70話 究極の邪神。
70話 究極の邪神。
「今現在、どこにいるかは知らん! しかし、名前だけは知っている!」
そこで、A7は、今の彼にとっての期待と希望、そのすべてである、己が知る中で間違いなく最強の存在の名前を口にした。
「やつの名は平熱マン!」
A7からすれば、もはや、その名前に、眩しい輝きすら感じていた。
希望の象徴。
最後の砦。
「ふざけた名だが、しかし、強さは本物だ! 平熱マンは、お前らより強い!」
A7の発言を聞いて、
「「「「「「「「あはははははははははははははははははははははははははは!」」」」」」」」」
神々は一斉に笑った。
腹を抱えている彼・彼女らを見て、A7は、ニヤっとほくそえんだ。
「はん……好きなだけ笑っていればいい」
愚者を憐れむ表情で、
「確かに名前はナメているが、事実、あいつの強さはケタが違った。いずれ、おまえたちは、真の絶望を痛感するだろう。平熱マンと名乗った、あの男の前に平伏し――」
と、そこまで言った所で、闘神たちは、腹を抱えたまま、
「流石お師匠たんでちゅ。最後の最後で、美味しいところを全部持っていきまちたね」
「面白すぎだろ! まさか、全部計算尽くか?!」
「おほほ、ありえますね。お師匠様ほどの方なら」
「流石は我が師、さすがは最強にして最悪の神」
「モエモエも、びっくりだよ♪ 本当に、どこまでもエゲつなくカッコイイね♪」
「マジ、ししょー、パないんだけど。エンターテイナーとしても最強とか、どんだけ」
(相変わらず……超かっけぇ……)
口々に、最強の闘神をほめたたえる。
誰もが、心から敬服している。
――ふいに、クロートが、A7の肩を叩き、
「ほめてやる」
ニヤァと笑う。
きわめて邪悪な笑み。
「おまえの目は正しい。確かに、俺らが束になっても、お前が語った『真に最強なる御仁』には勝てない。全員でかかっても、片手でボコボコにされる。それは、疑う余地すらないただの事実だ」
クロートの発言を受けて、A7は顔を青くした。
「……ど、どういう……ぃ、いや……まさか?!」
バカじゃない。
だから、すぐに届いた。
理解。
把握。
ゆえに絶望。
「…そんな……バカな……」
一気に血の気が引いていった。
顔に赤みが見られない。
血が凍えてしまったよう。
A7という個を支えていた、未来・可能性という一筋の淡い光がかき消えてしまったことで、彼は、その場でペタリと座り込み、コケた顔で、虚ろな世界を見つめる。
そんな、壊れてしまったA7に、クロートが、穏やかな声音で、
「正しい解答を導き出したお前の正確無比な目を称えて、一つ、素晴らしい情報をくれてやる。俺らの師匠、お前ら人類が芯から恐れている邪神の名前を教えてやる」
「……やめ……」
A7は、必死に耳をふさぐ。
推理を確定にしたくない。
希望を砕かれるのは、もうウンザリ。
底知れない絶望なんて、もうコリゴリ。
「やめてくれ……頼むから……何も言わないで……もう、地獄はたくさんだ」
終末を迎えたような顔で、知りたくない情報をどうにか遮断しようと、全力で耳をふさいでいるA7。
だが、耳という器官は、何をしても、音を完全には遮断してくれない。
プルプルと震えているA7の耳元で、クロートは情け容赦なく、
「俺たちの師、無上の邪神、究極にして最強の殺神、その名は――」
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ぁ――」
絶望の底に沈められた結果、A7の意識はプツンとかき消えた。
血の涙を流しながら気絶したA7を見ながら、八人の神々は楽しそうに嗤った。
――こうして、今日も、神々は、暇つぶしに、師が信条としていた『究極の邪悪』を追及する。
いずれ、完璧になって帰ってくるであろう自分たちの師――
平熱マンを、待ちながら。




