第18話 三人で食事
えっ、何でロメオがここに?
彼は第二王子で王宮にいつもいる。
普通の王子だったら出かけたところで問題はないけど、ロメオは違う。
いや、正確には彼も出かけてもいいんだけど、出かけることはほとんどない。
ロメオは目が見えないから。
目元に包帯も巻いていて、容姿的にも目を引く。
ロメオが呪いを受けていることは有名だから、目が見えていなくてもいろんな視線を感じるし陰口を言われる。
彼は耳が良いから、そういう陰口を聞きたくないからほとんど外に出ない。
ゲームの設定ではそうだったし、実際にロメオの口からもそう聞いた。
『人目が気になるし、いろんな声が耳に入ってくるから。あまり外には出ないんだ。魔法学校の図書室は静かだからよく来るけどね』
そう言っていたのに、なぜロメオが人が多く訪れる飲食店に?
「久しぶりだね、マルクス殿。覚えているかな、小さい頃に会っているんだけど」
「もちろんです、ロメオ殿下。ご無沙汰しております」
マルクスがロメオにしっかりと頭を下げて挨拶をする。
それだけで彼が礼儀をしっかりしている人だということがわかるわね。
第二王子と公爵家嫡男で、同い年の二人。
やはり小さい頃に接点はあったようだ。
「元気そうで何よりだよ」
「ありがとうございます。ロメオ殿下は、本日はこちらの店で食事ですか?」
「そうだよ。最近は友達ができて、その子のお陰で外に積極的に出るようになったんだ」
「それはとても喜ばしいことですね」
「うん、本当にね」
「……」
「……」
えっ、なんで二人とも笑顔で黙り込んでいるんだろう。
それにチラッとこちらを見ているけど、次は私が何か言う順番なの?
「えっと、まずはお店に入りませんか? 入り口で止まっていると他のお客様にご迷惑でしょうし」
「それもそうだね、リオネ嬢」
「ええ、ロメオ。ここで会えるとは思わなかったわ」
「うん、奇遇だね」
……あっ、ヤバい。
図書室に二人でいる時みたいに、気軽に喋ってしまった。
ロメオがタメ口で話すのは彼が上の立場だからいいんだけど、私がタメ口で話すのは絶対にダメなのに。
「……なるほど」
隣でマルクスが小さく何かを言って、頷いたのが見えた。
バ、バレちゃったかしら?
でもそんなすぐに気づかないと思うから、これからは気を付けよう。
私達が並んで入店すると、やはりロメオ様の容姿で少し注目を浴びてしまう。
「さて、では私はあちらの個室のようだから。ここで失礼するよ」
注目されていることがわかったのか、ロメオがすぐさま私達から離れようとする。
引き留めたいけど、今日はマルクスとのディナーだ。
だからさすがに引き止めることはできない。
「ロメオ……殿下。また学校で」
「うん、また」
「――ロメオ殿下、お待ちください。よければ、ご一緒に食事はいかがですか?」
「えっ?」
別れようとした時、マルクスがロメオに提案した。
まさかの提案だったので、私もロメオも目を丸くした。
「僕も一緒に?」
「はい、この機会にぜひロメオ殿下と交流を深めたいと思いまして」
「……いいのかい?」
「もちろんです。リオネ嬢も、いいよね?」
「あっ、はい。もちろんです」
「……それなら、お言葉に甘えて。ありがとう、マルクス殿」
「いえ、こちらこそ殿下とご一緒できて光栄です」
なぜマルクスがロメオと一緒に食事をしたいと考えたのかわからないけど、私も嬉しいわね。
マルクスと二人きりだと少し緊張していただろうから。
遊び人の彼が女性とのデートに、男性を交えさせるなんてありえないと思っていたけど。
あっ、もしかして……もう私に飽きた?
ここに来るまでの馬車の中でもう飽きたから、私よりも第二王子のロメオと交流を深めようと思ったのね。
ヘランお義姉様のこともあったし、私に対して興味を失うのが早くても頷けるわ。
マルクスに飽きられるのは少し寂しいけど、これでいいのよね。
よし、とりあえず三人での食事になったから、高級店の料理を存分に味わおう!
そして三人で個室に案内されて、円状のテーブルに等間隔で離れている席に座る。
コース料理のようで、一つずつ料理が運び込まれてくる。
人生で初めてのコース料理だからマナーなどが緊張したけど、令嬢としての教育で一応学んでいたから形だけはできていると思う。
マルクスはもちろん綺麗な所作で食べていて、見ているだけで気持ちがいいくらいだ。
そして、ロメオも綺麗だ。
なんで目が見えないのに完璧に食事ができるのか、と思うけど、近い距離だと魔力で物の形などは把握できているらしい。
だとしても綺麗な所作で、目が見えない中で長年努力してきたことが伺える。
対して私は……。
「美味し、すぎる――!」
所作なんて全て捨て去って叫びたいくらいに美味しい食事に震えていた。
辺境伯家や学校の食事も美味しいのに、ここはそれよりも美味しい。
料理の見た目も華やかなのに、美味しいなんて。
これはもう料理の天才が作っている。
私もラスボスの才能とかいらないから、料理の才能が欲しい。
あっ、でもラスボスの才能で闇魔法を目覚めさせて、ロメオの呪いを解けているから、ラスボスの才能はいるかも。
ラスボスの才能ってなんだかわからないけど。
「ふふっ、美味しそうに食べるね、リオネ姫」
叫びそうになって震える私を見て、マルクスがそう言ってきた。
「あっ、すみません、はしたなかったですよね」
「全然はしたなくなんかないよ。むしろリオネ姫の美味しそうに食べるその顔は世界で一番綺麗なものだと言っても過言ではない」
「過言ですね。あと姫でもないです」
大袈裟に褒めてくれるけど、とりあえず不快には思ってなさそうでよかった。
まあマルクスがこのくらいで何か言うとは思っていなかったけど。
「――いいな」
ん? ロメオが口を少し動かした気がするけど。
何か独り言を言ったのかもしれないけど、聞こえなかったわね。
他人に聞こえないように言ったかもしれないから、聞き返すのはやめておこう。
「そういえば、マルクス様は水と土の属性魔法を使えるのですよね?」
「うん、相性がいい魔法が使えて楽しいよ。姫みたいな四属性には敵わないけど」
「姫じゃないですが、ロメオ殿下も二属性使えるのですよね」
「ん……ああ、僕は火と水だね」
「そうなんですか。私はロメオ殿下が二属性使えることを存じませんでした」
あっ……!
そうか、ロメオは学校に通っているけど教室には通っていない。
つまりほとんどの生徒に、二属性使えることはほとんど知られていないんだ。
そう思ったら、ニッコリとほほ笑んでいるマルクスと目が合う。
「リオネ姫、なぜ知っていたのですか?」
「え、えっと……」
「――マルクス殿、あまり意地悪をしないでいただきたいな」
私がなんて言おうか迷っていると、ロメオが少し呆れるようにそう言った。
「もうあなたは気づいているでしょう?」
「――あはは、申し訳ありません、殿下。リオネ姫は反応が可愛らしいので」
ん? なんだか私にはわからない会話を二人がしているけど。
「リオネ、君は揶揄われただけだよ」
「えっ?」
「マルクス殿はもう私達の関係にほとんど気づいているから」
「えっ!?」
「リオネ姫はわかりやすかったから」
「えぇ……姫じゃないです」
やっぱり気づかれていたようね……。
それに私のせいだということだし、ロメオに申し訳ないわ。
「すみません、ロメオ殿下」
「大丈夫だよ。でも見えていない僕でも動揺していることがわかりやすかったから、今後は気を付けようね」
「はい……」
「私はそのままでいいと思うけどなぁ。可愛らしい姫だし」
「姫じゃないですし、このままじゃダメです……」
「まあ頑張りすぎる必要はないけど、社交界で足元見られないくらいはね」
私はまだ社交界デビューを果たしていないけど、社交界では腹の探り合いは当たり前の世界だ。
そんなところで今の私みたいに動揺してすぐに顔に出してしまっては、絶対に足をすくわれる結果になる。
うん、令嬢教育をしっかり頑張ろう。
「――それに、本当の姫になった時に困るかもしれないから」
ん? またロメオが何か言ったようだったけど聞こえなかったわね。
「ロメオ、何か私に向けて言ったかしら?」
「いや、何も」
「そう?」
聞き逃したかもしれないと思って聞いたけど、やっぱり独り言だったようね。
「……」
「ん? どうかしましたか、マルクス様」
ジッと私のことを見つめてきていたので、思わず問いかける。
「いや、なんでもないよ。君はこれからもお姫様って思っていただけだよ」
「そうですか。あと姫様じゃありません」
なんか意味深に見つめてきていたから問いかけたけど、いつものマルクス様だった。
「それで、お二人の馴れ初めをお聞きしたいな」
「馴れ初め、ですか。私達はそういう関係じゃありませんけど」
「そう? まあ、とりあえず出会いからぜひ教えてほしいな」
「出会いというと、学校の図書室ですね。私が魔法の本を読むために休日に――」
私はロメオと図書室で出会って、そこから魔法の話などをして仲良くなったことを伝えた。
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