学園のマドンナと過ごす昼休み
「麗那の親友の、野崎鳴海です。なんか休み時間中ずっと迷惑を掛けてたっぽいけど、大丈夫だった?」
宮沢さんから友達になってくれと言われたあとのこと。
宮沢さんが自分の教室から野崎鳴海という、宮沢さんに負けず劣らずの美少女を連れてきた。
結局あのまま押し切られて、一緒に昼食を取ることになってしまった。断ったら周りから反感を買いそうだし、申し出を受けるしかなかった。
美少女二人と一緒に弁当を食べる。……普通なら喜ぶべきことなんだろうが、周りの視線のせいでなにかの拷問を受けてるようだ。
あのコミュ女子はいつの間にかどっかに行ったし…。
「……正直、学園のマドンナからいきなり友達になってくれと言われて困惑した」
「あははは…。そりゃそうだよね。麗那ったら大好きな侍と忍者のことになると、落ち着かないというか、理性を失う節があるから」
「む。失礼ですね、ナル。昔と違って、ちゃんと荒ぶる魂を抑えていましたよ」
「休み時感の度に、止めても止めても隣の教室へ向かった奴が言っても説得力皆無よ…。てか荒ぶる魂ってなに?」
クラスメイトが見てる中、学園のマドンナである彼女の申し出を断ったらどうなるかわかったものじゃない為、俺は受け入れるしかなかった。
受け入れたら受け入れたで、男子たちの嫉妬の視線が痛いが、昔の婆ちゃんの稽古よりかはマシだ。頑張って耐えよう…。
それに……
「結城さんと早くお近づきになりたいという想いを抑えるのは、我がことながら本当に大変でした…。目があった時なんかは、サインを貰いに駆け出しそうにもなりましたし。……扉を掴んで、なんとか耐えましたが…」
「あ、そう…」
なんかもう見ててよくわかるが、宮沢さんは近年よく見る侍や忍者が大好きな外国人みたいな人っぽい。
この手の人は見慣れてるし、相手し慣れてる方だ。うちの道場に見学しに来る外国人観光客とか、結構多いから。
……凄く面倒臭いけどな。軽く木刀を振っただけでテンションマックスになるし。
そこに殺陣なんて見せればもう大騒ぎ。一斉にサインを求められる始末だ。
「本当にごめんね。うちの麗那が」
「気にしなくていい。それよりも良かったのか?俺と一緒に飯を食べることになって」
「あ、うん。それは全然。麗那がそうしたいみたいだし。」
机を囲んで、それぞれ弁当を広げる。
俺の弁当は婆ちゃんが作ってくれている。
今日のおかずはきんぴらと卵焼きとブロッコリーやトマト。あとベーコン巻きアスパラだった。
「おー。結城さんのお弁当、かなりの量ですね」
「これでも食べ盛りの男子高校生だからな。それに趣味が趣味だし、自然と大食らいになってしまったんだ」
「趣味?……あ~。なんか麗那が戻ってきた時に、結城君のことを侍がどうのって言ってた気がする。家は道場かなんかなの?」
「ああ。剣とか槍とか、色々教えている道場だ」
「へ~。てことは剣道とかやってるんだ」
「あ~、いや…。たぶん野崎さんが浮かべている物とは違うかも。別にスポーツって訳じゃないし」
「スポーツじゃない?どういうことですか?」
俺の言葉に疑問符を浮かべた二人に説明すべく、一度頭の中で言葉を整理していく。
あまり人と会話してこなかったし、同世代にうちの道場のことを話したこともなかったから、どう説明していいか少し迷ったのだ。
「……テレビの時代劇や時代村なんかで、殺陣っていうのがあるんだけど、それは知ってるか?」
「はい!もちろんです!何度もテレビで観たことありますし、実際にそういうイベントを見に行ったこともたくさんあります!」
「私も麗那に誘われて見たことあるわ…。飽きるくらいに」
野崎さんは宮沢さんに散々付き合わされてるようだ。
侍や忍者の時代劇を観てテンションを上げまくる宮沢さんに辟易している様子が、容易に浮かんでくるのはなぜだろうか…。
「要はうちの道場は、そういう殺陣とかで魅せる為の道場なんだ。剣術、槍術、弓術、体術……まぁとにかく色々やってるよ」
「へぇ~。結城君は何やってるの?さすがに全部はやってないでしょ。大変そうだし」
「まぁその辺は人によるし、実際に全部やってるような人は少ないと思うけど……俺は全部やってるよ」
「……え。マジ?」
「おー!結城さんって、私が想像しているより遥かに凄い侍だったのですね!?」
何とはなしにそう言うと、野崎さんは驚愕の表情を。
宮沢さんは尊敬の眼差しを向けてきた。
「そんなに驚くことか?」
「いやまぁ、うちは麗那ほど詳しくないけどさ…。そういう剣術とかってさ。何十年もの修練を積んで、漸く一人前になれるみたいな話をよく聞くから。全部いっぺんにやってると、ただの器用貧乏にならない?」
野崎の言いたいことはわかる。
というか正しくその通りだと、俺も思う。
うちの道場の門下生たちは、一回とりあえず全部触ってみて、そこから一つに絞って鍛練していく感じだ。
別に決闘とかする訳じゃないし、十分鍛えられたら別のものをやる人はいるにはいるけど。
普通は一つのことを、ただただ極めていくことの方が多い。
俺はそんなことをしなくても、婆ちゃんから既に一人前だと認められるくらい上達してしまっただけで……別にそれは言わなくて良いか。
俺って天才なんだぜ、とか言ってるみたいでダサいし。
「さっき言ったように、俺のはただの趣味だよ。それに誰と競い会う訳でもないのに、極め続けてどうするのさ」
「まぁ、それもそっか。人に魅せる為のものなんだもんね」
「そういうこと。まぁその内剣術だけでも重点的に鍛え上げないといけないと思うけど。うちだとあれが一番使うし」
「うーん…」
「ん? どうしたの麗那。難しい顔しちゃって。というか、ほとんど私ばっか喋ってるけど、あんたは聞きたいこととかないの?憧れの侍に」
「さっきから思ってたけど、侍は大袈裟だって…」
宮沢さんが顎に手を当てて、なにやら考え事をしていた。
しばらくして彼女は、俺に迫る勢いで前のめりになって口を開いた。
「結城さんっ!」
「はい?なんでございましょう」
あまりの迫力に思わず敬語になってしまった。
「……道場の見学を、させて頂いてもよろしいですか!?」