6話 大東京帝国。
6話 大東京帝国。
大東京帝国は、シバクに次ぐ大国で、魔法技術の発展と科学兵器の開発に全てを捧げている魔法科学至上国家。
アシテンア大陸のちょうど中心に位置しており、貧富の差が異常に激しい事でも有名な帝政国家。
この世界において、『魔法(基本物理の外側にある法則)』は、その特異な性質ゆえ、武術に活用される事が多い技術・学問なのだが、東京では、科学兵器に、その可能性のすべてを注ぎ込んだ。
『マジックテクノロジーこそ、この世界に降り立った神である』
大東京帝国の初代皇帝が残したこの言葉は、帝国で生まれた者が、最初に覚えさせられる文言であり、帝国の基本理念である。
頭の回転数・手先の器用さという点においては他の追随を許さない最高峰の先進国家だが、大東京帝国という列強は、実質、なんの権力も持ってはいない。
一応、覇権国家であるシバクとは同等の同盟を結んでいる――という事になっているが、実際にはただの属国であり、普通に従属している状況にある。
ゆえに、帝国の悲願はたった一つ。
「ビッグを殺し、世界の覇権をこの手に掴む」
そのために準備をしてきた。
魔法科学の技術力ではどこにも負けない自信があった東京は、ひそかに、魔法装甲兵器、通称『キグルミ』を開発していた。
キグルミには、凶悪な魔法武装がふんだんにつめこまれており、暴走を許せば世界が滅びかねない究極の魔法兵器。
「ついにキグルミ部隊が完成した!! この武力をもってすれば、ビッグなど、おそるるに足らん!!」
巨大な地下研究施設で、東京の皇帝アイム・ソーリは、自慢のキグルミ部隊を見渡し、歓喜に震えた。
「魔法を活用した科学こそが最強の神なのだ。原始的な腕力など、魔法科学の前では、矮小な一次エネルギーに過ぎない。武術など、魔法科学兵器の前では、無為に野蛮なだけの非生産的な暴力でしかないのだ」
アイムは、これまでずっと、『ビッグに傅くだけの無能な王』と呼ばれてきた。
魔法科学兵器などという、くだらないオモチャで遊んでいるだけの脆弱な王。
だが、そんな過小評価も今日で終わる。
――と、アイムは信じて疑わない。
「教えてやるぞ。叡智こそが、人類の神であり、最強の力であるという事を」
アイムは、もう一度、自慢のキグルミ部隊を見渡して、
「ほら、美しい。この光景こそが神」
歓喜に震えてから、
「これで、世界の覇権は、我々のもの。ようやく、世界が正しい形におさまる」
とつぶやきながら、心の中で、
(ビッグを叩きつぶし、表の覇権を頂く。そして、いつかは、『あの連中』を出し抜き、この世界の絶対王に、私が……)
そんな、野望に満ち満ちているアイムに、側近の一人が、
「確かに、これだけの力があれば、ビッグを葬ることは可能でしょう。しかし、気がかりなことがひとつ」
「ビッグの元に降臨したという闘神のことだな?」
「まさしく」
「私もそれは気になっていた。だが、そこに含まれている感情は警戒ではない。正直、呆れている」
アイムは鼻で笑って、
「武の神など、ただの伝説だ。魔法どころか初等物理すら理解できていない太古の人間が夢見たクソ以下の妄想に過ぎん。神は実像になどなりえない。神とは、人の心の中だけに存在する偶像という『心的現象』でしかない。なぜ、ビッグは、あんな愚かな発言をしたのか。時期的にも被る事から、あの発表は、我々が秘密裏に創っていたこのキグルミの存在に気づいたがゆえの牽制だと考えるのが妥当。……つまりは我が国に裏切り者がいる」
「それが誰かを特定するのは非常に困難かと」
「わかっている。だから、犯人探しはせん」
「放置して大丈夫でしょうか」
「開発者や設計図は隔離している。ビッグが握っているであろうキグルミの情報など、せいぜいが『巨大な力を持った兵器』程度だろう。短期決戦で情報を与える間もなく制圧してやる。それを可能とする力が、キグルミにはある!」
アイム・ソーリはニヤっと笑う。
「ビッグめ。情報を得ていながら、闘神降臨などという、下らん牽制に時間を割いたことを後悔するがいい。世界の覇権を握るのは私だ。私が愛する科学と魔法こそが神であると、世界に思い知らせてやる! そして、いずれ、私という個そのものが、この世の神へと昇華するのだ。ふふ……ふはははははははははははははははははははは!!」
そんな、大東京帝国皇帝の発言に、
「なんか、必死でちゅねぇ。……ちょっとだけ、邪魔しちゃ悪いかなぁとか思っちゃいまちゅ」
そんな言葉を返す者がいた。
背後。
振り返ると、赤いパーカーに黄色いハーフパンツというラフな格好をした少年がいた。
その、ダラっとした少年だけではない。
ニコニコと穏やかな微笑みを絶やさない妖艶な美女と、
真っ赤な燕尾服の美青年と、
楊枝をくわえて羽織を着たヒゲ面のオッサンと、
サラシを巻いた褐色金髪の美少女もいる。
「な、なんだ、貴様ら……何者だ?!」