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第15話 最強キャラ


 リオネが闇落ちしたラスボスになる原因は、今私の目の前にいるアルバロだ。


 絶対に絡みたくない。


「ここ以外にも席は空いておりますが?」

「そうだけど、ここが一番近かったから。ご一緒しても?」

「……失礼な方とご一緒したくはありませんね」

「えっ」

「初対面なのに敬語を外して話す方と、ご一緒したくはないということです」


 アルバロも私のことを舐めているからか、最初からタメ口で話してきたわね。

 ヘランから私が婚外子で平民の子だと伝えられているから、そんな態度を取ってきたのだろう。


 でもここは魔法学校で、友達じゃない限り敬語で話すことが暗黙のルール。

 上の爵位の人が敬語を外すことはあるけど、アルバロは伯爵令息。


 辺境伯令嬢の私と比べて、爵位は上ではない。


 むしろ私のほうが上だろう。

 まあアルバロが私のことを辺境伯令嬢だと認めていないから、敬語を使わなかったんだろうけど。


「そ、それは失礼した……失礼、しました。お許しください、リオネ嬢」

「許すも何も、怒ってはいませんので」


 彼は貴族主義者なので、平民の血が入った私に敬語を使うのは屈辱的なのだろう。

 敬語で話すのね、やっぱりヘランから何か言われて私に絡んできたようね。


 私は食べる手を止めず、むしろ早めて食事を進める。


 早めにここから離れたいから。


「俺はアルバロ・レイナルドです」

「そうですか」

「……」

「……」


 自己紹介されたけど、別に返さないといけないわけじゃないわよね。


「……えっと、君の名前は?」

「先程、私の名を呼んでいましたよね。どこで知ったのかは気になりますが」

「あっ……」


 もちろんヘランから聞いたんだろうけど、言わないでしょうね。


「その、Aクラスで優秀で有名な令嬢がいると聞いていましたので」

「それが私だと?」

「はい。リオネ・アンティラさんは四大属性が全て扱えて優秀だと聞きましたので。ぜひ話したいなと思って」

「その噂だけだったら、私がリオネだとはわかりませんよね。なぜ私がリオネだとわかって声をかけたのですか?」

「ま、前に廊下で見かけたことがありましたので。その時にリオネさんのことを認識していて、いつか話したいなと思っておりました」

「……そうですか」


 さすがにアルバロも馬鹿じゃないから、これ以上はボロを出しそうにないわね。

 まあもういいわ、これから私は彼と関わらないようにすれば。


「私は食事を終えたので。失礼します」


 私は食膳を持って立ち上がり、その場から去ろうとする。


「えっ、ちょ、待って……」


 後ろからアルバロが立ち上がって追いかけてくる音が聞こえて。

 そして、腕を掴まれて引かれた。


「――えっ」


 食膳を持っていて後ろに引かれたので、体勢を崩して食膳に乗った食器などが宙に舞う。

 お皿やフォークなどが私の頭上に飛び、落ちてくる。


 あ、ヤバい……お皿が当たるし、転びそうだ。


 私はこれから来る痛みや衝撃に備えて、目をぎゅっと瞑ってしまう。


 瞬間――誰かに身体を支えられた。


「失礼、リオネ姫。今だけは君の身体に無断で触れることを許してほしい」

「……マルクス様?」


 声が聞こえて目を開けると、私はマルクスに身体を支えられていた。

 しかもマルクスは風魔法を操って食器やフォークなどを宙でコントロールしていた。


 そうか、私も魔法でやればよかったのか。


 前世の頃の記憶があるので、咄嗟に魔法を出すという発想が出てこなかった。


「あ、ありがとうございます、マルクス様」

「いえ、姫様を守れたら何より」


 なぜこの人は私を姫と呼ぶのかわからないけど、今はそこをツッコむところでじゃないわね。

 私は彼から離れて立って、私の後ろにいるアルバロを睨む。


 アルバロは自分が私を倒しかけてしまったことで青ざめているようだ。


「ダメじゃないか、君。姫様を呼び止める時は言葉だけに決まっているだろう?」


 それに、私を助けてくれたマルクスはオッシアン公爵家嫡男。

 アルバロは伯爵家の次男なので、次期当主でもない。


 だから彼はヘランと結婚してアンティラ辺境伯家の当主になりたいのだ。


 ヘランに逆らえないのは機嫌を損ねるわけにはいかないからだろう。


「も、申し訳ありません、マルクス様」

「私に謝られてもね、特に何も言うことはないよ」

「っ……!」


 アルバロは私の顔を見て、口をキュッと閉めてから軽く頭を下げた。


「……申し訳ありませんでした、リオネ嬢」


 見下している相手に謝るということで、とても屈辱的な気持ちを味わっているのだろう。

 それでも態度にはほとんど出さずに頭を下げている。


 でも今顔を上げたら、とても醜く歪んでいるのだろう。


「お気を付けください、アルバロ様」

「っ……はい、気を付けます」

「では、私はこれで」


 もうアルバロには関わってほしくないわね。

 でもヘランの命令もあって、これからも来るんだろうけど。


 私は食堂から離れて、学校の廊下を歩く。


「……いつまでついてくるのですか、マルクス様」

「ん? いや、私もそっちに用事があるだけだよ」


 私の少し後ろを歩いているマルクス様に声をかけると、そう返された。

 いや、どう見ても私を観察しながら歩いているみたいだけど。


「先程はありがとうございました、マルクス様」

「目の前で姫が転ぶのを助けるのは、王子である俺の役目さ」

「王子じゃないですよね。私も姫じゃないですし」

「リオネ嬢は姫みたいなものでしょ、魔法学校の」

「魔法学校の姫……?」


 なんだろうそれ、オタサーの姫みたいな言葉。

 別に私はチヤホヤされていない、むしろ敬遠されているけど。


「Aクラスで一番成績が良いのはリオネ嬢でしょ?」

「そう、ですか?」

「うん、四大属性全て扱えてすごいし、才能もすごいよね。もちろん努力をしているんだろうけど」

「ありがとうございます。ですが成績はトップじゃありませんよ」

「あはは、それは第一王子のこと? あれは馬鹿だから」


 あー、そこまで言っちゃうんだ。


 私の成績は一位じゃない、二位だ。

 第一王子が一位ということになっているが、あれは表向きやっているだけ。


 第一王子が魔法学校に圧をかけて、自身の成績を一位にしているようだ。


 彼はまず学校にもあまり通ってないくせに、成績だけは一位がいいとのこと。


 第一王子も魔法の才能はあるが、努力をあまりしていないので……本来の学校の成績的には、Aクラスの真ん中くらいだろう。


 だから実質、二位の私が一位ということだ。


「それに、数週間くらい前からかな。リオネ嬢の魔力が少しおかしく見えたんだよね」

「おかしく見えた?」

「なんて言えばいいんだろう、なんか今までは虹みたいに綺麗だったのに、黒くなった感じがして……」

「っ……」


 もしかして、私が闇魔法を取得したことを言っているの?


 普通、誰がどんな属性魔法を持っているかなんて感覚でわかるはずがない。


 ラスボスの私ですらわからないのだ。


 でも、マルクスは違う。

 マルクスはゲーム攻略対象の中で、最強キャラだ。


 ゲーム攻略サイトでは『ラスボスを楽に倒したいならマルクスをパーティに入れるべき』と記載されるほど。

 彼がパーティにいるかいないかで、ラスボスの攻略難易度に雲泥の差が出る。


 私もやったことあるけど、本当にマルクスは最強キャラとして設定されていた。


 そんな最強設定の彼なら、私が闇魔法を習得したことを感覚として察知しても不思議ではない。


「でも今はまた虹みたいになって綺麗だよ。さすがリオネ姫様だね」

「……よくわかりませんが、ありがとうございます」


 完全に気づかれてはいないみたいだけど、闇魔法のことを少しでも悟られたというだけで怖いわね。

 さすがゲーム内の最強キャラクターね。


 あまり関わらないほうがよさそう。


「そんな虹の姫君と今日のディナーをご一緒したいんだけどなぁ」

「どなたかと約束していませんでしたか?」

「ドタキャンされちゃった! ほんと傷つくよね、もうお店は予約済みなのに」

「はぁ、それはお気の毒に」

「全く思ってなさそうだけどありがと。で、一緒にディナーしよ。ほら、ドタキャンされた僕を哀れんで、ね」


 あまり可哀想とは思っていないけど、さっき助けられたのは確かだしなぁ。

 それに一度軽くディナーをして、飽きられて話しかけられないほうがいいかもしれない。


 マルクスは闇落ちラスボスの私と、相性が悪そうだ。


「わかりました。今日のディナーですね」

「えっ、いいの? 本当に来てくれる?」

「ええ、私はドタキャンしませんよ」

「やった! ありがと!」


 とても綺麗な満面の笑みを見せるマルクス。


 うん、こういう無邪気なところは可愛いのよね。

 ゲーム攻略対象だから、顔も良い。


 やっぱり軽く関わりは持っていたいけど……まあ高望みはしないでおこう。


 そもそもゲームの攻略対象とディナーに行くだけでも嬉しい。


 闇魔法を見抜かれる危険は少しあるけど、楽しみにしておこう。



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