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第11話 ロメオを助けたい



 とても真面目な顔で「やめたい」と言ってきたロメオ。

 私は咄嗟にその言葉が理解できず、頭にはてなマークを浮かべる。


「え、えっと、なんで? もしかして、魔法に何か違和感があったの?」


 闇魔法だから違和感があったのかも、と思ってしまう。

 闇魔法だということがバレたら、いろいろと困るから。


 私がなんかヤバい事件を起こすような人間じゃないかと疑われそうで。


「いや、魔法に違和感はないよ。むしろ呪いを吸収されているような感覚で、痛みなどが引いていく感じだ」

「だったらなんで……」

「リオネがその痛みを引き継いでいるみたいだからだ」

「っ……」

「少し軽減していると言っていたけど、魔法の最中に君の乱れた呼吸などを聞くと軽減されていないように見える。むしろされているのは僕のほうじゃないか」

「それは……わからないけど」


 やはり私が痛みに耐えていたことバレていた。

 ロメオの痛みが軽減されて、私への痛みが増加している可能性も否定はできない。


 でもそれは本当にわからないから、何も言いようがない。


「リオネがそんな辛いのに、無理をさせるつもりはないよ」


 ロメオはとても優しく、だけど王子たる威厳でそう言い放った。


 私は咄嗟に反論できず言葉に詰まってしまった。


「……ごめん、リオネの優しさに甘える形になってしまった。本当に少しは痛みが取れたから、それだけでも嬉しいんだ」

「だけど、ロメオ……」

「大丈夫だよ。ありがとう、リオネ」


 そう言って笑みを作ったロメオは立ち上がり、去っていった。


 普通に目が見えているかのように歩いていくロメオの後ろ姿を、私は呆けて見送る――。


 ――本当にとても優しい人だ、ロメオは。


 私がロメオの痛みを受けているからって、このまま続ければ呪いが解けるというのに。

 私が「あまり痛くない」と勝手に嘘を言ったんだから、その嘘に甘えて魔法を受け続ければいいのに。


 自分の苦しみよりも、会って間もない私を心配してくれるなんて。


 だからこそ、あなたを助けたい……!


「待って、ロメオ!」


 私は彼を後ろから追いかけて、手を引いて止める。

 ロメオは足音で私が近づいてきたのはわかっていたようで、あまり驚いた様子もなく振り返る。


「私は大丈夫だから! 本当に痛みはあまりなくて……!」

「じゃあ、この手汗は何? 尋常じゃないくらいに汗をかいているけど」

「こ、これは……普通に手汗がすごいだけで。その、今日は暑いですし」

「ここは図書室で室内だし、空調を操作する魔道具のせいで寒いくらいだ」


 確かに図書室はちょっと寒いから、今の嘘はすぐに見抜かれてしまった。

 引き留めるために手を握らなければ、と思いながら手を引いた。


「隠さないでいい。魔法をしている間に、君の呼吸が荒く辛そうなのは聞いていて分かったから」

「……嘘を言ったのはごめんなさい、確かに呪いを移している間はとても痛いわ」


 目が熱く燃えるように痛み、頭は割れるように痛む。

 前世でもかなり辛い症状の時に出るような痛みだった。


「それなら、やはり……」

「でも私はそんな痛み我慢できるし、たった数カ月我慢すればいいだけ! ロメオの呪いを、絶対に解きたい!」

「……無理はさせられない。リオネ嬢はこれから未来がある令嬢だ。万が一、呪いの効果を受けすぎて、君に呪いが移って残ってしまったらどうする?」


 なに、その言い方……!


「――あなたにも、未来はあるじゃない!」

「っ――!」


 私の言葉に目を見開いたロメオ。


 ゲームの中のロメオも、自分の未来を諦めていた設定だった。

 目が見えなくなってどれだけ努力をしても王太子になれず、何者にもなれない自分を想像して。


 それでもやめられない、やめたくない王太子の教育を受け続けていた。

 目が見えないから学ぶのは難しいのに、第一王子よりも教育が進んでいたくらいに。


 綺麗なものを見るのが好きで、何よりも人が幸せそうに笑った顔が好きで。

 王族とは平民のためにある、という言葉を体現するほど優しいロメオ王子。


 だけど目が見えないという一点で、第一王子に継承争いで確実に負ける。


 そんな努力家で素敵なロメオを、未来を諦めてしまっているロメオを、助けたい。


「目が見えるようになれば……いろんなものが見られるのよ。空だって、海だって、人の笑顔だって……」


 大声を出してしまったので、また頭が痛みだしてしまった。

 眩暈もして、目の前の光景が歪み始める。


 あっ、これやばい……前世でも何回か経験したことがある。


「リオネ――!?」


 ロメオの顔も見えなくなって、自分の身体が浮かぶような感覚に陥り。


 私は、そのまま気絶してしまった――。



「んぅ……――はっ!?」


 私は目を覚まして、周りを見渡す。


「あっ、リオネお嬢様! 気づきましたか!?」

「メアリ……」


 ここは魔法学校の保健室のようだ。

 目の前にはメイドのメアリが心配そうに私を見つめている。


「お加減は大丈夫ですか? いきなり倒れたとのことですが……!」

「大丈夫よ……私が倒れてからどれくらい?」

「一時間ほどでしょうか。お加減は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ、疲れて眠っただけ」

「ですが、お嬢様を連れてきた男性が『無理をして倒れたから、病院に連れて行ってほしい』と……」

「っ、その男性は目元に包帯を巻いていた?」

「はい、お知り合いですか?」


 気絶した私を保健室のもとまで運んでくれたのは、ロメオのようだ。

 目が見えないのに私を運ぶなんてすごいわね。


 でも絶対に危ないだろうし、王子様にそんなことをさせてしまった。


「あの男性、すぐにいなくなりましたが……お嬢様に伝言を預かっております」

「なに?」

「『自分の身体を大事にしてほしい。そしてまた明日、よければ会おう』とのことです」

「っ、そう……」


 ロメオが私の魔法を受け続けるのかはわからないけど、明日は会ってくれるようだ。

 私達は魔法学校を出てそのまま屋敷に帰った。


 メアリは心配してくれているが、疲れて気絶しただけなので問題はない。

 前世でも経験したことあるし。


 私は自室で一人、闇魔法の疲れを癒すために寝転がった。


「疲れたし痛かったけど……別に耐えられるのに」


 私は寝転がりながらそう呟いた。

 ロメオは不器用で、それでいて優しい人だ。


 私がロメオの痛みを受けているからって、このまま続ければ呪いが解けるというのに。

 私が「あまり痛くない」と勝手に嘘を言ったんだから、その嘘に甘えて魔法を受け続ければいいのに。


 自分の苦しみよりも、会って間もない私を心配してくれるなんて。


 本当にロメオは優しい人だ、ゲームの設定どおりに。

 いや、ここはもうゲームの世界じゃないんだ。


 ただあのロメオという青年が、底抜けに優しいだけ。


 会って間もない私がこれ以上傷つかないように、もう魔法を受けないと言った。


 その優しさに私は惚れて、彼を推していたのだ。


「やっぱり私の推しに苦しんでほしくない!」


 そう決意して、私はやはりもう一度彼に会って呪いを解くことを説得すると決めた。


「闇魔法の練度を上げて、数カ月以内にしっかり助けないといけないわね」


 私はそう決意して、睡魔に身を任せて眠った。



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