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第7話 前世の記憶


 食事を終えて寝る準備をいろいろと終えて、私は自室で寝転がっていた。


 今日はいろんなことがあって疲れたわね。


 疲れたのに眠れないのは、今日いろいろありすぎたからだろう。


 前世の病気で伏せていた現代日本の記憶を取り戻してゲーム世界に入っていることを認識してから。


 楽しく動き回って、魔法の授業をして、闇魔法の本を読みに行ったらロメオに会って……。


 あっ、闇魔法の本!

 一冊持ち帰ったことを忘れていた。


 机の上に置いていたので、それを持ってまたベッドに倒れこむ。


 寝転びながら本を読むけど、ちょっと令嬢らしくないかしら。


 明日から頑張るから、今は見逃してほしい。


「これも魔法の名称が書いてあるわね。本当にいろいろとあるみたいだけど、全部できるのかしら?」


 だいたいの闇魔法の本が、闇魔法でできる魔法の現象と、それによって悲惨な事件が起きましたよっていうことが書いてある。


 しかも闇魔法はその効果が半永久的に永続する物が多く、最近でも使われている呪われた魔道具などは、数百年前に作られた魔道具がほとんどらしい。


 数百年前に闇魔法の使い手が魔道具を作って、そのうちの一つがロメオの視界を奪っている呪いなのね。


 くっ、あれをどうにかしたいわ……!


 でもどうやって闇魔法を覚醒させるのか、全然わからないわね。


 この本にも書いてな……えっ。


 終盤のページで、目次には記されていない事柄が書いてある。


 主に、過去の闇魔法の使い手の境遇などについて。


 そんなことが書かれた本は、今までなかった。


 この本によると、過去の闇魔法の使い手は悲惨な境遇に置かれていることが多いと。


 それこそ、彼らが悲惨な事件や呪いの魔道具を作った理由がわかるほどに。


 この本では『彼らが悲惨な境遇に置かれていなければ、このような事件を起こさなかったかもしれない』とあったが……逆かもしれない。


 そのような悲惨な境遇にいたから――闇魔法に目覚めた。


 正確に言えば、闇魔法の才能の持ち主が絶望することによって目覚めるのだろう。


 ゲーム内のリオネ・アンティラもそうだったから。

 やはり闇魔法に於いて、絶望するということは必須のようだ。


 私も、ゲーム内のリオネくらい絶望しないと闇魔法に目覚めないのだろう。


 そこまでして闇魔法を使いたい、とは思えない――あの魔法を知る前は。


 今日、他の闇魔法の本を読んでいて「これは使いたい!」と思った魔法がある。


 もちろん人に害を与える魔法ではなく、むしろ助ける魔法だ。


 あれを使いたいから、私は闇魔法を覚えたい。


 だから、絶望する必要がある。


 ――前世を、しっかり思い出す必要が。


「……もう一回寝たら、思い出しちゃう気がするから、寝られなかったんだけど」


 まだ前世の自分の名前すら思い出していなかった。

 もう一度眠りについたら、さらに辛い前世のことを思い出してしまいそうだ。


 だけど、大丈夫。


 私はもう、リオネ・アンティラだから。


 それに――ロメオを、助けたいから。


「おやすみなさい」


 私は自身にそう言ってから、夢の世界に入った――。



 現代日本に生まれた私、佐藤莉緒は生まれた時から身体が弱かった。


 病気になりやすく重症化しやすい、だから病院にずっといた。


 だから一人も友達がいなかった……というわけではなく。


 同じ病院に入院していた同年代の男子と女子、二人の友達がいた。


 二人とは中学校に通うくらいの年齢で同じ病室になり、そこから仲良くなった。

 二人はすぐに退院したけど、退院してからも私のために病院に通ってくれた。


 初めての友達ができて、とても嬉しかった。

 一緒にゲームをやったり、いろんな話をして。


 だけど――それも長くは続かなかった。


 外から来た二人に会うと私の体調が悪化するからだ。


 私は病院の中でも隔離された病室に移されて、面会もほとんどなくなった。


 そこまでは、まだいい。

 私の病気のせいだから、仕方ないと割り切れた。


 でも――十八歳の時だった。

 面会ができる時に、二人が久しぶりに来てくれた。


 その時に私は一瞬眠ってしまった。


 そして目が覚めた時に、私が眠っていると思って話していた二人の本音を聞いてしまった。


『もう面会来るのめんどくね? どうせ死ぬんだろ』

『そうだけど、私達が来ないとこの子は一人なんだから可哀想でしょ』

『でたよ、良い子ちゃんムーブ』

『私から見捨てたら罪悪感がすごいじゃん』


 ――二人はもう、私のことを友達と思っていなかった。


 ショックでそのまま眠ったふりをしていると――。


『――早く死なねえかな』

『ちょっと、ここでそんな不謹慎なこと言わないでよ』

『お前も思っているだろ』

『……少しは思ったことあるけど』


 心臓が止まるような、心が折れるような思いだった。


 ずっと友達だと思っていた二人。

 二人と会えたことがこの不幸な人生の、唯一の救いで宝だと思っていたのに。


 私はそのまま死んだように眠ってしまって、目が覚めたらもう二人は帰っていた。


 全て夢だったかもしれない、そう思いたくても。


 ベッドの横にあるテーブルに、二人が持ってきた果物があって。


『あ、あああ、あああぁぁぁぁ……!』


 夢だとは思うこともできず、私は絶望した――。



「――はっ!?」


 その瞬間、私、リオネ・アンティラは目覚めた。

 前世の記憶をほとんど取り戻し、絶望の記憶を取り戻して。


「はぁ、はぁ……!」


 自身の身体を抱きしめるように腕を回して、震えを止めようとする。


 大丈夫、大丈夫……!


 あの後は顔を見たら死にたくなるので、もう二人とは面会しなかった。


 病室に飾ってあった三人の写真も全部壊して捨てた。


 あれは前世の記憶、今は違う、あの二人はもういない。


 この世界であの二人に会うことは絶対にない。


 それでも……あの記憶を鮮明に思い出して、絶望した気持ちを思い返すにのとても辛かった。


 しばらくトラウマでまた夢に見るかもしれない。


 でも、これで――。


「ふ、ふふふ……これが、闇魔法ね」


 私の身体から立ち昇る黒い靄、禍々しい力。


 この力が、闇魔法。

 絶望した記憶を思い出すことで闇魔法を覚醒できた、成功ね。


 正直、もう思い返したくない。


 前世の自分の記憶だけど、もう忘れ去りたいくらいだ。


 でも忘れ去ったらこのゲームのストーリーやキャラ設定とかも忘れちゃうし。


 いろいろと困ったものね。


「だけどこれで、闇魔法が使えるようになった」


 絶望してこの力を得た人は、自分を絶望させた人や国に復讐しようとする。


 だから闇魔法は危ない物、というのがこの世界の常識だ。


 でも私は前世の記憶で絶望したから、別に復讐する対象が別にない。


 ただあの二人がこの世界にいても、復讐しようとは思わない。


 私の絶望はあの二人に対してというよりも、自分の弱い身体に対してだったから。


 普通の身体だったらよかった、とずっと思っていた。


 だから復讐するとしたら、その身体を与えた神様とか?


 でも神様のお陰で第二の人生をゲーム世界で過ごしているのかも?


 まあどうでもいいわ。


「大事なのは、復讐する気のない闇魔法はただ有能な力ということよ」


 危険な力なのは確かだけど、やれることがとても増える。


 例えば――闇魔法で、ロメオを救える。


 ロメオのことも、しっかりと思い出した。


 王国の第二王子で――このゲームの攻略対象だ。


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