7話 邪神の弟子は、人類の天敵。
7話 邪神の弟子は、人類の天敵。
「な、なんだ、貴様ら……何者だ?!」
困惑するアイムの前に、燃えるような燕尾服を身にまとった男が歩み寄り、
「俺はミシャンドラ・クロート。お前にも分かるよう身分を説明すると、ビッグの師だ。ショボすぎる称号だから、あまりそう名乗りたくはないが」
「……ビッグの……まさか、神……?」
「神段には到達しているが、俺の中では、神を名乗っていいのは師匠だけだと思っている。ゆえに、俺は神を名乗りはしない。俺はあくまでも、偉大なる師の弟子に過ぎん。だが、事実、究極最強闘神の一番弟子。それが、この俺、ミシャンドラ・クロートだ」
「一番弟子はオイちゃんでちゅ」
「黙ってろ。その議論は長くなる……さて、世界二位の列強である大東京帝国の皇帝、アイム・ソーリ。お前の武を見せてみろ。判定してやる。お前が俺たちの弟子にふさわしいかどうか」
「何をワケの分からん事を……大言壮語もはなはだしい」
「俺たちの威圧感に震えながらも虚勢を張るか。そこまでは合格だ。そのぐらいの気概がなければお話にならない。さあ、お前の力を見せてみろ。どんな手段でも構わん。お前が培ってきた闘気を俺に――」
「侵入者だ! 何をしている! はやく、キグルミ部隊を動員しろ! 全機をフル投入するんだ! 急げぇええ!」
悲鳴に近い雄叫びの直後、八方から、黒煙を吐いている妙な兵器が百体ほど現れた。
「あいつらだ! 殺せ! はやくしろ!」
即座に襲いかかってくる百を超えるキグルミ。
装備している無数の魔法兵器を乱射してくる。
空中にジオメトリを描きながら無慈悲に炸裂する魔弾の雨。
だが、
「兵器としてはクソだが――」
世界を埋め尽くす弾幕をものともせず、ヒョイヒョイと気楽に回避して、キグルミの背後に回ると、クロートは、
「面白いオモチャである事は認めてやる。まあ、だからといって、欲しいとは思わないがな」
軽く握った拳を振るい、心臓部を一撃かつ高速で破壊していく。
魔法でコーティングした魔鉄は、硬度が凶悪に増す。
だが、その魔法装甲を、クロートは、拳ひとつで、バキバキに砕いていく。
ほんの数秒。
ほんのわずかな時間で、百体以上の高性能魔法兵器がただのガラクタになった。
「ば、ばかな……」
信じられない光景に、ペタンとその場で尻もちをつくアイム。
そんなアイムに、クロートは、優雅な態度で、
「このガラクタをキチンと活用していれば、シバクを制圧するくらいのことはできただろうな。オモチャで世界を支配しようと考えるとは、なかなかの狂気。そのイカれ方、アッパレ。気に入ったぞ。弟子にしてやる。喜ぶがいい」
「……ぁ……ぁ……ぁ……」
「どうした?」
「あ、ありえない……その異常な力……ま、まさか……本当に……伝説の闘神?」
「虚無位階775段。エンブレムは『武閃神』。属性は『死神』。称号は『最強神の意志を継ぐ者』。分不相応なので、あまり名乗りたくはないが、一応、師匠と同じく、神の地位につく者だ」
アイムは呆然とする。
整理が追い付かない。
どうにか情報を処理しようと、脳みそが、かつてないほど高速で回転しているが、
(信じられん。神が実在し、顕現するなど……夢なら、はやく覚めてくれ)
懇願する。
こんな現実は受け入れたくないと、脳みそだけではなく、
全身が『現在』と『事実』を拒絶する。
まったく目を覚ます様子がない現状に、
(夢ではないというのか……こんな事があっていいはず――)
泣きだしそうになった。
心が砕け散りそうになる。
そんなアイムに、
「今日からお前は、俺の弟子となり、お前らの常識からすればありえざる力を得る。対価はお前のすべてでいい。良かったな。こんな破格の条件はめったにない」
「すべ……て……?」
「そうだ。たったそれだけで、お前は武の極みに近づける。うれしいだろう」
アイムは、ピクピクとこめかみをふるわせながら、
「あ……ありがとう……ございます」
しゃがれた声で、そうつぶやいた。
小刻みに震動している、かすれた声。
そんなアイムの姿を見て、クロートは満足気に笑う。
「くく、感動がにじみ出ているぞ。素直なヤツめ」
――アイムは、
(どうにかしなければ……)
当然、感動などしていなかった。
底しれない恐怖を感じていただけ。
(こんな化物が……人の世に存在していけない。あってはならない力――人の世界には過ぎた力だ。どうにか、排除しなければ。必ず駆除しなければいけない。どうにかしないと……どうにか、どうにか……)
アイムは、奥歯をかみしめながら、
(仕方ない。心底癪だが……『あの連中』に頼るしかないか……)