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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
蘇る記憶
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1-1

 約40年前、私が高校生の時に描いた漫画を小説でリメイクしたものです。少しずつ書き進めてます。お目にとまったら幸いです。

 ちなみに有名なスクエニのRPGゲームとは何の関係もありません。私がこの作品を漫研の部誌に掲載したのは86年です。ゲームは1作目が91年、大人気の2が93年発売ですので一切参考にもしていません。

「リーミーンっ!」

 紅蓮の炎が荒れ狂い、うねりながら街を包み全てを燃やしていく。

「リーミーンっ!」

 ダークブロンドの少年、ジャンティが少女を探しながら火の海と化した通りを駆けている。彼女は街のパン屋で働いていた。ジャンティはそこへ向かっている。一つ角を曲がったとき焼けて崩れかけた建物の影から馬に跨った野盗が1人姿を現した。少年を見るや剣を振り上げて襲いかかる。少年は右手に握っていた剣でそれを受けたが相手は馬の上だ。荒れる炎の中興奮している馬の脚が邪魔で思うように反撃できない。野盗の剣に押されて少年は仰向けに倒れ込んだ。野盗はそのまま馬で少年を踏み潰そうと馬を操る。間一髪身をひねって転がりながらそれをかわし、馬の脚に剣を叩き込んだ。

 脚を斬られた馬は鳴き声を上げ前のめりに崩れ込む。その勢いで野盗は馬の鼻先に投げ出された。ジャンティはその隙に逃げ出した。そして再びリーミンを探して野盗に荒らされた街中をパン屋のあるほうへ向かう。ジャンティが背を向けた先で野盗と馬が黒い霧となって消えたことには気付いていない。

「ジャンティ」

「ジャンティィー!」

 崩れた壁の向こう、リーミンが働いているパン屋が見えた。その建物の中から声がした。

「リーミン!」

 不規則に襲いかかってくる炎を()けつつ、割れたショーウィンドウから中を覗くと、青白い長い髪の少女がジャンティへ涙で潤んだ瞳を向けている。足がすくんで動けないでいた。

「今助ける!」そう言って割れたショーウィンドウから中へ入ろうとしたその時、リーミンの頭の上の天井が崩れ落ちてきた。瓦礫がリーミンに襲いかかる。

「リーミンっ!こっちへ!」ショーウィンドウの縁に片足をかけながら中へ左手を差し伸ばす。その手を掴もうと手を伸ばすリーミン。

『もう少し』二人の指先が触れるその瞬間リーミンの姿がジャンティの視界からふっと消え去った。直後崩れ落ちてきた天井が大きな音を立てて床に積み重なり山を作った。

 伸ばした手をそのままにジャンティはリーミンの消えた燃える店内を呆然と見つめた。彼女は下敷きになったのではない。神隠しのように忽然と消えたのだ。


    *


 リーミンが姿を消した400年後。とある高等学校。2年生の教室、世界史の授業中。

「リーミン!!」

 そう叫ぶと(わたる)は両手を机について立ち上がった。居眠りをしていた彼は夢の中でジャンティになっていた。目の前で忽然と姿を消したリーミンの名を現実で叫んでしまった。

 静まり返る教室。クラスメイトの視線が一斉に弥に刺さる。黒板の前にいる志摩津(しまづ)先生が手に持っていた教科書を静かに閉じ落ち着いた声で弥の名を呼ぶ。はっと我に帰ってクラスメイトたちをそろそろと見渡す。最後に先生を見た。次の瞬間教室は爆笑に包まれた。

「チェストー!」

笑い声が充満する中志摩津先生の気合いと共に、赤面して棒立ちになっている弥のおでこに白いチョークが一直線に突き刺さった。


    *


「痛っ、もうちょい優しくやってくれよ、(みお)

「授業中に居眠りして寝ぼけるからよ。」

 肩までの短い髪に赤いカチューシャをした澪が弥のおでこを手当てしながらそう言った。同じクラスで弥とは幼なじみの腐れ縁。

「だからって今どきチョーク投げなんてあり得る?しかも超絶コントロールいいし。」

 弥は口を尖らせながら言うと

「そのあんたを保健室まで連れて行って手当てしてやれって言われた私の身にもなりなさい。」

 弥は口をへの字に曲げる。たんこぶには×(ばつ)形にテープが貼られている。

 澪は手当てを済ませ道具を片付けると、にかっとイタズラな笑みを口角に浮かべて瞬速ねこぱんちのようにシュっとたんこぶにデコピンした。

「・・・」痛さで声が出ない。目を大きく見開き、信じられないという顔で澪を見る。

 怪我人になんてことをするんだと無言の抗議だ。

 その弥の目の前に人差し指をまっすぐ差し出して、

「ところで、リーミンって誰よ?」

 またころっと表情(かお)が変わり、浮気を疑うかのような目つきで弥を睨む。まるで猫のような変化の速さだ。

「え、いや、あ、だ、誰でしょね・・・」

「なに?彼女の私に言えないような存在なの?」澪は弥に顔をぐいっと近づけて下から見上げるようにしながら食い下がる。

「夢に出てきた女の子。正直なところ、俺にもよく分からない、はは・・・」

「はあ?」呆れながらも弥が嘘をついていないのは彼の顔を見れば分かる澪だった。


    *


 その日の夜、弥は自身の部屋のベッドに両手で頭を抱えるようにしながら仰向けに寝転び、天井をじっと見つめていた。おでこにはバツマークのようにテープが貼られたままだ。なんとも恥ずかしいが澪がしてくれたものだからとそのままにしている。

『あの夢はなんだったんだろう?めちゃくちゃリアルだったな。』

 映画やマンガで見たことはあっても実際に訪れたことのない中世の外国のような街並み。それらでも見たことのない少年と少女。そしてもう一つ印象に残っているのは少年がずっと握っていた剣。ヨーロッパのソードのような大振りの両刃、黄金(おうごん)色の柄にはまるでルビーのような真紅の石が嵌まっていた。そんな剣はゲームでだって目にしたことのないものだった。

 単にそれだけなら弥も大して気にはしなかっただろう。だが弥にとってはリアルそのものと言っていいくらいの重みが感じられた。過去に実際に経験したことを夢で追体験したかのような現実味があった。デジャヴとは違う実感があった。右手を見れば握っていた剣の感触まで思い出せる。

 弥は心の奥深くにある何かを揺さぶられる気がしてならなかった。

『ジャンティ、リーミン。それにあの紅い石のある剣』

 考えを巡らせるうちに弥は寝落ちした。

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