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第6話 家族の食事



 本邸の食堂へ着くと、もうすでに私以外が席に着いていた。


 ナルテス夫人と、ヘランお義姉様。


 さらに、私のお父様でありアンティラ辺境伯家当主の、リキルト・アンティラ。


 その三人がすでに座っていた。


 貴族の食堂らしく、長テーブルでお父様が誕生日席のようなところに座っている。


 お父様から見て右手にナルテス夫人と、ヘランお義姉様が並んで座っていた。


「遅くなり申し訳ありません」


 私は軽く一礼してから、位置関係を見てお義姉様の前に座るのが正解だと思って椅子を引いた。


「あら、リオネさん。あなたに着席を認めた覚えはないわ」


 座る直前、ナルテス夫人がそう言ってきた。

 ナルテス夫人は金髪で青い瞳を持っていて、お義姉様が大人になったかのような容姿だ。


 血が繋がっていない私とは全く似ていないし、私を疎ましく思っていることを隠そうともしない。


「本邸の食堂では着席の許可が必要なのですか?」


 私が言い返してくると思っていなかったのか、ナルテス夫人は一瞬だけ目を見開く。


「ええ、あなただけね。婚外子の娘は座るのに許可が必要でしょう」

「そうですか。では、許可をいただけますか?」

「ふっ、私があなたに許可を与えると?」

「いえ、ナルテス夫人に許可を求めていません。お父様に話しています」

「なっ……!」

「アンティラ辺境伯家の当主はお父様です。着席の許可を許すのは、お父様がすることでは?」

「そ、それは……」


 ナルテス夫人は私の言葉に何も言い返せなくなる。


 もともと許可なんて絶対に必要なくて、難癖をつけているだけだから。


 それにナルテス夫人よりもお父様に決定権があるのだから、私はそちらに許可を求めているだけね。


 お父様の性格上、どちらの味方をすると言うわけでもない。


 お父様は冷静で冷酷で、公平で合理的な方に加担する人だ。


「リオネ、座れ」

「ありがとうございます」

「それから、今後は許可を求めなくていい」

「かしこまりました」

「ナルテスも、余計な真似をするな」

「っ……失礼しましたわ」


 ナルテス夫人もお父様には逆らえないようで、ばつが悪そうな顔をした。


 私が席に座ると、目の前に座っているお義姉様と視線が合う。


 彼女も夫人と同じように私のことを憎んでいるかのよう睨んでくるが、私は微笑んでやった。


 悪意に悪意で返し続けるのは疲れるから、適当に躱すのがちょうどいい。


 そして、しばらく待つと食事が運ばれてきて全員で食べ始める。


 変な緊張感がある食堂だったけど、食べ物が運ばれてきたら食事に集中。


 はぁ、美味しすぎる……やっぱり体調を崩すかもしれない、なんて思わないで食べられるのって本当に最高。


 辺境伯家の本邸の料理人のディナーだから、最高に美味しいし。


 私が幸せそうに食べるからか、ナルテス夫人もお義姉様もなんだか悔しそうにこちらを見てくる。


 私のことなんか見てないで、この美味しい料理を心の底から味わえばいいのに。


 そう思いながらお肉を大きく一口で食べると、ナルテス夫人が「そういえば」と話を切り出す。


「今日は魔法の授業があったようですが、リオネさんはヘランに魔法を当てたとのことですね。しかもわざと当てたようですが、それについては何か弁解はありますか? 謝罪もまともにされていないとのことですが」

「……」

「……」

「……」

「いつまで食べているの! 早く答えなさい!」


 美味しいお肉を口の中いっぱい味わっているのだから、少し待ってほしい。


 私はしっかり味わって咀嚼してから口を開く。


「魔法を当ててしまったことは確かです。それについては謝りましたが――」

「ヘランは謝られていないと言われているわ。しかもわざと当ててきたのに、ただ謝るだけなんて誠実さが足りません。辺境伯家の令嬢として認められませんわ」


 いや、もともと認めていないだろう。


 まあ彼女がここでそれを言ったのは、お父様にも「リオネは辺境伯令嬢として認められない」と言ってほしいからだろう。


 これくらいで言うはずがないし、まず私は魔法を撃ってヘランお義姉様に当てたわけじゃない。


 逸らしただけだ。


「どうやら情報の齟齬があるかと。私はヘランお義姉様の暴走した魔法を防ぐために魔法を使ったのであって、決してわざとヘランお義姉様に魔法を当てたわけじゃありません」

「えっ、ヘランの暴走した魔法を……?」

「っ!」


 あら、今の反応を見るに、どうやらヘランお義姉様は夫人に本当のことを伝えていないのね。


 ただ私にわざと魔法を当てられた、と言っただけみたいだ。


「私は身を守るために魔法を展開しただけです。たまたま防御した後に、ヘランお義姉様に当たってしまったようですが」

「そ、それがわざとではないのかしら? 防御した魔法が跳ね返るなんて、そうそうないと思いますわ」


 娘に嘘をつかれても、ちゃんと守ってあげるのね。


 優しい母親なのか、ただ私を嵌めたいだけなのかわからないけど。


「確かにそうそう跳ね返ることはないですね、稀にあると思いますが」

「それならリオネさんはわざとしたのでは? あなたはヘランを嫌っているようですし」

「嫌ってはいませんよ。それに、わざとしたのはヘランお義姉様のほうでは?」

「わ、私がわざとしたって? 何を根拠に……!」


 何も根拠がないのはお互い様だと思うけど。

 でも、私の潔白を知っている人物はいる。


 さらにお義姉様が黒だということを知っている人物も。


「家庭教師に聞いてみましょうか。私がわざとやったのか、ヘランお義姉様がわざとやったのかを」

「っ、それは……」


 私が笑顔で言った言葉に、お姉様は顔をしかめた。

 先生はもちろん気づいている、お姉様がわざとやったことを。


 それで私が防御と同時に跳ね返したのを見逃してくれている。


 あの人が本当のことを言えば、それでこの話は終わりだ。


「家庭教師が証人なので、この話は後日でいいでしょうか、ナルテス夫人」

「い、いえ、何にしてもあなたがわざと当てたことに変わりは――」

「――もういい、不毛だ」


 ドンッ、と飲んでいたグラスをテーブルに置いてから、お父様が割り込んできた。


「教師から話は聞いている。お互いの魔法の練度に差があるために生まれた小競り合いだと。どうでもいいことだ」

「ですがあなた、ヘランは魔法を当てられて――」

「魔法の練度の差だ。ヘランのほうが魔法が上手かったら、リオネだけが濡れていた。ただ今回は反対の事象が起こったというだけだ」

「わ、私の娘が婚外子の娘に傷つけられるなんて、許せることではないわ!」

「リオネもヘランも俺の娘だ。ナルテスがどちらに入れ込むかは勝手だが、立場に違いはないことを忘れるな」

「っ……」


 とても冷静で冷酷なアンティラ辺境伯家の当主、リキルトお父様。


 今は私の味方のように動いてくれたけど、これは私が正しいからというだけ。


 ヘランの立場が強くなって正しい立場に立てば、あっという間に私の敵になるだろう。


 だからお父様をいかに上手く味方にするかが、今後の生きる鍵になるだろう。


「ヘラン」

「は、はい、お父様」

「やり返されたのが悔しいのはわかるが、自分の力で見返せるように精進しろ。他者を頼るというしょうもない真似はするな」

「は、はい、申し訳ありません」

「リオネ。お前はやはり魔法の才能があるようだな」

「ありがとうございます」

「魔法を極めるのもいいが、令嬢としての立ち振る舞いも学べ。まだ令嬢教育も終わっていないだろう」

「は、はい、かしこまりました」


 確かに私はこの家に来てから一年しか経っていないし、前世のことを思い出したこともあって令嬢の立ち振る舞いができていない。


 今日、ロメオに会ったのに全然できなかったし……私もしっかり学ばないと。


 そうして、初めての家族での食事は終わった。



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― 新着の感想 ―
たしかに、「ダサい」は「しょうもない」「くだらない」辺りがいいかも
どうしても「ダサい」という言葉は俗語であり、貴族の当主が使用する言葉ではないように思うので、「格好の悪い」「見苦しい」などの表現がより良くなるのではないかと思いました。
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