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00:プロローグ

 創世の時。女神フォリアは自然の恵み溢れる楽園、フォルナ大陸を創造した。楽園と称された大陸では、人々は争うことなく平和に暮らしていた。しかしフォルナ大陸を災いが襲う。美しい女神フォリアに嫉妬した妹神デュイアは、フォルナ大陸に魔物を生み出し、フォリアの被造物を尽く破壊しようとした。危機に見舞われ続け、怯え暮らす人々は、幾度となく神へ祈りをささげる。脆弱な人々を哀れんだ創造神ワイズは、強く生きるための力を与えた。それは後にスキルと呼称される。人々はスキルを用いて生活の基盤を築く。強いスキルを持つ者は英雄視され、様々な恩恵でもって人々に平穏をもたらした。そして、強いスキルを持つ者たちは一つの組織を作り上げる。個々が持つスキルの強弱や適性、種類によってランク分けを行い、効率的に人々の依頼をこなして平和を保ち続ける為の組織――冒険者ギルドを。時が経つにつれ、冒険者ギルドは各地に支部を立ち上げ、もはやそれぞれの街になくてはならない存在となっていく。冒険者ギルドで依頼をこなす者を人々は冒険者と呼び親しんだ。しかしスキルの強弱などによりランク分けをされているためか、どうしてもスキルの弱い者へ対する侮蔑は生まれてしまう。スキルの強い者と弱い者とで軋轢が生じる中、大陸北西部に位置するキオンという街から、この物語は始まる……。


―――――――――――――――――――――――

 フォルナの食糧庫・キオン

そう呼ばれるこの街は、その名の通り食糧生産の要である。広く、肥えた大地に麦が頭を垂れる小金色の光景は夏の風物詩と言えるだろう。大通りには食糧店が多く立ち並び、多くの人々でにぎわっている。

そんな街の少し外れには、住宅街がある。各家庭の資産額にもよるだろうが、キオンの街に住む住人はあまり富んでいるとは言えず、良くて木造、悪くて泥岩に板を張り付けたような平屋に住んでいる。その多くが農民であり、日中は農場にて労働の必要があるため、子どもは須らく保育所に預けていた。保育所は領主の名において創設されており、租税さえ納めていれば無料で子どもを預けられる場所だ。ここで働く者は子守りスキルを持っていたり、子育て経験のある者だ。彼ら、彼女らは保育士としては垂らしている。それ以外がいるとすれば、本業で食べられない貧乏人くらいなものだろう。

 ここで働くクラリッサは、後者に該当する。キオン生まれの彼女は冒険者ギルドに登録している冒険者ではあるが、所持スキルが低ランクの『鑑定』と『???』という不明なもの。キオンはそれなりに大きな街であるので、クラリッサより高ランクの鑑定士など山のようにいる。その日の仕事にもありつけないクラリッサは、必要最低限の生活費を得るために、保育所で働いているのであった。

「みなさ~ん、外遊びのお時間ですよ~」

 わらわらと子どもたちが保育所から出てくる。玩具の剣を持って振り回しているのは、強い冒険者にあこがれる6歳児クラスの子だ。砂場遊びに興じているのは、砂の感覚が大好きな3歳児クラスの子。その隣で「しろつくろーぜ」と泥水のバケツを持って5歳児クラスの子が年齢に関係なくグループを作っている。

「リサさん、私たち外で見守りをしてるから、園内清掃をお願いしますね」

「あっ……はい、お願いします……」

そう言って園庭に出ていく保育士に返事をして見送りつつ、リサ……クラリッサはため息をついた。クラリッサは保育士として働いているのではなく、清掃作業員としての仕事をこなしている。建物内の清掃において彼女の鑑定スキルは大いにその力を発揮する。

「『鑑定』」

クラリッサが一言そう呟きスキルを発動すれば、彼女だけに見える鑑定結果が出る。

『4歳児クラス。絵具制作を実施、要清掃』

「絵具かぁ……お湯持ってこなくちゃなぁ……」

絵筆を振り回した子でもいるのか、壁に絵具が飛び散っている。

「『鑑定』」

『2歳児クラス。ままごとセットに破損品あり、危険』

「うわぁ……おもちゃのお皿割れてる……え、これ木製なのに……真っ二つ……」

「『鑑定』」

『1歳児クラス。午睡時に尿失禁、布団の洗濯を推奨』

「んんんん消毒!」

パタパタと動いているうちに、外からは子どもを迎えに来た親と保護者が朗らかに笑う声が聞こえてくる。日々家族を見てもらっている感謝の声が絶えない場所だ。そうして夕方になると殆ど子どもがいなくなる。その頃には保育士たちが打ち合わせをする時間になるので、クラリッサは清掃状況や物品の状況などを報告して退勤となる。

6クラスもある保育所を掃除すれば毎日クタクタになるが、クラリッサは必ず仕事終わりには冒険者ギルドへ寄ることにしていた。――そう、彼女の本職は冒険者であるが故に。しかし、冒険者ギルドでは嘲笑の的ともなる。夜ともなれば日中に依頼をこなした冒険者たちが酒場よろしく打ち上げをしている。酒が入れば理性は緩み、素面の時には言わない言葉を平然と投げてしまうのだ。

「おいおーいクラリッサちゃんよー。今おかえりでちゅかー」

「お仕事どうでちたー? ……今更ここに来たっておめーにもできる仕事なんざ残ってねぇだろうがな!」

 ちがいねぇ ガハハハ 

下品な嘲りを気にも留めずにクラリッサは依頼掲示板に近寄る。依頼掲示板は4種類あり、討伐依頼掲示板、採取依頼掲示板、鑑定依頼掲示板、雑務依頼掲示板に分かれている。クラリッサは鑑定士として冒険者に登録しているので、基本的には鑑定依頼掲示板に用事があるのだが、先の冒険者らにあざ笑われた通り、夜にはクラリッサができる仕事は殆ど残っていない。そこでクラリッサは報酬が低く誰も受けたがらない仕事が残りやすい雑務依頼掲示板に目を移す。冒険者ギルド酒場の食器洗いが臨時で出ているのを見つけて、それを受け付けにて受注した。

冒険者ギルド酒場の皿洗いが不人気な理由は、冒険者は絶え間なくギルドに来ては依頼の報告をし、打ち上げをする。どんちゃん騒ぎは深夜どころか朝になるまで続くことがあり、終わりが見えない。そこでもクラリッサの鑑定スキルは大いに役立つ。『汚い皿、欠けている』『エールジョッキ、ひび割れあり』など物品の情報が正確に分かるからだ。壊れた食器は壊した冒険者が弁償することになる。酒場のマスターがすぐに発覚して追及できるに越したことはない、と大いに張り切っている。

労働に労働を重ねるクラリッサは鑑定スキルを多用すれどランクを上げることはできなかった。ついたあだ名は「ドベ鑑定士」。それもそのはずで、齢にして18歳のクラリッサが鑑定スキルを手に入れて早10年、1つもランクが上がらないという異例の冒険者なのだ。冒険者からは失笑、嘲笑とともに蔑まれ、道行く人々からは貪欲に働く小間使いとして見られ、冒険者ギルドの職員からは呆れたといわんばかりの目で見られる。たいそう居心地の悪い街に思えるが、クラリッサには引っ越す金銭的余裕などない。戦闘力も微々たるものなので、自力で他の街に出ることもできないのだ。

クラリッサは半ばあきらめている。自分の人生なんてこんなものだと。誰もが自分を下に見て嘲って、恥辱に耐えるのも慣れて、何も感じなくなって。ただ生きていくだけのお金を稼ぐことすら苦労する。キオンの街の底辺を彷徨うだけの人生なのだと。救われることも報われることもない。虚しい人生なのだと。

朝帰りの道、創造神ワイズを祀る神殿に立ち寄ったクラリッサは祈りを捧げるふりをして神を嘲る。

『デュイアは魔物をもたらした。その時はまだ人々は互いに協力し合い、助け合って生きてきた。すべての祖たる神ワイズ、あなたがスキルを与えてくれなければ、私は冒険者にはなれなかったかもしれない。でも、スキルがなかったら私がこんな虚しい人生を送ることもなかっただろう。ワイズ、お前が人間に争いをもたらしたのだ。何が神か。ざまぁない』

ひとしきり不満をぶつけた後、クラリッサは礼拝に対する寄付として少額を神官に渡す。帰路について、また昼から清掃業務に取り組まなければならない。

 そんな彼女の日常が一変するのは、この日からわずか1週間後のことである。


 ――――ステータス――――――――――――

 ・クラリッサ(18)

 ・種族:人間

 ・職業:冒険者 

 ・所有スキル:『鑑定』『???』(???を達成後開放)


 Lv.8

 HP:120/MP:80

 スタミナ:1450

 ATK:15/VIT;50

 MAT:20/MDF:85

 AGI;30/LUK:10


 ・特殊ステータス

  スキル『鑑定』に使用するMPが5分の1になる

  スキル『???』の■■■はスキル『鑑定』を使用した回数の10分の1となる


 ・称号:『鑑定士(低級)』『『???』』

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