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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
北へ

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19/44

9-1

 村長(むらおさ)は璃羽が療養している部屋へ入るなり、

「魔剣に呑まれおって愚か者が。妹ばかが調子に乗るからじゃ。」と口は厳しいが、顔は優しい。

「長様、申し訳ありません。里神様の魔剣、俺には()()()ものでした。」布団に横になったまま頭だけ動かして侘びる。

「何を言うておる、助かった村の衆からぬしの活躍は聞いたぞ。あの鬼どもを何人も斬って捨てたそうじゃな。」

「長様、そのことでお話したいことが、」と言いかけて、村長のうしろにいる3人に気がついた。

「誰です?」

 咲が璃羽の横で「お兄ちゃんを助けてくれた方々よ。」

「僕はジャンティです。」

「私はノイレンだ。」

(シン)と申します。お見知りおきを。」

 3人はそれぞれ自己紹介した。


 璃羽のすぐ横に村長、その隣に咲、3人は布団を挟んで反対側に座った。

 村長が訊いた。

「話とはなんじゃな?」

「はい、」少し間を置き、「ばかげているとお思いになるやも知れませぬが、俺の打った刀では全く歯が立たなかった鬼どもが、あの魔剣で斬ったとき黒い霧となって消えたのです。」

 そう言ってぐるっと全員の顔を見回した。璃羽は頭がおかしくなったと思われやしないか内心ひやりとしている。

 村長が口を開く前に(シン)が璃羽たちを納得させるべく、

「それはあの剣がタキシードソードだからです。」と力強く言った。

「太岸?」璃羽も村長と同じだ。

「タキシードです。どうもジパンの方々には発音が難しいようで。」

「この世でただ4本の、『魔』を祓える聖剣です。」

「『魔』はその分身も含め普通の武器では斃せません。聖剣でのみ斃せるのです。聖剣で斬られれば霧となって消散し、あとには何も残りません。」

「たしかに、異形の屍体は一つも見かけとらんな。」村長が相槌を入れた。

「璃羽さんの話の通りであれば、あの剣が聖剣であるなによりの証拠(あかし)です。」


 しばしの沈黙の後璃羽が、

「『魔』とは一体何のことですか?そりゃヤツらは鬼に見えたから魔物といえば魔物ですが。」

 布団を挟んで(シン)の向かいに座っている村長は黙ったまま着物の袖の中で腕組みをし、じっと何かを考えているようだった。

 (シン)が続けた。

「皆さんが鬼と呼んでいたのは『魔』の分身です。『魔』はその時代や場所によって姿形を変えると言われています。ちなみに私たちが大陸で遭遇したのは野盗の姿をしていました。」

「あの鬼があなた方が見た野盗と同じだと?」

「そうです。」(シン)は大きく頷いてみせる。

(シン)さんでしたっけ、分身ということは本体は別の場所にいるというのですか?」と璃羽は恐る恐る確かめた。

「その通りです。本体はどこか別の場所にいて世界を闇に閉ざそうとしています。」

 (シン)は400年前より一族に代々語り継がれてきた、聖剣にまつわる『魔』の話を璃羽たちに話して聞かせた。


    *


 ジャンティたちが咲に連れられて刀鍛冶の里へ来てからひと月が過ぎた。

 3人は村の復興を手伝いながら璃羽の回復を待っている。

 ジャンティは鋳掛けの仕事を手伝いつつ刀の打ち方を教わっていた。この里での打ち方はアデナで教わったのとは違って二種類の鋼を抱き合わせるものだった。それも新鮮だったが、何よりも驚いたのは材料の鋼の質だ。アデナでは扱ったことの無いものだった。

 その間(シン)は毎日のように村長の元へ通って説得を試みていた。

 『魔』を払うには4本目の聖剣タキシードソードも必要だが、村長は「よそ者には渡せん」と、聞く耳を持たなかった。

 数百年の長きにわたり村人にさえも秘匿して、代々村長だけで管理してきた里の守り刀だ。どうあってもよそ者に手渡すことなどできなかった。それだけに璃羽が目覚めたあとは早々に剣を祠に戻してしまった。ご丁寧に扉に3つも錠を取り付けて。

 どうにも埒があかないと(シン)は一計をめぐらし、頑として首を縦に振らない村長を納得させるためには璃羽にも『魔』祓いの戦いに参加してもらうしかないとジャンティとノイレンに協力を仰いだ。それが璃羽の回復を待っていた理由だ。


「作戦は分かったが、璃羽は()()()()()ではないのかい?」

 ノイレンがそもそもな疑問をぶつける。

「どうやらそのようです。今でも彼には何も感じません。あなた方には出会う前から近づいてくるのが分かったというのに。」と、ジャンティとノイレンの顔を見ながら肩をすくめて両方の手のひらを上に向けてみせた。

「他に感じる人はいないのか?」

「それもいません。このひと月村中の人とお会いしましたがどの方にもピンときません。もちろん村長さんにも。ただ、」

「ただ、何だ?」

 言葉を詰まらせた(シン)にノイレンが続きを迫る。

「咲さんにはうっすらと何かを感じるんですよね。情けないことですが、それがなんなのかよく分からないのです。」

 デジで咲に初めて会ったとき(シン)は彼女が自分たちを導いてくれるかもしれないと感じた。その通りにこの村まで来られたし、最後の聖剣も見つかった。しかしそこから先は不鮮明でピンとくるものが感じられないのだ。

 ノイレンは意外そうな表情で「ほう」と声を出した。ジャンティが(シン)に尋ねる。

「咲さんが選ばれし者とか?」

「今のところは違うみたいです。もしかしたらこの先()()()かもしれませんが。」

 ジャンティは腕組みをして考え込んでしまった。

 (シン)は一つ咳払いをし、

「話を戻しますね。選ばれし者をこの村でいつまでも待っているわけにはいきません。かといって、先に探し出してからタキシードソードをもらい受けに来るということもできません。なにせ、村長さんは村の者にさえ触らせる気はないようですから。」

 ジャンティは八方塞がりだなと、何か良い案はないものかと頭を回転させた。そんなジャンティの思案を徒労にさせるかのように(シン)がこう言った。

「村長さんがあの剣を託せる村人がいるとしたらそれは璃羽さんだけです。彼には一度剣を使わせた。それは村長さんが璃羽さんを認めているということです。まあ、そのときは剣に呑まれましたがそれは彼の経験不足故です。経験を積めばジャンティ、貴方のようにきちんと使えるようになるでしょう。だから、璃羽さんを仲間に加えようというわけです。とりあえずそれが全てが丸く収まる方法です。」

 黙って聞いていたノイレンが説得役を買って出た。

「よっく分かった!私が璃羽を説得しよう。」


    *


「俺はあなたたちと一緒には行けない。長様があなたがたにあの魔剣を託せないとおっしゃるなら諦めて下さい。」

 上体を起こせるまでに回復した璃羽はノイレンの「一緒に行かないか?」という申し出をそっけなく断った。

「璃羽さん、僕たちにはあの剣が必要なんです。」ノイレンに付いてきたジャンティが横から食い下がる。(シン)もあとを続ける。

「村長さんが私たちよそ者にはタキシードソードは譲れないの一点張りでして、」

「だからあんたがあの刀の使い手として一緒に来て欲しいんだ。」あぐらをかき、腕組みをしたノイレンがリスのように頬を膨らませて締めくくる。

「だから俺は行かない。」即答である。にべもない。

「なぜ?!」3人が声を揃えて訊く。

「決まってるじゃないですか!咲を、妹を一人置いて、『本体』がどこにいるのかも分からない、そんな不確かな旅に出るわけにはいきません。いつ帰れるかもわからないじゃないですか。もし私がいない間に咲に悪い虫が付いたらどうしてくれるんです。」

 妹ばかが炸裂。ノイレンが呆れながら、

「咲ちゃんなら大丈夫さ。とてもしっかりした()だよ。女の私から見ても頼もしい。」と褒めちぎる。

 頼もしさにかけてはノイレンほど頼りになる人はいないとジャンティは思っている。その彼女が言うのだから咲はよほどしっかりしている。

 璃羽はうんうんと頷きながら「そりゃそうです。俺の自慢の妹ですから。」

 わざわざ人に言われなくても咲の頼もしさは璃羽も承知している。でなければデジへ一人で買い出しにやったりはしない。もっともデジ行きが決まったとき、悪い虫にそそのかされたらいかんと仕事を放りだしてついて行こうとしたが村人総出で止められたという黒歴史が。こと妹のことになると見境がなくなる璃羽だった。


 3人はその場は諦めて外に出た。

「まったく、妹ばかにもほどがある。」ノイレンが口をとがらせる。

 (シン)がジャンティとノイレンにそっと言った。

「作戦変更です。搦め手(からめて)から攻め落としましょう。」

「搦め手?」意図を飲み込めないジャンティが問うと同時にノイレンが、

「そのほうが手っ取り早いかもしれん。」さすが飲み込みが早い。

「搦め手ってなんですか?」

「”妹ばか”を逆手にとるのさ。」ノイレンがにやりと笑う。

「その通りです。」と(シン)が右手の人差し指を立ててみせた。

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