間が結構長い。

 多分、もとは恋愛ゲームなので放課後に攻略対象と長い時間を過ごさせるためだろう。


 私もその時間を使って、ロメオと会って話したい。


 もちろんロメオと時間を過ごして好感度を上げるため、とかではない。


 ただ私の闇魔法を試したいのだ。


「でもその前に、少しだけ練習したいわね」


 私は学校の裏庭のような場所で一人になって、少しだけ闇魔法を使ってみる。


 覚醒してしまえば、他の魔法と発動するのには大差はない。


 手の平の上で黒い靄を出して、適当に形を球のようにしたり四角くしたり変えてみる。


 うん、出せる。


 でも、ここからどうやって魔法の効果を出すかがわからない。


 そもそも闇魔法で出している黒い靄を人に当てたらどうなるかが、まだわからない。


 なんとなく害はありそうなんだけど……弱体化くらいかな?


 あっ、そういえばゲームの中でもラスボスのリオネと戦っている時に、結構弱体化の魔法が飛んできた気がする。


 その時のエフェクトが、弱体化の攻撃を喰らったキャラに黒い靄が襲うような描写だったはず。


 だからこの黒い靄は人に当てたら、おそらく身体能力などが下がる効果があるのね。


 私は手の平に出しても、特に何も起こらないわね。


 これは私が制御しているから、というわけじゃなく、ただ使用者には効かないというだけみたいね。


 この黒い靄を使うだけでもいろいろとできそうね、主に悪いことにだけど。


 でも闇魔法はこれだけじゃないから、もっと学ばないと。


「よし、ちゃんとできるみたいだから、図書室に行こうかしら」


 図書室に行くと、今日もロメオは昨日と同じ場所、同じテーブルの椅子に座っている。

 ロメオの後ろには大きな窓があって、優しい日差しが入っていて彼を照らしている。


 とても絵になる光景だ、ゲーム画面よりも直接見た方がロメオの美しさが目に焼き付くわね。


 目元に包帯を巻いていなければ、もっと美しい光景になったはずなのに。


 絶対に治さないとね。


 私が近づいていくと、ロメオは足音で気づいてこちらを向いた。


「君は、リオネかな」


 足音でわかるのか、見えないはずなのに先にロメオから声をかけてくれた。

 ゲームの推しが目の前にいて、さらには声をかけてくれるなんて。


 前世の日本で生きていた頃では想像もしなかったわね。


「ええ、リオネよ。ロメオ……殿下」


 昨日と同じようにタメ口で話してしまったけど、ロメオは第二王子だった。


 すぐに気づいて言い方を変えたけど、ロメオは苦笑していた。


「ああ、気づいたんだね」

「昨日は第二王子のロメオ殿下に無礼な真似をして、大変失礼いたしました」

「問題ないよ。泥だらけで帰ったら僕の側近がいろいろと勘違いして、リオネを討伐しに行こうとしていたけど」


 それは全然問題あるんじゃない!?


 討伐って怖すぎる……!


「そ、それはご容赦を……!」

「ふふっ、ご容赦してほしいなら一つ頼みごとを聞いてくれる?」

「なんなりと!」


 どんな頼み事かはわからないけど、討伐されないなら……!

 ロメオは笑みを浮かべてお願い事を話す。


「昨日と同じような態度、口調でお願いするよ」

「えっ……昨日と同じ?」

「うん、友達みたいな感じでね」

「で、ですが第二王子のロメオ殿下にそんな態度では……」

「頼みごとを聞いてくれるんでしょ?」

「うっ……」

「二人だけの時でいいから、ね?」


 くっ、目元は見えないけどカッコよくて可愛い笑みを浮かべているのがわかる。


「わ、わかりました……いえ、わかったわ」


 前世の推しのロメオに頼まれては、首を縦に振るしかなかった。


 私が了承すると、ロメオが嬉しそうに一度頷いた。


「ありがとう。友人が欲しいと思っていたから、無理を言ってしまった」

「あっ……そ、そうなのね」


 そうだ、ロメオは八歳の頃から呪いを受けているから、同年代の友達は一人もいないんだった。


 第一王子と仲も悪くて、妹君とも年が離れている。


 友達も兄妹も話す人がいなかったという少年時代を過ごしているのがロメオだ。


 だからロメオはゲーム主人公のアリエスと仲良くなった時に、最初は「アリエスは初めてできた友達だ」と思っているんだけど、徐々に女性として惹かれていく。


 友愛と恋愛が区別がつかない、というロメオのストーリーもとても良かったことを覚えている。


 ……ということを思い出したけど、この世界では私がロメオの最初の友達になってしまったわね。


 でも私とロメオはくっつかないし、私はずっと友達でいられる。


 それならアリエスは友達としてじゃなくて、最初から女性として接するだろうから、恋愛関係に発展するのが早くなるかもしれない。


 うん、別に私がロメオの最初の友達になっても問題はないわね。


「ええ、私達は友達だわ!」

「う、うん、ありがとう」


 ロメオが少し引いているようだけど、私は彼と友達になることを決意した。


 私も友達がいなかったから嬉しいしね。


「それで、今日はどんな魔法をしようか。昨日は水と土だったから、今日は火と風でもやってみる?」

「あっ、それなんだけど、ロメオ。少し聞きたいことがあるの」


 混合魔法の話になったから、私は一度話を止める。

 一緒に魔法をやるのも楽しいけど、今日やりたいのは……彼の呪いを解きたいのだ。


「ロメオのその目は、呪いでいいのよね?」

「……うん、そうだよ。小さい頃に呪いの魔道具、呪道具でやられてしまってね。幸いにも命は落とさなかったけど、その時の影響で目が見えないんだ」


 うん、やっぱりゲームの設定通りね。


 呪いだったら、私の闇魔法で解くことができるかもしれない。


「最上位の回復魔法をかけてもらっても治らないんだ。だから――」

「――治せるわ」

「えっ?」

「昨日、この図書室で見つけたの。呪いを解く方法を」

「っ……それは、もう知っているよ」


 あれ、なんか思った反応と違う。

 嬉しそうに「本当か!?」と言ってくれると思ったんだけど。


 知っているって……あっ、もしかして光魔法の回復魔法のことかしら?


 確かに正規の方法だと、彼の呪いは光魔法でしか解けない。


 効き目が弱い呪いなどは水魔法の回復魔法で解けるんだけど、彼の呪いは本来は人を殺すほどの強い呪いだった。

 その名残だから、普通の回復魔法では効かないのだ。


「呪いは闇魔法で構成されていることが多いから、光魔法の回復魔法だったら効く可能性が高い。でも国中で光魔法の使い手を探してもらっているけど、いないみたい」


 ゲーム主人公は三年後、いきなり光魔法に覚醒するという設定だ。


 そう思うと、闇魔法の対に位置する光魔法だから、何か覚醒する方法がありそうね。


 闇魔法の覚醒方法は絶望するだったけど、光魔法も何かしらありそうだ。


 それはゲームでは明かされていなかったけど……いや、それは今はいい。


「水や光の回復魔法じゃなくて、違う方法よ」

「えっ? そんなのあるの?」

「はい。えっと……」


 私は闇魔法の本を開いて、その魔法について説明する。


「正確には回復というよりは、呪いを別の物に移すという魔法よ」

「別の者? 僕は他者にこの呪いを移したいとは思っていないよ」

「あ、他人に移すという方法じゃありません。その呪いを何かしらの道具に移して、呪いの魔道具にするんです」

「ん、なるほど、道具に移すのか。そんな方法があったなんて……」


 私が闇魔法を手に入れて、まずやりたかったのがこの魔法だ。


 呪われていて目が見えない、という効果を魔道具にすることができる。

 道具に移して呪道具になったら、それは壊すか王族であるロメオに任せて保管してもらえばいい。


 呪道具は闇魔法で壊すか光魔法で浄化するしかできないから、移し終わったら私が壊す感じかな。


「そんな方法聞いたことないけど、どんな本に書いてあったの?」

「え、えっと……昔の古代魔法みたいな、難しい魔法が載ってある本よ」

「そうなんだ……やっぱり魔法学校の図書室はすごいね。僕も点字だけじゃなく、普通に読めたらよかったんだけど」

「こ、これから治ったら読めるわ」


 すみません、本当は闇魔法の本です……。

 でも本当のことを言ったら危ない魔法だと思われるし、私自身が危ない奴だと思われてしまう。


 嘘をつくことは心が痛むけど、それでも知られちゃいけないことはある。


「その魔法の本を教えてほしい。王宮に戻り、宮廷魔法使いに会得してもらえれば」

「あっ、いや、その……」


 それは多分、というか絶対にできない。

 この方法は、闇魔法でしかできないから。


「こ、この魔法は全属性の混合魔法で、とても難しい魔法だと思って……!」

「全属性の混合魔法……それは確かに難しいね。宮廷魔法使いに全属性を使える者は少ないし、混合魔法ともなると……」


 咄嗟についた嘘だけど、どうにかなりそうだ。

 四大属性の魔法を全て扱える者もほとんどいない。


 宮廷魔法使いだったらいるかもしれないとも思ったけど。


「全属性魔法を使える者はいるが、少し頼みづらい者だ」

「そうなの?」

「うん。兄の第一王子の一派にいるから、頼んでも断られるかもしれない」

「な、なるほど」


 そういう派閥争いもあるのね。

 王子の呪いすら解かない、なんて最悪な派閥争いだけど。


「では、私がやってもいい?」

「リオネが?」

「ええ、私は全属性使えるから」

「そういえばそうだったね」


 四大属性の全部使えるのは本当だし、嘘はついていない。


 この魔法が本当は闇属性魔法、というだけ。


「でもとても難しいんでしょ? リオネは混合魔法にも慣れていなかったみたいだし」

「やるだけやってみるだけよ。失敗しても何も起こらないだろうし」

「でもこれは呪いだから、もしかしたらリオネに……」

「大丈夫、危ないと思ったらすぐにやめるから」

「だけど……」

「それになんとなく魔法のイメージはつかめているから、失敗する確率も低いと思うの」

「本当に? それはすごいね」


 全属性魔法の混合魔法、と言ってしまったので、とても驚かれてしまっている。


 本当は闇魔法の中でもそんなに難しい魔法じゃなさそうなんだけど……。

 呪いをかける魔法もあるけど、それはもうちょっと難しい。


 ただ呪いを移動するだけの簡単な魔法、ではある。


 少し特殊な方法だから、いろいろと大変そうではあるけど。


「私がやってもいい? それとも私は友達の呪いを解けるのに解かないっていう、最低な者になってほしいの?」

「っ……その言い方はズルいなぁ」

「ふふっ、友達ですから」

「わかったよ。やってほしい、リオネ」

「ええ、もちろん」


 絶対に失敗できないし、失敗なんてしない。


 私の推し、ロメオを救うんだから。


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