第10話 呪いと痛み
ロメオの呪いを闇魔法で他の物に移す、ということで代わりになる本を持ってきた。
移す対象はなんでもいいんだけど、図書室だからなんとなく本にしてみた。
もちろん図書室の物ではなく、私の私物だ。
「ここでするの?」
「ええ、ここで大丈夫よ」
特別な魔法陣などを書く必要もない、簡単な魔法。
ただいくつか難点がある。
それを軽くロメオに説明する。
「まずこの魔法は一気に呪いを移すものではなく、徐々に移すものなので時間がかかるの。一日で終わることもあれば、一年かかるというものもあるらしいわ」
「それはずっとかけ続けないといけないの?」
「ちょっとずつ移すという形なので、ずっとやり続けないといけないわけじゃないみたい。日を跨いでも進行度は変わらないから大丈夫ね」
「それならよかった。だが私の呪いは強いから、結構長くかかりそうだな」
「確かにそうね」
できるだけ早く終わらせたいけど、それは私の腕次第ね。
私も初めてやるからわからないけど、、感覚では数カ月はかかるかもってイメージだけど。
「とにかくやってみるわね」
「うん、お願い」
ロメオは椅子に横向きに座っていて、本をテーブルの上に置く。
私はロメオの前に立って、左手をロメオの目元に、右手を本のほうへ向ける。
「ロメオ、ごめんなさい、包帯を取ってもらってもいい?」
「そうだね」
ちゃんと呪いを認識したいから、包帯を取ってもらった。
禍々しい黒い雷のようなものが、彼の目元にくっきりと浮かび上がっている。
目は閉じているようだが、おそらく呪いのせいで開けられないのだろう。
ゲームをやっている時に軽く見たことはあったが、実際に見るとすごいわね。
闇魔法に覚醒したからか、呪いの力が昨日会った時よりも強く感じる。
これは本当に強い呪いだと、肌で感じる。
「醜いものを見せてごめんね」
「そんなことないわ。それに、これから私が消すから」
「ありがとう、心強いよ」
ロメオの笑みを見て、私は頷いた。
さて、始めよう。
手先に集中して、彼の呪いを吸い取るイメージだ。
この魔法の難点はもう一つ、私の身体を経由して他の物に移すということ。
つまり、私もこの魔法で移している間は呪いの効果を受けるのだ。
これはロメオに言う必要はないだろう。
ロメオにいらない心配をかけたくはないから。
まあ魔法で移している間に呪いがかかるということは、私も目が見えなくなるというだけだ。
そんなに大変なことではない。
私は彼の呪いを吸い取り、左手から右手に流して本に移すイメージ。
よし、いけている。
と思うと同時に、私の目が見えなくなった。
でも目が見えなくても魔法は続けられ――。
「――いっ、たあぁ!?」
激痛が走り、私は痛みに耐えられずにやめてしまった。
頭を押さえてその場に蹲る。
「だ、大丈夫か、リオネ!?」
私の叫び声を聞いて、ロメオが私の側に来てそう言った。
「だ、大丈夫……」
「本当? 何かあったのか?」
何か、あった?
今、何があったのか……ただ目が見えなくなる呪いを私も受けた。
その時に頭に激痛が走った。
まさか、嘘でしょ?
「ロメオ……聞きたいことが、あるの」
「なんだ?」
「ロメオの目の呪いは、痛みが伴っているの?」
「っ……今のでわかったの?」
やはり、そういうことなのか。
ゲームでは語られていなかった……いや、あった。
ゲーム内ではなく、ゲームの裏設定のような攻略本で書いてあった。
ロメオの目の呪いは激痛も伴う、と。
今までそれを忘れていた。
なぜならロメオの様子を見ていたら、彼が激痛の中にいるとはとても思えなかったから。
だけど、そういうことなのか。
ずっと我慢をし続けているのか、八歳の頃から。
他人に悟られないように、心配をかけないように。
「取り乱してごめんなさい、ロメオ……」
「僕は大丈夫だけど、リオネは本当に大丈夫?」
「問題、ないわ」
「……リオネ、呪いを移す時に君の身体にも呪いの効果が発動しているんだね?」
さすがロメオ、やはり気付かれてしまった。
まあいきなり叫んでやめてしまって、呪いに痛みがあることを問いかけたら気付くか。
「そう、ね」
「じゃあ、やめたほうがいい。私は君に痛みに耐えさせるつもりはない」
ロメオはやっぱり優しい。
自分の痛みをずっと隠し続けていて、それが私にも与えてしまうとわかったらすぐにやめようと判断してくれた。
本当なら盲目も激痛も、取り除きたいはずなのに。
「いえ、やるわ。今のは少し驚いただけで、それほど痛くはなかったの。私にも効果は発動しているけど、多少は効果が落ちているみたいね」
「本当? 大丈夫なの?」
「ええ、問題ないわ」
ロメオはまだ心配そうにしているけど、椅子に座った。
私は深呼吸をして、痛みに備える。
呪いの効果は落ちている、と言ったが、嘘だ。
本当はロメオと全く同じ痛みを受けている。
それを受けさせたくないというので、ロメオは本当に優しい人だ。
だからこそ、絶対に呪いを解いてあげる。
「もう一回やるわ」
「ああ」
私はもう一度覚悟を決めて、闇魔法を発動する。
また上手くいくと、徐々に本のほうに呪いが流れ始める。
「くっ……」
そして、私の目は見えなくなって目元や頭に激痛が走る。
痛い、とても痛い。
だが、我慢できない痛みじゃない。
私は前世で病気で伏せている時、このくらいの痛みを何度も経験している。
それ以上の痛みもあったから、まだマシなほうだ。
私だから耐えられた、ヘランお義姉様だったら耐えられていないわね。
そんな冗談を言えるほど、余裕……。
「っ……」
まあ余裕ではないけど! いったいし!
「本当に大丈夫?」
「だいじょうぶ、よ!」
ロメオが心配そうに言うが、私は歯を食いしばって元気よく答える。
不謹慎だが、今は彼の目が見えなくなっていてよかった。
私が冷や汗ダラダラで、歯を食いしばっている顔が見えていなくて。
見えていたら絶対に痛みに耐えているとバレてしまう。
「集中、したいから……少し、黙るわね」
「っ……わかった」
我慢できる痛みだけど、喋ったら絶対に我慢していることがバレる。
だからそんなに集中しなくてもできるけど、バレないように話さないようにする。
ふぅ、大丈夫、いける。
私はラスボスになれるほどの才能を持つリオネ・アンティラ。
そして、二十年間も病院生活で病気や痛みに耐え続けた佐藤莉緒。
このくらいは屁のカッパよ!
「ふぅ……!」
そして、私とロメオは黙ったままその場で魔法を行使し続けた。
ずっとやること、三時間ほど経っただろうか。
一度魔法をやめて、経過を見てみる。
「はぁ、はぁ……」
「リオネ、大丈夫か?」
「はい……難しい魔法を長くやっていたので、少し疲れました……」
本当は難しくないし魔法で疲れたわけじゃないけど。
でも痛みに耐えていたと言うと、ロメオに気を遣わせてしまうから。
「……そう、ありがとう」
ロメオは静かに笑顔でそう言ってくれた。
目元にはまだくっきりと黒い稲妻が入っているが、初めて目元も見えての笑顔だ。
可愛い、推し。
その笑顔を見られただけで頑張った甲斐があるというものだ。
絶対にその邪魔な黒い稲妻を取り払った後の笑顔も見てやる。
「魔法の影響による痛みや違和感などはある?」
「ないね。むしろ少し痛みが減ったような気がする」
「それならよかったわ。多分、感覚としてはこれをあと数カ月ほど続ければ、道具のほうに移しきれると思うわ」
「数カ月……」
あっ、そんなにかかるのかって落胆させてしまったかしら。
でもこれが一番確実な方法でできると思うんだけど……。
「リオネ」
「はい」
「申し訳ないけど、やはりこの方法での解呪はやめたい」
「……えっ」
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