ラムネ
あの一瞬で恋に落ちた。一目惚れだった。さらさらとした髪、艶やかな瞳。夏に飲むラムネのように、爽やかで、綺麗だった――。
自分は葵さんに想いを寄せていた。葵さんは、自分と同じ学級に所属していて、まさに十全十美という言葉がぴったりなほど、美しかった。それなのに頭も良く、定期考査では学年トップの成績を誇り、スポーツも万能。だから、自分は葵さんに、憧れと好意の入り混じったような感情を抱いていた。
いつの日かの体育科の授業。私は葵さんと二人一組になり、徒競走の練習をしていた。自分は運動はあまり得意な方では無かったが、走ることだけは好きだったため、無我夢中で練習していて、葵さんはゴールでタイムを測ってくれていた。
その時だった。急に目の前が真っ暗になり、何も見えなくなって、倒れてしまった。ずっと走っていたから、熱中症になってしまったようだった。意識が遠のいているのが感じられた。
目が覚めると見覚えの無い天井が目に映った。
どうやらここは保健室で、自分は一時間ほど休ませてもらっていたようだった。
「大丈夫? 暑いよね。」
声の主の方を向くと、そこには葵さんがいて、保健室に入ってくるところだった。
「いやー。心配したよ? 急に倒れちゃうんだもん! 」
自分はまだ熱い自分の額を触り、笑いながら心の中で申し訳なく思った。
「私がお姫様抱っこで保健室まで連れて行ったんだよ。私力持ちだからね! 」
この瞬間、心の中で何かがきゅうと音を立てて動いた。
「今冷たい飲み物買ってきたんだけど、ラムネとコーラどっちが良いかな? 」
だめだ、だめだ、葵さんに恋をしてはいけない、と自分に言い聞かせながら、自分の制御が利かなくなってきていることを感じた。
自分は葵さんと同じ性を持ち合わせてしまっているから――。
その日の葵さんは、いつもより夏に飲むラムネのように、爽やかに感じられて、自分はラムネの中に入っているビー玉のように、葵さんに包まれているようだった――。
初投稿。
読んでくださりありがとうございました!
もし少しでも良いと思って下さった方がいらっしゃれば長編も考えております。
これからの活動も応援して下さると嬉しいです!
ありがとうございました。




