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視線

 女の子の転落事故を防いで、1年2組の教室に着いたあと。

 俺は窓際の一番後ろにある自分の席の机に突っ伏して、とてつもない不安に駆られていた。


(セクハラで訴えられないか心配だ…)


 俺の学園での立ち位置は完全な陰キャ野郎だ。その自覚がある。

 周りからは髪を女の子みたいに伸ばしている気持ち悪い奴っていう風に見られていることだろう。


 別にそのことを気にしたことはない。髷を結ってみたいという理由の他に、目元……目付きの悪さにコンプレックスを持っている。

 目付きが悪いせいで昔から同世代にはビビられ、子どもには泣かれる。

 さらには大好きな犬にまで威嚇されたり吠えられたりする始末。


 ……そんな俺が、明らかにスクールカースト上位っぽい美少女を、仕方なかったとはいえ抱き抱えてしまった。

 陰キャはどんな理由があっても、女の子に触れたらセクハラで訴えられると、SNSで見掛けた。

 もちろんただのネット民の偏見だろうと思ったが、コメントを見てみると結構な数の被害者陰キャたちがいた。




・隣の子の消しゴムを拾ってあげたら、気持ち悪いと罵られた。

・ちょっと肩がぶつかっただけ泣かれた。

・たまたま視線があっただけで、視姦していた変態の烙印を押された。

・うっかり落とした教材を拾ってたら、目の前の階段を上っていた女子にパンツを覗こうとしていたという、冤罪を掛けられた。

その後、誤解が解けたけど謝られなかった。むしろ紛らわしいことしてたこっちが悪者扱いされた。




 女子って怖い…。

 さっきの銀髪の子も、怪我はないか訪ねても最初は無反応だった。

 きっと俺みたいな陰キャに触れられたのが心底嫌だったのだろう。てか触れるというよりも、密着してたに近いし。


「……不安だ」


 一応、お礼は言われはしたが……「どさくさに紛れて私の身体を堪能しやがったんです!」とか言ってくる自意識過剰女子だった時が怖い。

 ただでさえ友達がいない俺だ。その時は学園から俺の居場所が無くなりそうだ。


 ……元々無いに等しいけど。

 剣とか諸々の稽古ばかりに明け暮れていないで、友達の一人や二人作っておくべきだったかな?

 でも誰かと一緒に遊んでるより、剣や槍を振ってる方が俺には楽しかったんだよな……いや止めよう。後悔先に立たずだ。

 もうすぐホームルームだ。このことは一旦忘れて、今日の授業に集中するとしよう。


――――――――――――――――――――――――


 ホームルームが終わって、1時間目の授業の準備をしていた時だった……誰かの視線を感じた。

 稽古で培ってきた経験のおかげと言うべきか、俺は人の気配や視線にはかなり敏感だ。


 背中まで伸びた髪のせいで、よく奇異な物を見る目で見られてきた俺だが……これは今まで浴びてきた視線とは、明らかに違っていた。

 初めて受ける正体不明の視線の方へ振り返ると……そこには先ほど助けた銀髪の女の子がいた。


「ッ!?」


 俺を見ていたことに気付かれた彼女は、ビックリした様子を見せて、教室の扉に身を隠してしまった。

 しかしすぐに顔だけ覗かせて来て、また俺のことを見てくる。


 え?なに?なんか顔赤いですけど……さっきのことそんなに怒ってるの?


「ん?なぁあれ。宮沢さんじゃね」

「本当だ!相変わらず可愛いな~…。何してるのかな?」

「誰か探してるっぽいけど…。いや、なんかこっち見てね?」


 隣の席で談笑している男子二人が、銀髪女子に気付いた。


(……そうだ。宮沢さんって言うんだったな。思い出した)


 彼女は見るからに純日本人じゃない。非常に目立った容姿をしている。

 しかもかなりの美少女だ。綺麗に手入れされているであろう銀髪で、整った目鼻立ちに澄んだ綺麗な瞳。

 見掛けるとつい見惚れてしまうくらいに美しい容姿だ。

 クラスの人の顔すらまともに覚えられていない俺だが、さすがに彼女のことは嫌でも記憶に残る。


 そんな彼女を怒らせたり、嫌われたりしようものなら、同級生たちから虐めを受けるかもわからない…。


 一体どうするべきか。そう悩んでいたが、宮沢さんはペコッと頭を下げると、いそいそと1組の教室へ戻っていった。

 ……え?なんで会釈されたの、俺?


「……なぁ?見たか…」

「ああ。見たぜ…。こっちを見て顔を赤くしながら、あんな初々しそうに会釈までしてくれて……」


「「もしかして俺、宮沢さんに好かれてる!?」」


 なんかバカな勘違いしてる幸せな二人を他所に、俺は得たいの知れない不安を抱えていた。


(あれって、一瞬の宣戦布告か何かか…?)


 悶々とした思いをしながら、一時間目の授業に臨むことになってしまった。


(さっきの視線は、隣の二人みたいに俺の勘違いであって欲しい…)

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