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学園のマドンナを泣かせてしまった

 ―――キーンコーンカーンコーン。


「今日の現代文はここまで。次はこの主人公の気持ちについて考えてもらうからなー。予め考えておくことをオススメするぞ」


 一時間目が終わり、10分休みとなる。

 俺はよく小説を読んでいるからか、文系は得意な方だ。語彙力はあまりよくないけど。

 理系は暗記で済む部分は得意。計算は面倒くさくて嫌いだ。


(さて、ちょっとトイレにでも……ん?)


 トイレに行こうと席を立つが、その時“あの視線”を感じた。

 そちらへ目を向けると、そこには宮沢さんの姿があった。目が合うと即座に扉の影に隠れるが……またすぐ顔だけ出して俺のことをジーッと見つめてくる。


 ……やっぱり俺の勘違いとかじゃなく、完全に俺をロックオンしているように見える…。

 そんなに身体に振れてしまったことを怒ってるの?勘弁してくれよ…。


「あれ?宮沢さんだ」

「え?あら、本当。どうしたんだろう」


「……お、おい。あれってやっぱり……」

「あ、ああ…。俺たち二人のどっちかが気になってる可能性はありそうだぞ」


 隣の勘違い野郎コンビ含め、クラスが宮沢さんの存在に気付く。

 銀髪美少女というステータスのせいと言うべきか、(さが)と言うべきか。やっぱりちょっと顔を覗かせるだけで騒がれるようだ。


「おーい、宮沢さん。どしたの?誰か探してるの?」


 と、そこでコミュ力の高い女子がもの応じせず話し掛けた。

 対して宮沢さんはやや逡巡した様子を見せてから……


「忍者に会いに来ました!」


 とても良い笑顔でとんちんかんなことを言い出した。


「「「忍者???」」」


 これには思わず、俺まで声に出してしまった。初めてクラスメイトらと気持ちが一つになった瞬間である。


 何言ってんだ?あの人…。うちのクラスに忍者の道場に通ってる奴いたの?

 てかこの辺にうちの道場以外に魅せるタイプの道場あったっけ?剣道とか柔道の競技系はあった記憶はあるけど。


「えっと……忍者って?」

「はい!今朝、(わたくし)が階段から落ちるところを助けてくださった方がいまして」


「ぶっ!?」


 今朝階段で助けた人って、俺のことじゃねぇか!?


「その人の動きが正しく、私の大好きな忍者のような軽い身のこなしで、大変感動致しまして!ぜひとも仲良くなりたいなと」

「へ、へぇ~。そんなことが…」


 コミュ力高い女子。略してコミュ女子ですら困惑して苦笑を浮かべている。

 全くあれくらいのことで忍者とか大袈裟な……あれ?ちょっと待って。つまり宮沢さんの目的はやっぱり俺ってことで、このままだと俺はこの後あの人に絡まれるかもしれないってことで…。


「なるほどね~。それで、その忍者って誰のことなの?」

「えっと、それは一番隅の席の方で……あれ?」


 嫌な予感がしたので、俺は物音を立てずに静かにかつ速やかに教室の前の扉から出ていった。

 体術の無駄遣いだな…。でも今あそこで俺の名前を言われたら面倒なことになりかねない。


 宮沢麗那という女の子の人気は絶大だ。教室の隅でボーッとしてる俺でも、それくらいは知っている。確か学園のマドンナとか言われていた気がする。

 当然学園の男子から何度も告白されてるらしいし……って、ラノベや漫画のヒロインみたいだな…。

 ちなみに告白は全部断ってるらしい。そりゃそうだろうな。よくも知らない男子たちからいきなり告白されても、困るだけだろう。


 そんな彼女に興味を持たれたともなれば、女子からは奇異な視線を。

 男子からは醜い嫉妬の視線を浴びせられることは火を見るより明らかだ。


(下手したら陽キャたちから逆恨みの虐めを受けるかもしれない…。陽キャ怖い)


 小さい頃から今の今まで録に人付き合いもせず、婆ちゃんの道場でお弟子さんたちと武術を習い、極めようとしてきた俺には、ああいう学園のトップカーストの人はあまりにも眩しすぎる。

 俺と仲良くなりたいって?勘弁してくれ。ただでさえ普段から周りからは陰キャと陰口叩かれてるんだ。

 宮沢さんのような人と一緒にいたら、陽キャたちにどんな目に遭わされるかわからん。武術習ってる俺が下手にやり返したらダメだし…。


(セクハラで訴えられることがないことは救いだな…。理不尽に怒ってる訳じゃなくて良かった)


 彼女のあの様子だと休み時間の度にうちの教室に顔を出すだろう。

 しばらくは授業の終わりと同時に素早く、かつ静かに教室から抜け出して、休み時間ギリギリまでトイレでスマホでアニメ鑑賞だ。

 ……イヤホンを教室に忘れたから、次の休み時間からだな。


――――――――――――――――――――――――


 そして案の定。宮沢麗那は、休み時間になる度に1組から2組の教室まで足を運んできた。

 だがその度に俺はトイレまで気配を消して逃げて行った。


 しかし気配を消すという行為は、ゲームや漫画なんかのスキルとは違って、姿が見えなくなってる訳じゃない。その場の環境を利用……今回の場合は、ただ人混み(学生)に紛れ、音を出さないように移動して存在感を薄くしてるだけに過ぎない。


 なので、四時間目が終わった昼休み……俺はとうとう捕まってしまった。


「待ちなさい!そこの忍者くん」


 教室に来る宮沢さんの相手をずっとしていたコミュ女子に…。


「にんじゃ……えっと。もしかして俺のこと言ってる?」

「もしかしなくても君よ。今朝、結城くんが助けた女の子のことは覚えてるでしょ?その子……宮沢さんが君とお友達になりたいって」

「断る!」


 俺は即答した。後に起こる面倒ごとが嫌だから。

 こちらの返答に対して、コミュ女子は目をパチクリさせて信じられない物を見る目で見てくる。


「えっと…。マジ?」

「? マジだけど」

「うっそ!?あんな可愛い子、しかも学園のマドンナとまで言われてる宮沢さんが!普段は男子とは距離を置いてるあの宮沢さんが!自分から結城くんと仲良くなりたいって言ってるのよ!?普通男子なら食いつくところでしょ?」


 彼女の言う通り、普通の男子ならばあんな美人と言っても良い美少女から仲良くなりたいと言われれば、鼻の下をだらしなく伸ばして喜んでいることだろう。

 だが、誰もがそうとは限らないのだ。


「うるせぇ。他人の価値観と俺の価値観を一緒にするな。可愛い女の子にちょっと見詰められたからって、思春期男子全員が『もしかして自分と仲良くなりたいのでは?自分に気があるのでは?』なぁんて勘違いすると思うなよ」

「え~…。信じられない。女の私でも見惚れちゃうのに。……その、大丈夫?その歳で悟りなんて開いちゃって。悩みがあるなら聞くよ?」

「俺程度の考えで悟ったとは言えねぇよ。お釈迦様に謝れ…」

「結城くんって仏教徒なんだ」


 別に仏教とかそういう宗教には興味はないけども。

 ただ最近観たアニメに登場するお釈迦様が好きなだけで…。


「ごめんください。結城さんはいらっしゃいま……」


「とにかくさ!せっかく宮沢さんが仲良くなりたいってお願いしに来てるんだよ?しかも休み時間の度に。なのに毎回逃げるように教室から出ていくのは失礼だと思わない?」


「……あ!結城さ―――」


 名も知らぬコミュ女子はそう言うが、俺の意思は変わらない。だって面倒ごとになるのは目に見えてるし…。

 学生っていうのは、スクールカーストとかを気にする面倒臭い種族だ。そんな種族に属してる間は、陰キャの俺はひっそりと学園生活を送るに限る。


「じゃあ逆に聞くけど、仲良くなりたくもない相手から近付かれたら、君はどう思う?」

「え?まぁそりゃあ……嫌、かな」


「……え?」


「だろう?それと一緒だ。美少女だろうがなんだろうが関係ない。俺は宮沢さんと仲良くするつもりは……ッ!?」


 仲良くするつもりはない。そう言い掛けた俺は、強い視線を感じ取った。

 悲しみの感情を多分に含む、見られてるこちらまで悲しくなってくるような気さえしてくる程の。


 俺は目だけを動かして、その人の方を見る。

 もはや定位置となりつつある、教室の後ろの扉。そこに宮沢さんの姿があった。

 彼女の瞳には……涙が浮かんでいた。


「仲良く……なりたくない…。私、結城さんに嫌われるようなこと、したのでしょうか…?大好きな忍者(・・)に、嫌われて……」


(……………た、タイミングーーー!?なんて間の悪い!)


 いや、これは俺の完全な失態だ!?宮沢さんは休み時間の度に顔を出していたんだから、昼休みも当然顔を出しに来るに決まってる!

 しかもその手には風呂敷に包まれたお弁当箱をお持ちになっていらっしゃる!?俺と仲良くなりたいというのが本当なら、俺と一緒に昼飯を食べに来たってことじゃないか!

 くっそ~…。仲良くなると面倒だから避けていたけど、悲しませたら悲しませたで俺が宮沢さんを泣かせたってことになって余計に面倒になるじゃないか…。

 幸いクラスメイトらは俺とコミュ女子の言い争いに目を向けたまま、涙を浮かべている宮沢さんにはまだ気付いていない。

 なにか……なにか適当に誤魔化せる言い訳を言わないと……陽キャたちから虐められる!

※ここまでの思考、約1秒。


「な、仲良くするつもりはない。けどまぁ、その……これにはちゃんと理由がある」

「理由?」


 今さら「本当は仲良くなりたい」なんて言っても意味はない。さっきまで本気で仲良くしたくない感満載だったのに、そんな掌返しが通じるとは思えない。

 だから、宮沢さんの忍者好きを利用することにした。


「彼女が俺と仲良くなりたいのは、忍者が好きだからなんだろう?じゃあ俺は仲良くなる訳にはいかない」

「どういうこと?」

「だって俺は忍者じゃないし。どっちかって言うと……侍に近いな。剣術や槍術なんかを習ってるし」


「ッ!?……侍?」


 宮沢さんの視線の感じが変わった。

 よ、よし。とりあえず悲しみの視線は感じなくなった気がするぞ!


「侍?剣道とか習ってるの?」

「剣道とはちょっと違うかな?やることにはやるけど。ほら、時代劇とかの殺陣ってあるだろ。ああいう魅せる剣術とかを習ってるんだ、俺は」

「へぇー!そうなんだ。時代劇とかあんま見たことないけど、なんか凄そうね」

「ああ。竹や等身大の藁の人形を真剣で斬ることもあるし、見てみると実際凄いよ。……とにかく、俺はそういうのを習ってる身だからさ。宮沢さんの好きな忍者じゃないし、そういう後ろめたさもあって……」


「大丈夫ですっ!」


 しかし、ここでまた俺は慌ててたばっかりに、失態を犯していたことに気付く。

 彼女が、宮沢麗那が。忍者が好きだと言っていた時と同じ目をしながら、こちらへ歩いて来てるのを見て。


(あ。詰んだ?)


 俺はもう、逃げられないことを悟った。

 彼女の目が、眩しい笑顔が、口には出さずともわかる。既に物語っている。


 彼女が好きだったのは、忍者だけではなかったということが。


 宮沢さんは俺の前に立つと、俺の両手を取って爛々とした様子で言い放つ。


「私!侍も大好きなんですっ!ですのでどうか、私とお友達になってくださいませんか?」


 その純粋な気持ちを真っ直ぐ俺に向けて、教室全体にその声が響いた。

面白いと思ったら、ブクマ登録と高評価といいねをよろしくお願い致します。


終末のワ○キューレ面白い。

個人的には第三回戦と六回戦が好き。何度も観ちゃう。

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