第8話 闇落ち原因の友達
ロメオ・サルトヴァーレ。
このサルト王国の第二王子で、継承権を持っている王子の一人。
銀色の髪に、王室の血を引き継いでいるという証の、青紫の瞳を持っている。
しかし、今は呪われていてその青紫色の瞳は見えない。
ロメオが八歳の頃、王位継承権の争いが原因で第一王子の母親が、呪いの魔道具で彼を呪ったのだ。
幸いにも命を落とすような呪いではなかったが、目が見えなくなってしまった。
呪いは強くて普通の回復魔法じゃ治らず、そのまま一生目が見えないかもしれなかったが……。
ゲーム主人公のアメリアが魔法学園に入学した後に、彼女の光魔法の回復魔法で治る――というゲームのストーリーだった。
ロメオというゲームキャラは人気が高く、彼との恋愛ストーリーも良くて人気度が一番だったはずだ。
まあゲーム主人公が彼の目を治すから、好感度が高い状態から始まるから攻略しやすいということもあったけど。
それでも一番人気の攻略キャラ、それがロメオ・サルトヴァーレだ。
かくいう私も、ロメオの恋愛ストーリーが一番好きだったし、最推しキャラだった。
そんな推しのロメオと、もう知り合ってしまった。
確か年齢は同じだから、今は十六歳のはずだ。
ゲームではとても印象的な青紫色の瞳だったけど、会った時はもちろん見えなかった。
「というか、私は前世の推しキャラとあんな距離で喋っていたのね」
今思うとすごいことね。
今日会うけど、平常心を保てるかしら……。
いえ、頑張らないと。
じゃないと闇魔法を手に入れた意味がないから。
「待ってて、ロメオ」
私があなたを健康体にしてみせるわ。
さて、ロメオを健康体にしてみせると意気込んでみたはいいけど。
今日は普通に学校がある平日だ。
この世界は日本のゲームなので、普通に週七で四季がある一年間だ。
今は四月の入学したてなので、過ごしやすい気候だ。
朝の準備をして制服に着替えて、また馬車に乗って王都へ続く転移門まで向かう。
「記憶を取り戻してから初めての学校の授業ね」
前日に学校に来ているけど、今は多くの生徒が登校中だ。
全員が貴族の生まれで、平民は一人もいない。
その中で平民として来るゲーム主人公のアリエスは大変ね。
学校のクラスはAからCまであって、魔法の熟練度や成績によって決まっている。
私はもちろんAクラスだ。
確かゲーム主人公のアリエスは編入生だから、Cクラスからだった気がするけどすぐに上がれるくらいの才能は持っているはず。
アリエスは光魔法の持ち主で、四大属性も使える才能の持ち主だからね。
そう思うと、アリエスと私は本当に相反する存在ね。
全属性を使えるのは同じだけど、光魔法のアリエス。闇魔法のリオネ。
ラスボスとなるために生まれたかのような存在ね、私は。
まあ絶対にならないけど!
とりあえず、Aクラスで魔法の授業だからしっかり受けないとね。
そして、数時間後。
「リオネさん、とても上手ですね。先週とは大違いです」
「ありがとうございます、先生」
クラスのみんなの前で全属性の魔法を同時に使っていた。
もちろん闇魔法は除いているけど。
「授業に積極的に参加するようになりましたが、心変わりする出来事でもありましたか?」
「そ、そうですね。少しだけ」
前世のことを思い出したから、なんて言えない。
やっぱり魔法は楽しい、全属性使えるリオネの身体だからより一層ね。
でもあまり悪目立ちすぎないようにしないと。
ここは貴族が多くいる学校だから、変なやっかみを受けかねない。
「リオネ、今日の授業はすごかったわ」
「ええ、とてもカッコよかった!」
変なやっかみではないけど、二人の令嬢が話しかけてきた。
学校に入学して一カ月経ってから、リオネの友達になってくれた二人。
赤色の髪をしたヘマと、青色の髪をしたララ。
二人とも男爵令嬢で、人当たりの良さそうな笑みで私に話しかけてくれた。
「ヘマ様、ララ様、ありがとうございます」
「やだわ、リオネ。私達のことは呼び捨てでいいのよ」
「そうよ、リオネ。私達、友達でしょう?」
そう言って笑う二人に、私も笑みを作って返す。
「いえ、まだ会って一週間ほどしか経っていないクラスメイトです」
「えっ……」
「ではごきげんよう、ヘマ様、ララ様」
私は一礼してから、二人のもとを離れて食堂へと向かう。
もう昼休みなので、ご飯が楽しみだ。
ヘマとララ、この二人にした態度は傍から見れば最低だろう。
友達でしょ、と言ってきた二人を一蹴。
もちろん、ちゃんと理由がある。
ヘマとララ、この二人はヘランお義姉様の取り巻きだ。
私の味方や友達じゃなく、明確な敵である。
ゲームの闇落ちするリオネは、ヘマとララと友達になって数カ月過ごした後に裏切られて捨てられる。
正直、この二人とは絶対に絡みたくない。
前世の佐藤莉緒が友達に裏切られた記憶が蘇ってしまうから。
だから二人とは友達なんかにならず、離れて過ごすに限る。
もともとあっちも友達とは思ってないだろうしね。
と、思っていたんだけど……。
「ねえ、リオネ。なんで私達を置いていくの?」
「友達じゃないなんて、酷いこと言わないでよ」
なんでついてくるの、この子達。
大きな食堂で四人席のテーブルに、私達三人が座って食べている状態だ。
私は一人で食事に集中して味わいたいんだけど、二人が左右から言い寄ってくる。
「聞いているの、リオネ」
「お喋りしましょ、いつもみたいに」
いつもみたいにって、先週位に初めて話しただけでしょ。
それもあなた達からいきなり「友達になりましょ!」「話しましょ!」と言ってきて、前世を思い出す前の私はタジタジになっていただけ。
それでもゲーム中だと一カ月もすれば慣れて、友達になったとリオネは思っていたんだろうけど。
残念ね、あなた達の目論見はすでにわかっている。
「結構です、ヘマ様、ララ様。あなた達はお義姉様とお話しください」
「っ、なんでヘランさんと私達が?」
「え、ええ、私達は別にヘランさんと親しくは……」
「『さん』付けをしているのに、親しくないんですか?」
魔法学校の中では貴族が多いので、普通は敬称として「様」を付ける。
親しくなれば呼び捨てや「さん」付けで呼ぶようになるので、この二人がヘランお義姉様と仲が良いのは確かだ。
……私はロメオに対して使っていなかったけど。
前世を引きずってしまっていたから、許してほしい。
「あっ……」
「えっと、その……」
男爵令嬢の二人が、立場が上の辺境伯令嬢と知り合いじゃないのに「さん」付けで呼ぶことなんてありえない。
……そう思うと、この二人は最初から私のことを「さん」付けで呼んできたし、あげくに呼び捨てよね。
私も一応、辺境伯令嬢なんだけど。
婚外子だから、舐められているのかもしれないわね。
「私は婚外子なので、私と仲良くなるよりもお義姉様と仲良くなったほうがいいですよ」
「そ、そんなの関係ないわ、リオネ」
「そうよ、あなたが婚外子だなんて関係ないわ」
「そうですか。一つ質問なのですが、私が婚外子ということはどこで知ったのですか?」
「えっ、今あなたが……」
「驚いていなかったですよね。最初から知っていたかのように」
「あっ……!」
やはり、二人は私が婚外子だから舐めていたのだろう。
そして魔法学校で私が婚外子ということを知っているのは、お義姉様しかいない。
はぁ、お義姉様は本当に私が嫌いなようね。
お父様に私が婚外子ということは内緒にするようにと言われているのに。
「もういいですか? 一人で静かに食事したいので」
「っ……」
「……婚外子のくせに」
少し悔しそうな表情をして、捨て台詞を吐いてから去っていった。
最後に言ったのがヘマなのか、ララなのか。
どっちなのかわからないわね、髪色でしか判別していなかったから。
とりあえず、静かにご飯を食べることにした。
うん、魔法学校の食堂も美味しいわね。




