第21話 令嬢教育?
ロメオの呪いを移し始めて、一カ月半ほどが経った。
私は魔法学校の成績も良く、授業も魔法も楽しい充実した生活を送っていた。
だけど、家では……。
「もっと丁寧に優雅にやりなさい」
「すみません……」
令嬢教育の先生に怒られていた。
私は社交界デビューをまだしていない。
お父様が「先生の合格が出るまで社交界デビューはさせない」と言っていた。
だから私の目標は、社交界デビューができるくらいにマナーを学ぶことだけど。
先生、厳しくない?
何度も何度も反復練習させられているんだけど。
私がまだ完璧ではないのはわかるけど、まさかここまで厳しいとは思わなかった。
おそらくだけど、先生はナルテス夫人やヘランお義姉様から、何か言われているのだろう。
私には厳しくしろ、とか、合格点を出さないようにしろ、など。
じゃないとここまで厳しい理由がないし、もうすでにできている部分を反復させる意味がない。
まあ本当に難しいから、しっかり学べるのはありがたいけど。
それに……。
「じゃあ次はダンスの練習です」
「はい!」
ダンスは楽しい!
マナー講座は座ったまま勉強してから実践、というのが多いけど、正直つまらないものが多い。
でもダンスは身体を動かすし楽しいわ。
もともと私は前世で全く運動ができなかったから、ダンスできるのは本当に嬉しい
「あなたは本当に珍しいですね。ダンス練習を好む令嬢はそうそういないのですが」
「そうでしょうか? ダンス、楽しくないですか?」
「楽しいと思う方もいますが、練習は厳しくないのですか? 私は結構高度なことを求めていますが」
そうなの? 他の人からダンス教育を受けたことがないから、わからないけど。
「普通は長時間も同じ体勢をすることや、何度も何度も同じ曲でダンスするのは苦痛だと思うのですが」
「私はもう本当にとても楽しいです」
「……そうですか」
変な人、というような目で見られた。
まあ確かに長時間同じ体勢とかは結構きついし、足も腕もプルプルしてくるけど。
きついと運動しているっていう実感があって最高なのよね。
あー、きつい、でも身体動かしている! って感じで。
「練習は汗もかくので、やりたくないという令嬢も多いのですが」
「汗かくのがいいのに」
「……そうですか」
変態? というような目で見られた。
変態ではないと思う、多分、いや絶対。
ただ身体を動かすのが好きってだけ、その実感として汗やきつさは最高ってだけ。
別に被虐体質というわけでもないし。
「では、今日もやっていきましょう」
「はい!」
そして、私は楽しい楽しいダンス練習を今日もやり切った!
「そろそろ、令嬢教育を終わりにします」
「えっ」
今日の授業終わりに、先生から突然言われた。
「えっ、終わるんですか?」
「ええ、もう教えることは教えましたので、あとは反復練習を繰り返すだけです」
「そ、そうですか」
「なんですか? おわりたくないのですか?」
「いや、そういうわけじゃないんですが……」
まさか突然終わるとは思っていなかったのでビックリした。
それに先生はナルテス夫人やお義姉様に、私の教育が終わらないように言われているんじゃないの?
「その、ナルテス夫人から私の教育について、何か言われていないんですか?」
「夫人から? ええ、確かに言われましたね。令嬢教育の中でも特に厳しくやってください、と」
「なるほど……それ以外には?」
「褒めるな、とも言われました。あの子は調子に乗るから、と」
いろいろと言われているようだが、特に終わらないようにしてくれなんて言われていないようだ。
でも令嬢教育ってここまで厳しくて長いものだったの?
私は辺境伯家に来てから、一年も教育を受けていたけど。
普通だったら数カ月以内ってお義姉様に聞いていたから、意地悪で終わらないようにしているのかと思ったけど。
「最後だから言いますが、あなたは優秀でした。特にここ一カ月ほどは吸収力も良くなって、覚えもよかったです」
「あ、ありがとうございます」
私が前世の記憶を思い出したからだ。
それまでは卑屈に教育を受けていたから、学ぶ意欲があまりなかったのはしょうがないだろう。
「だからあなたには妃教育をいたしました」
「……はい? 妃教育?」
「はい。令嬢教育の中でも一番厳しい教育です。この国の妃となっても問題ないくらいの教育です」
「そ、そんなに厳しかったんですか!?」
「はい、夫人から厳しくと言われていましたので」
いや、本当にそこまで厳しくするとはナルテス夫人も思っていなかったのでは?
そりゃ一年以上も令嬢教育が終わらないわけね……。
先生から合格点が出ていないから、私は令嬢の振る舞いがまだまだと思っていたけど。
妃教育が完了するくらいに立ち振る舞いができてきたとは。
「あの、先生は妃教育をされたことが?」
「もちろんです。現在の王妃様の教育は私がいたしました」
そんなすごい先生だったのね、知らなかったわ。
さすがアンティラ辺境伯家、それにお父様の腕の広さもすごい。
「リオネ嬢はいつでも社交界デビューができるだけじゃなく、いつでも王妃や王子妃になれるくらいにはなりました。これで教育は完了です」
「ありがとうございます、先生」
王妃や王子妃になる予定なんて全くないけど。
でもこれでようやく社交界デビューができるようになった。
「社交界デビューはいつがいいのでしょうか?」
「いつでもいいと思いますが、そうですね……魔法学校に通っているのであれば、二週間後ほどの終業式パーティーでしょうか」
「終業式パーティー……」
あと二週間で、一学期が終わって夏休みが始まる。
ここは日本のゲーム世界なので、学校は三学期制が採用されている。
それで夏休みに入る前に大きな社交界パーティーがあるので、そこが私の社交界デビューになりそうだ。
ちなみに、ゲーム主人公のアリエスは夏休み後に編入する設定だったはず。
まあそれはいいとして。
「終業式パーティーには王族も来るんですよね?」
「はい、魔法学校はこの国を支えていく貴族の子供達が多いですから。その者達の優秀さを見抜こうと、多くの貴族が出席されます」
「ですよね。そんな大きなパーティーで社交界デビューっていいんでしょうか」
「あなたは生徒なので全く問題ありません。令嬢教育も終わっていますので、マナーや立ち振る舞いも問題ないでしょう」
王妃教育をしたことがある先生にそう言われているのだから、問題ないのだろう。
まだ緊張はするけど、よし。
「わかりました。では終業式パーティーに向けて準備をいたします」