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第3話 楽しい魔法の授業


 私とヘランお義姉様はそのまま部屋に入り、女性の家庭教師が来て魔法の授業が始まった。


「今日は来たのですね、リオネお嬢様」

「はい。ご心配をおかけしてすみませんでした、先生」

「いえ、あなたほどの才能の持ち主を腐らせるわけにはいかないと思っておりましたので、来てくださってよかったです」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


 眼鏡をかけているキツそうな先生に「とても才能がある」と褒められて微笑むと、隣でお義姉様が顔をしかめるのが見えた。


 やっぱり優秀な私と一緒に授業を受けるのが嫌なようね。


 気持ちはわかるけど……今後、一緒に授業を受けるのをやめるように掛け合おうかしら。


 それがお互いのためだと思うけど。


 とりあえず、今は授業に集中しよう。


「ではまずヘランお嬢様、先日の復習をしましょう。水球を出しましょう」

「はい……『水球(アクアボール)』」


 お義姉様の詠唱と共に、彼女の目の前に頭の大きさくらいの水が浮かび出す。


 これが魔法……!


 記憶を取り戻してから見ると、本当にすごいわね。


 お義姉様は少し苦しそうにしながら水球を宙に浮かべていたが、しばらくすると落ちて床の染みになった。


「少し力みすぎです、ヘランお嬢様。もう少しリラックスしましょう」

「は、はい、わかりました」


 先生が風魔法を出しているのか、絨毯を乾かしながら私のほうを向く。


「では次、リオネお嬢様。あなたは全属性使えるとのことですが久しぶりの授業なので、まずは土魔法からしましょう」

「かしこまりました」

「目の前に石を出す魔法、『石礫(ストーンピット)』と詠唱してください」


 私は両手を前に出してから、深呼吸をする。


 今のリオネは十六歳、才能はとてもある。


 記憶を取り戻す前でも魔法はしっかり使えていたから大丈夫だと思うけど、少し緊張するわね。


「『石礫(ストーンピット)』!」


 私がそう唱えると、目の前に石ころが出現して浮かんでいた。

 お義姉様のように大きくはないが、数が多い。


 パッと見て三十個、それ以上かもしれない。


「いいですね、初心者なら十個出すのも難しいのですが。石を消せますか?」

「消す、のですか?」

「はい。魔法は出すよりも消す方が大変です。魔力を押さえて閉じ込めるイメージをしてください」

「魔力を押さえて、閉じ込める……」


 私は頭の中で壺を思い浮かべて、それに蓋をするイメージで身体の中に流れる魔力を押さえて閉じ込める。


 すると三十個以上あった石が徐々に消えていった。


「素晴らしいですね、全てを消し去るとは。魔力操作がしっかりできている証拠です」

「ありがとうございます……!」


 先生に褒められて魔法がしっかりできたことも嬉しいんだけど、魔法を扱えること自体になんとも興奮する!


 私ってやっぱりゲームの世界に転生したのね!


 ここで初めてちゃんと実感したわ。


 と、興奮している私の横でヘランお義姉様が私のことを睨んでいるのが見えた。


 まあ、そうなるわよね。


「ではヘランお嬢様は水球を維持して、しっかり消せるようにしましょう」

「かしこまりました」

「リオネお嬢様は他の三属性も試していきましょうか」

「はい、お願いします」


 ということで、私は他の三属性もやっていく。

 火、水、風と、全部簡単に出すことはできた。


 一番難しいのは火だとのことで、一歩間違えると自分が火傷したりするらしいけど、全く問題なかった。


 というか、私が出した火を自分で触れたし。


「自身にだけ害がない火魔法を使うのは難しいのですが、すごい才能ですね」

「先生の教え方が上手いからですよ」

「私は何も教えていませんでしたが」


 うん、指示を出して見ていただけだったわね。


 ラスボスになるリオネは、やはりとんでもない才能の持ち主だったようだ。


 もちろん私はラスボスになるつもりもないけど、魔法がいっぱい使えるのはただ楽しいわね。


「っ……!」


 ずっと隣で睨んできているヘランお義姉様がいなかったら、もっと楽しいんだけど。

 先生が見ていない時だけ私のことを視線で刺し殺したいのか、と思うくらい睨んでくる。


 逆に先生に見られた時にすぐに切り替えて笑顔になるのがすごいわね。


 集中していないようで、何度も何度も水球を床に落として絨毯をビショビショにしている。


「今日はヘランお嬢様は少し集中力にかけているようですね」

「……すみません、先生」

「いえ。では最後にもう一度集中してやりましょう」

「はい――『水球(アクアボール)』」


 お義姉様の前に水の球が浮かぶ。


 なんかさっき見たものより結構大きいわね。


「少し大きいですが、いいですね。集中して保ちましょう」


 先生がそう言ったのと同時に、ヘランお義姉様がチラッとこちらを見てニヤついた。


 っ、まさか――。


「――あっ!」


 瞬間、水の球が私のほうへ向かって飛んできた。


 バシャ! という音とともに水球が崩れて、びしょ濡れになった。


 ――ヘランお義姉様が。


「えっ……」


 お義姉様のニヤついていた顔が、呆けた顔に早変わり。


 お義姉様が狙ったのは、水球の操作を誤ったように見せて、私に当ててびしょ濡れにさせたかったのだろう。


 あのニヤついた顔を見てその企みがわかった。

 だから私は風魔法で綺麗にはじき返してあげた。


 失敗したら先生にかかるところだったけど、上手くできてよかった。


「ヘランお義姉様、ごめんなさい。咄嗟に風魔法で防いだら、お義姉様のほうへ行っちゃったみたいで」

「っ、リオネ……!」


 私が謝ると、またお義姉様は睨んでくる。

 先生がいなかったらこのまま掴みかかって来そうな感じね。


「リオネお嬢様、大丈夫でしたか?」

「はい、私は大丈夫です」

「ならよかったですが……ヘランお嬢様も風邪を引かないように、タオルを持ってきてあげてください」


 部屋の壁際にいる使用人に先生が声をかけた。


 使用人がすぐに大きめのタオルを持ってきて、お義姉様はタオルに身をくるんだ。


「ヘランお嬢様はどうやら、リオネお嬢様と一緒にいたら集中力を欠くようですね」


 どうやら、先生も気づいているようだ。

 お義姉様がわざと、私に水球を当てようとしたことを。


「先生、今後はお義姉様と授業を分けたほうがいいと思うのですが、どうでしょうか?」

「ふむ……」

「私がいるとお義姉様が集中できないようですし、私も一人のほうが効率的に先生から学ぶことができると思います」


 暗に、お義姉様とはレベルが違うので一緒に学んでいると効率が落ちる、と私は言っている。

 その意味が伝わったのか、タオルで全身を包んだお義姉様が悔しそうに唇を噛んでいた。


「確かにそうですね。当主様にそうお伝えしておきます」

「ありがとうございます。先生には二度も授業をしてもらうことになってしまいますが」

「問題ありません。私も優秀な生徒に教えるのは勉強になりますから」


 そう言って微笑んだ先生、私のほうを気に入ってくれたみたいだ。


 早くも味方ゲットかも?


 こうして、楽しい魔法の授業は終わった。


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