68話 殺神遊戯。
68話 殺神遊戯。
――結局、彼女にできたことなど何もなかった。
「おい、大丈夫か。おい! おーい! ちょ、マジで起きてくれ。おーい」
気づけば、無双仙女は肩をゆすられていた。
「うぁっ」
ハっと気がついて、
「ぁ……ぁ……」
あたりを見渡す無双仙女。
目の前のゴードに焦点をあてる。
若干歪んでいるが、識別できないほどではない。
「よかったぁ、起きたぁ……ふぅ」
ゴードは、ホっとした表情を浮かべて、
「おまえなぁ……最後、本気で俺を殺そうと攻撃してきただろ。やめろよ。殺気に反応して、普通にコンボ決めちゃったじゃねぇか。勘弁してくれ。なんで、お前は、そう頑なに、俺を、『女子供に手をあげる最低野郎』に仕立て上げようとするんだ」
「……あ、ありえない……あなたの強さは異常だ……私は……神を超えた真の超人なのに……その私が、わずかな抵抗すらできないなんて……」
「流石に、その年で神様は超えられないだろ。うぬぼれ方がエグいな。てか、いい加減、妄想やめなさい。ったく、厨二を発病するには年齢的にまだ早いだろ」
「あなたは……いったい……」
尋ねようと思い、やめる。
これ以上、己の愚かさを露呈するのははばかられた。
だいたい、聞かずとも、すでに理解できている。
(やはり……間違いなく、この御方こそが、噂の邪し――いや、最強の究極闘皇神様)
「さてと、じゃあ、俺はそろそろ店に戻――」
「うぅ……うぅう……ぬぅうううう、くぁあああああ……うぅ……おぉお……」
「ん、おい、どうした?」
「ぁ、う……クソ……なんで……まだ一日経って……く、くそ……せっかく……せっかく、出会えたのに……なんで……くそ……くそぉおお! うっ……げほっ、ごほっ」
「おいおい、おいおいおい! マジでか? 俺か? 俺がボコったからか? いやいやいや、勘弁、勘弁! え、マジで? おいおいおい!」
「く……はっ……」
無双仙女の体を、青白い光が包み込む。
(死ぬ……のか……)
終わりを自覚すると、妙に穏やかな気持ちになった。
いまさら死を恐れるほど、短い人生を送ってはいない。
抗えないのならば、受け入れる。その程度の度量はある。
だから、
(燃え尽きる寸前の……魂の……炎……きれいだ)
青い光。
魂が溶ける直前の輝き。
無双仙女は、安らかな顔で、
(まあいいさ……最後に……出会えた)
ゴードとの闘いは充実していた。
闘いというよりは指導だったが、全てをぶつけることができたから、非常に楽しかった。
(……できれば……この方の……弟子になりたかったが……仕方ない……)
あきらめて両目を閉じた無双仙女。
そんな彼女の様子を見て、ゴードは、
(ん? ああ、もしかして、変なバッド効果のあるスキルを発動させていたのか? えっと……スキル解除すれば、体調戻ったりするのかな? やってみるか……てか、俺、気系の技も使えるのかな? まあいいや、ものはためしだ)
腰を落として、拳に負の闘気を集中させる。
右の拳が輝いていく。
漆黒に燃える豪気。
膨大な量の邪気が充満していく。
「真・殺神遊戯!!!!!」
負の闘気で満たされた拳を、無双仙女の額に押し付けて、『他者が発動させているスキルを無理やり解除させる技』を放った。
その瞬間、
「――かはぁっ!!」
彼女を覆っていた光がスゥっと消え失せ、
「……ん? なっ……まさか……」
無双仙女は、押し寄せてくる疲労感や退廃感から解放された。
「これは……いったい……」
ダルいことはダルいが、死の歩みは感じない。
(おお、普通に使えたな)
手応えに満足してから、ゴードは、無双仙女に視線を向けて、
「あまり、体によくないスキルとか使わない方がいいと思うぞ。ゲームじゃないんだから」
ちょっとした親切でそう言った。
あまりにも呑気が過ぎる発言。
だからというわけでもないが、無双仙女の耳には入っていない。
己が身に何が起きたのかを理解するだけで精一杯。
確かな理解に届くと、あまりにも、己にとって都合がよすぎる展開・状況に、
「あ……あぁ……ああ、うぁああ」
興奮を抑えきれなくなった。
歓喜が全身を包んでいく。
心が炸裂しそうなほどに満たされていく。
そんな彼女を残して、
「じゃあね、ばいばい」
去って行こうとするゴードを、
「わ! 私をぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
喉を枯らす叫びとジャンピング土下座。
千年近く生きてきたが、土下座をするのは生まれて初めて。
「おわっ……ん? どうした?」
「あなた様の弟子にしていただきたく存じます! その願いが叶うのであれば、この身のすべてを捧げることさえ厭いません! ですので、どうか! 切に! 切にぃい!」
「はぁ? 弟子?」
「どうかぁああ! どうかぁああああああああああああああああああああああ!」
鬼気迫る表情。
何度も額を地にこすりつける。
だが、
「いやいや、ムリムリ」
ゴードは、首と両手を左右に振って拒絶する。
「そ、そんなぁ!! な、なぜぇえ?!!」
その問いに、ゴードは、当たり前のように、
「俺はまだ、弟子をとれるほどの寿司職人じゃないから」




