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男女の友情は存在するのか


「レンツ様、お食事の時間です」

「…………」

「レンツ様、大丈夫ですか? (また、週末廃人だぁ~)」



 偶然にもステラのメンティーになり、毎日の出勤の楽しさが加速したロラン。その反動で、週末になると、ロランはこの世の終わりを感じるようになった。


「ジル、週末は2日連続で公休っておかしいと思わないか?」

「思いません!」

「ステラがロイン国から帰ってきたら、すぐに年末年始休暇があって、年始明けの出勤が始まったと思ったら、すぐに週末2連続公休って……おかしくないか?」

「暦通りです。レンツ様、ステラ様のマスコットを作る季節ですね」

「それもそうだが、ステラへの誕生日プレゼントを考えたい」


 ロランはステラを思うあまり、10歳のときにステラの等身大の人形を作れるほど手芸を極めてしまった。しかし、その人形は大人達に取り上げられてしまった。

 それを教訓にロランは持ち運べるようにステラ型マスコットを作り続け、ステラの誕生日が来ると新しく作り直していた。ロインに留学してからは、ステラと自身のマスコットを作り続けていた。


「レンツさま、ロインの王都の手作りマップのアップリケを可愛いと仰ったステラ様なら、そのマスコットを喜ばれるのでは?」


 ロランは、ステラが愛おしそうに手作りマップのアップリケを撫でていたのを思い出した。ステラの持ち物には飾り気の無いものが多く、逆にその姿が印象的だった。


(ステラは可愛いものが好きなのか? 少なくとも嫌いではないはずだ)


「ジル! 今年はマスコットを2セット作る」

「はい、おそろいですね。それでは、まずお食事を」


 ロランに長年仕えるジルは、ロランの輝く笑顔から発言の裏を瞬時に読み取った。

 ロランはステラとそろいの物を持つことを考えるだけで浮かれた。


「ああ、まずは栄養だ。部屋まで運んでくれ」

「かしこまりました」


 食事の手配を終えたジルが戻ってくると、ロランは机の上で頭を抱えていた。


(レンツ様〜! この短い時間に何が起きたのですかぁ? 先ほどのやる気に満ち、浮かれたお姿は幻ですか!?)


「レ、レンツ様? まず、お食事を」

「ジル、今までのようにステラマスコットを作ろうと下絵を描いてみたが何かが違う」

「まず、お食事を」

「ステラを描けなくなるなんて……もう終わりだ」

(レンツ様、なにも始まっておりませんよぉ~)


 ジルはロランの描きかけの下絵に目を留めた。毎年寸分たがわないはずの下絵に変化が見て取れた。ジルはいくつか確認をした。


「レンツ様、何が違うと思われるのですか?」

「今までのイメージで下絵を引こうとすると……ズレる」

「レンツ様、安心しました。

 ステラ様を遠くから見て勝手にイメージを膨らませていたレンツ様が、一緒に過ごされるようになって変化したということです」

「変化?」

「現実のステラ様に塗り替わりつつあるのでは?」


 5歳のロランが見た幼いステラ、婚約者がいても独りでいることが多かったステラ、一緒に仕事をするようになってからはメンターとして毅然と振舞うステラ、スイーツに愛を感じるとロランに打ち明けてくれたステラ……ロランにとってステラは庇護したい対象から、憧れの対象へ、歩みを共にしたい存在へと変化していた。


「まずはお食事、そのあとは時間をかけて下絵を完成させてください。自分のためでなくステラ様のために作るはじめてのマスコットになるのですから」


「ステラのために作るマスコット……」


 ロランは、ステラがマスコットを手にして喜ぶ姿を思い浮かべ、ニヤニヤと表情を変えた。


(あ~、いつもの妄想デレデレレンツ様だ)


 ジルは庁舎内のレストランとカフェの責任者として、ステラの様子を見続けていた。

 独りを好むようで人当たりは良く……眉目秀麗なロランがあれだけ好意を示しても、ステラはメンター・職場の先輩という立場を貫きとおしている。


(レンツ様の気持ちがまったく届いていないのだが、レンツ様は危機感を感じないのか?)





 ステラが採用されて1年と11カ月が過ぎた。年度末に向けて慌ただしくなっていた。


 スイーツ部はロランからの声がけで頻繁に開催されていた。ロランが何も言わないと、ステラは独りで帰路途中のカフェに足を運んだ。

 ところが、その場合、決まってロランに遭遇してステラは内心あたふたとした。職場では行動を共にし、かつスイーツ部の手前……知らんふりともいかず「あっ、よろしければ一緒に」「ご一緒してもよろしいですか」となり慌てた。


 ステラはそのあたふたを何とかしたいと考えた結果、ロランに事前に声をかけるようになった。


「ロランさん。今日、帰りにカフェ・レグルスに行こうかと」

(よしっ、今日もステラから誘ってくれた)


 答えを聞くまでもない笑顔をロランは浮かべた。


「リンゴの季節もそろそろだから」

(ステラ、レグルスは僕たちがはじめて言葉を交わしたカフェだよ!)

「はい、あそこはアップルパイが絶品です。あとで予約をしておきますね」


 ロランはあの日を思い出した。


(あれから2年しかたっていないのに、今度はステラの隣で同じものを注文して……ステラ・タイアリーに何度も書いたシチュエーションだ。ステラ・ダイアリーは未来日記なのかな? スイーツ部の活動を毎日にしたい)


 ロランが思い出と妄想の世界に浸った横でステラは考えていた。


(ロランさんは断らないなぁ。しかも毎回、予約してくれるし……パシリにしてないよね? メンターという立場からのパワハラと思われていないよね!?

 無理に付き合ってもらっているようで申し訳ないなぁ〜。会計は各自ルールだけど、私が勝手に訳あり貴族と思い込んでいるだけで……経済的に大丈夫かな? 

 それに、ロランさんの交友関係を狭める結果にならないと良いのだけど)


「ロランさん。いつも私に合わせてもらっているようで……無理してない?」

「無理なんてしていませんよ。むしろ光栄です」



 終業後、2人の姿はカフェ・レグルスにあった。


「ロランさんは、同期と連絡とったりしているの?」

「先日、はじめて同期会に参加しました」


 ロランは苦々しい飲み会を思い出した。

 飛び級続きで同年代との接触が少なかったロランには、同年代の者たちと過ごすのは新鮮な経験だった。社会勉強のために誘われれば同期会に参加したものの、ロランにとっては楽しい時間ではなかった。

 研修期間中、同期からロランは「ひょろひょろ君」と呼ばれていた。ロランの配属が企画・総務系といった主要配属先でないと知るや同期会に誘われることもなくなった。

 ステラがメンターになったことで、食事や睡眠が増えたロランは顔色もよくなり、親しみやすい雰囲気に変わっていた。すると、また同期から声をかけられるようになり、同期女子からは「ロッシュ王子」と呼ばれるようになっていた。同期男子からは「シャロン財閥への婿入りを狙っているな」「俺らにも紹介してくれ」とロランには許しがたい発言を耳にする場だった。


「ロッシュ王子と馬鹿にされました」

「(ふふっ、確かに貴族というより王子って感じかも)それは、褒め言葉では? 市民の私が王子様と同席してよろしいのかしら」


 ステラは笑った。


「僕が王子でも、変わらぬ態度でこうしてお茶を一緒に楽しめるのはステラ先輩だけです」

「そうなの? そういえば……重い資料を運んでいる時に可愛い女の子に『王子と付き合っているのですか?』と話しかけられたけど……あの時の王子とはロランさんのことを指していたのかしら?」


「ステラ先輩、重い荷物は僕が運びます。それで、なんて答えたのですか?」

「この状態で聞く? と思いながら……『王子って?』と質問返しをしたら、溜め息をつかれて『質問を変えます。ロラン・ロッシュさんとはどういう関係ですか!?』と逆ギレされてぇ~」


 ステラは運ばれてきたアップルパイに目を輝かせ、会話が途切れかけた。


「ステラ先輩、それで何て答えたのですか? 僕との関係を……」


 ロランはその答えをどうしても聞きたかった。


「えっ、あっ……『メンターとメンティーなだけよ』って答えたら。そのツインテールの子はぴゅ~と走り去ってしまったの」


(ステラ、そんな酷い言い方しないでくれ……メンターとメンティーなだけよって……確かにそうだけど……まだ、そうだけど、来月になれば年度も変わって王族制度が新しくなって……)


 かつて遠くから見守るだけだったロランにとって、今のステラとの関係は大きな進展である。しかし、ステラにとってはメンター制度が繋いだ関係に過ぎなかった。

 ロランはなんとか動揺を隠して話を続けた。


「ツインテール……小柄でちょこちょこ歩く子でしたか……」

「ちょこちょこは覚えてないけど、確かに小柄でツインテールだったかな」

「この、庁舎内でツインテールなのは1人しかいません。僕の同期です。ただそれだけです。別に仲が良いという訳でもなく──」


 ロランは同期女子との関係をステラに誤解されないように説明をはじめた。それを不思議そうにステラはアップルパイから目を逸らさずに聞いていた。


「……そう、ロランさんの同期の方だったのね。

 ねぇ、ここのアップルパイって……前からクロテッドクリームが添えられていたかしら?」


 ステラは全くロランの話に興味がなく、目の前のアップルパイに集中していた。それに気づいたロランは気が遠くなり、口を閉じた。


(ステラにとって僕はまだクロテッドクリーム以下の存在だよね)

「ロランさん。アップルパイをいただきましょう」


 ステラは笑顔でロランに声をかけた。


(ああ、ステラの笑顔だ。クロテッドクリームを添えたのは正解だった)

「ステラ先輩、クリームの追加もできるみたいですよ」

「まぁ、それは素晴らしい。では、クリームの追加を」


 アップルパイを食べ切ったステラはバッグの中からゴソゴソと包みを取り出し、ロランに差し出した。


「これ、ロランさんへ。ロインのマップや食料のお礼です。あのパウンドケーキには本当に家族中が救われたの、ありがとうござました」

「えっ……」


 ロランはステラから何かを貰える日が来るなんて思ってもいなかった。ステラからの見返りを考えたこともなかった。理解できない状況にロランは言葉を失いながらも包みを受け取った。


「好みに合うかどうか分からないけど」

「開けても?」

「もちろん」


 包みの中身は、青色に処理された革コバと青糸のステッチがアクセントになった黒革のカードケースだった。


「採用2年目から名刺が支給されるの、良かったら使って」

「はい!! 大事にします! もしかして、ステッチが青いのは?」

「ロランさんの青い瞳に合わせてみたの」


 もう少しでメンタリング期間が終了すると優秀なロランとは担当が別々になるのは明らかだとステラは予想していた。そうなれば、今までのように同じタイミングで休憩を取ることもなくなると。


 ステラはロランと過ごした時間が楽しかった。採用されてから1年7カ月間はいつも独りでいたが、ロランのメンターになってからはいつもロランがいてくれた。コミュ症気味のステラに絶妙のタイミングで頻繁に声をかけてくれた。ロランは話し上手で聞き上手であった。


 ロランは、パスケースを眺めて目を潤ませていた。


(いつもいつもステラの事を思い、ステラの喜ぶことばかりを考えていた。

 ステラが僕のために……黒髪碧眼の僕に合わせて……僕、もう死んじゃうのかな?)


 ロランは作ったものの渡せずにいたマスコットの存在を思い出し、バッグから取り出した。


「ステラ先輩、これを」


 ステラは不思議そうに包み紙を開いた。


「あっ、可愛い。これ、あのマップの女の子と男の子に似てる」


 優しい微笑みを浮かべたステラは、マスコットをテーブルに座らせて、2人の頭を指先で交互にやさしく撫でている。


「やはり、ステラ先輩は可愛いものがお好きですね」

「好きよ! だけどあまり気づかれないようにしていたのに……」

「理由をうかがっても?」

「我が家には……私が興味を持った物をあの手この手で買いそろえてしまう過保護な親がいるの。

 昔“フォレストファミリー”という小さい動物人形とドールハウスのシリーズがあったの。私はその中の小さなウサギ1つだけが欲しくて母にお願いしたの……翌朝には部屋中が“フォレストファミリー”で埋め尽くされていて怖かったの……。それからは、欲しいものを安易に言葉にするのをやめたの。不用意な発言で取り返しがつかなくなっては困るし……」


 ステラは言い淀んだ。


「強欲でわがままだと私への評価が下がると、シャロン家の子育てが悪かったと両親にも迷惑をかけるから……。

 それにしても、これ(どこで売っているの?)精巧を極めてて、可愛い!!」


(ステラは多くのものを我慢していたのか)


 ロランは意外だった。溺愛され何不自由なく育ったはずのステラは、冷静に立場と影響力を幼い時から把握していた。

 ステラが可愛いものが好きなことに気づき、ステラの喜ぶものを贈り、それによりステラの過去を知れたことがロランは嬉しかった。同時にステラの苦労を感じ、好きなものを好きと言えない不憫さを自分に重ねた。

 ロランにはステラという心の支えがあったが、ステラにとって何が支えになっていたのだろうかとロランは思いを巡らせた


(もしかして、ステラは寂しいのか?)


 ロランから思わず本音がもれた。


「ステラ先輩。これからも、そのマスコットのように、いつまでも僕と一緒にいてください」


 その言葉を聞いたステラは、マスコットを撫でる指をとめて、マスコットの頭頂部をジッと見つめた。


(うん? 今のは何かな? いつまでも僕と一緒にいてくださいって言ったよね。プロポーズのような……交際申し込みかな……いや、それはない。仕事上一緒にということ? 役人に人事異動はつきものだからそれは約束できない……)


 ステラはゆっくりとロランをみた。


 ロランは自身の発言内容に気づいて慌てた。そこから、ステラが口を開くまでの数秒間がロランには永遠に感じられた。それでもロランはステラの瞳を見続けた。


「そうね、ロランさんとこうしてスイーツ部をずっと開催できると嬉しいかな」


 ステラは話をすり替えた。男女間の友情は存在し継続するのだろうかと考えを巡らせはじめた。


(僕の思いは届かない。いや、届いてもステラは簡単に受けてはくれない)


 ロランは「いつまでも良いお友達でいましょう」とかわされたことに落ち込みながらも、「もう行動を共にするのはやめましょう!」と否定されなかったことに少しホッとした。


 その2人のやり取りを離れたところからジルは見守っていた。


(ステラ様がこれを機に少しでもレンツ様を意識してくだされば……レンツ様、もっと押してください。押しまくってください!)


 色々な思惑はアップルパイの香りに包まれて、甘酸っぱい時間は過ぎていった。




お読みいただきありがとうございます。

現時点でいいねが最も多いのは第13部のロイヤルロインです。

早々に、アクセス・ブクマ・★・いいねをありがとうございます。


次話から最終章(2〜3万字程度)の予定です。

ステラとヤンデレ君たちをよろしくお願いします(__)





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