近所のクレープ屋が人気店だけど変なんです
みなさんごきげんよう。
もしくは初めまして。くろつです。
わたし的には、「変」って褒め言葉です。
ただそのお店、人によって好き嫌いは別れそうです。ちょっぴり普通のクレープ屋とは違うから。
スタイリッシュな写真が欲しいとか、好きな人とのデートで使いたい人には向かないかも。
でも私はそのお店が大好き。変だけど。
◇◇◇
始めに、私はもちもちクレープが好きです。
今ってパリパリのクレープもありますよね。
甘いもの好きの友人はパリパリ生地が大好きって言うんですが、私は昔からもちもちが好みで。
秋頃から探してたんですよ。好みのクレープ店マイベスト。
この秋冬でじっくり時間をかけて好みのクレープ屋を探そう! それでそのお店をずっと応援していこうって決めて、有名店をまわったりしてました。
そうしたら、家からそう遠くない場所に一軒ありまして。妙な名前のクレープ屋が。
ちょっと名前をぼやかしますけど、「会長のもちもちクレープ&ソフトクリーム」みたいな名前で、まずそこから疑問。会長ってどんな会長……。
場所もね、なんか倉庫の一角みたいな場所にあるんですよ。ぱっと見はプレハブ。
もうこの時点で怪しいでしょ……。
でも家から近いし、いつもお客さんいるし、人気あるんだろうなあって思ってたので、よし一度食べてみようと。
そしたら、中古車屋さんの敷地にぽつんと立ってるんですよね、クレープ屋が。
ええー、と思って。
中古車とクレープ。親和性ないにもほどがある。
でも試しに食べてみたら、めっちゃおいしかったんですよ。
なにこのもちもち? ちょっとはじめての食感かもしれない……。
でもですね。レジのまわり、明らかに日本語じゃない表記の雑貨がずらっと置いてあるの。値段はついてない。POPとかなんの説明もなし。
わあ、これってなに……。
クレープ焼いてるお姉さんに聞いてみたら、
「それ、タイのお土産なんですよー」
タイのお土産……。
「うちの会長が好きでよく行くんですよね。タイに。あ、レジ前においてある個包装のお菓子もよかったらどうぞ。マンゴー味のグミ? みたいな感じです」
あー、海外のスーパーで売ってるお菓子で、たまに飴かグミかわかんないやつあるある。
「雑貨は、スタンプを集めると貰えますよー」
さらによく見てみると、レジのまわりには柴犬の写真やイラストがずらっと貼ってある。
中古車……柴犬……。
あっ! って思いました。
確かこの会社で、私、前に中古車を買ったことがある。
場所が違うからとっさにわからなかったけど、社名も同じだし間違いない、ここだ。
手続きするために事務所にあがったら、事務所に柴犬がいたんです。
女性がひとりで車を買うってものすごおく緊張するので、なでさせてくれる柴犬がいて癒された記憶がある。
これ絶対同じだと思ってお姉さんに聞いてみました。
「あ、それうちです~。今もいますよその犬!」
やっぱり……。
チョコバナナクレープ450円を食べながら、考えました。
これ、めっちゃおいしい。かなり好き。
でもあの店、ぜったい、クセ強すぎ。
だってクレープの包み紙、紫と白の市松模様なんですよ。普通白とかベージュとかじゃないです?
さらにその包み紙、紫のトラックに乗ったいかつい男性がプリントされてるんですよ?
トラックの荷台にどっさりクレープを積んで……。絶対会長本人でしょ。
いやー、個性というか、クセ強いなあ。
作ってもらったスタンプカードを見たら、押してもらったハンコが「会」だったし。
でも家から近いし便利だし、味も好きだしまた来ようっと。
その時は、それで終わりました。
エッセイ書こう! と思ったきっかけは、その翌週でした。
◇◇◇
初めて行った時、お店の入り口に張り紙がしてあったんです。
今年の営業は12/17(日)で終了となりますって。
じゃあ終わる前にもう一回行きたいなーと思って、さっそく行きました。
クレープを焼いてもらってる間に質問してみたんです。冬の間はやらないんですか?って。
「そうなんですよー。あっ、年内これで最後だから、スタンプ3倍押しときますね!」
ポンポンポン。
「会」のスタンプを押してくれながら、金髪のお姉さんは言いました。
「うち、車屋じゃないですか。だから冬は排雪の仕事が入るんですよねー」
雪が降らない地域の方のために説明すると、排雪とは、大量の雪を遠くの雪捨て場に運んでくれる作業のこと。
雪国では必須の作業で、市で委託しているものの他に、建設業や造園屋などが冬に請け負うんです。
「私も冬は4トントラックに乗って現場に出るので、お店はしめちゃうんですよー」
うおー、かっこいい……。
なるほど、それで冬はやってないのかあ。
でもどうしても愛を伝えたかった私は、お姉さんに言ったんです。
すっごくおいしかったです、私もちもちのクレープが好きなんで、すごい好みの味でした。また来年楽しみにしてますね! って。
そしたらお姉さん、ふふって笑って、
「ありがとうございますー。私がもちもち生地好きなんです。で、うちでクレープやるってなった時に、絶対もちもちがいい!って会議で強く推して、これになりました。生地も試行錯誤したんですよ~」
わああ、さらにかっこいい!
自分が好きだからやってます! ってとこが素敵……。
ご機嫌で帰ってきた私は、思いました。
もし、この店のクレープが他の名店と同じように、シックでシンプルな包み紙だったら?
中古車屋さんの敷地じゃなくて、全然違う場所にあって、会長の趣味も消した普通のクレープ屋さんだったら?
もしそうなら、私は、おいしいと思うだけでここまで好きにはならないと思うんですよね。
次にクレープ食べたくなった時も、「あれっ、確かどこかにあったよね?おいしいお店……どこだっけ……」ってなる自信がある。
それに金銭面でも、別の場所にお店を作ったら家賃もろもろ発生しちゃうけど、自社の敷地内でやるならより低コストでお店を始められる。
会長、頭いい。一度会ったことあるはずなのにまったく顔が思い出せないけど、会長、商売上手。
まあ、そこはさておき。
私はこれ、小説書くときのマインドとも通じてると思ったんです。
人にどう思われるか恐れずに自分の好きを押し出してみること。
無理をせず、自分のできる範囲で努力すること。
これって執筆にも通じてるんじゃないかって。
◇◇◇
ちょうど、新作長編の準備中で悩んでたんです。
長編なのに恋愛がテーマでもないし、異世界でもないし、キャラクターは強すぎてザクザク人を殺しちゃいそうな感じだし。
これ読む人が引くんじゃないかなあとか、もっとソフトな設定にしたほうがいいのかなあとか考えてて、なかなか先に進めなかったんですよ。
でも会長のクレープ食べて思ったんです。
あれは、人にどう見られるか気にして腰が引けたりしたら出せない個性だよなあって。
なので、「人からどう思われるかな」的な迷いはいったん頭から追い出すことにしようと思いました。
それに、書籍化なんてことになったらあまりにもひどいところは編集さんが指摘してくれるはずだから、悩んだり微調整かけたりするのはその時でも全然遅くないはず。
それよりも私が今できることは、「これが好きなんです!」を強めに打ちだすことじゃないのかなあって。
「変」って思われることを過度に恐れないように。
勇気を出して頑張ってみます。
それでは皆様、長編でまたお会いできますように~。
よいお年を!
この前通りすがりに、「陳さん厨房」ってお店も発見しました。こっちも気になる……。