67話 武の極み。
67話 武の極み。
(……投げ抜けまで完璧……本物だ……この男……間違いない……究極の邪神、最強の闘神……まさか、本当に実在したとは……)
そこで、無双仙女は、表情を変える。
グっと奥歯をかみしめ、腰を落とし、スっと両の拳をハンティングスタイルで構えてから、
「お名前を、お聞かせいただきたい」
「は? 名前? 俺の? 俺はゴードだよ。ゴード・ザナルキア」
「ザナルキア殿、一人の、武を究めんとする者として、本気の手合わせを願いたい」
「……いや、そんなガチの顔をされても、俺、別に格闘技をマジでやっているわけじゃないから。見よう見まねでしかないっていうか、遊びの延長というか――」
「参る」
本気になった彼女の体を赤いオーラが包み込む。
それは、虚無では、スキル発動の証。
(スキル? へぇ、ここでもスキルとかあるんだ。まあ、覚醒あるならスキルもあるか……しかし、ずいぶん動きが早くなったな。ブースト系か。すごいな、俺も使えるのかな。無理か。ゴードのマスタリーシートにポイント振った覚えないもんな)
のんきにそんな事を考えていると、無双仙女の本気の拳が目の前で空を切った。
(おっと……めちゃめちゃ速ぇ。マジか)
紙一重でかわしながら、
(このガキ、虚無で言うところの千段クラス。この世界の人間ってすごいな。幼女でも、こんなに強いんだ。じゃあ、この国のトップであるビッグや、東京の皇帝ってどんだけ強いんだよ……まったく、やれやれ……本当に強いヤツ相手には、絶対にケンカを売らないようにしよう……うん)
溜息が出る。
ケンカの技術というものに、それなりの自信がついてきていたのだが、所詮、自分は、格闘技の天才少女と同等程度しかないと知って愕然とする。
(この少女、ジャイさんくらい強いって感じか。ゲームの時なら、勝率ごぶごぶって所だろうけど……)
自分の方が圧倒的に動けることを肌で感じ取ったゴードは、
(これはゲームじゃない。なんか、よーわからんけど、ゲームの時より、今の方がスムーズに動けている。つまりは、だったら負けない)
軽やかで、しなやか。
思った通りに動く体。
コントローラーを握っていた時より、動きが明らかに鋭い。
(うん、普通に勝てるな)
この領域に立ってしまった今、もはやゴードが彼女に負けることはありえない。
(……それにしても、このお嬢ちゃん、すごいな。まだまだ強くなりそうだ。やべぇな。まじで『他人を育てたがる妙な癖』がついちゃっているよ。今のも、無意識のうちに、指導手になってるし。……まあいいか、悪いことじゃないし、この癖はもうなおらん。……おっと、今のは、よかったな。ほらほら、ここで右を打ちな。そうそう、まずは、そのタイミングを体に叩き込まないと、姫神無天のスタイルをつかいこなせたことにはならない)
戦闘開始から数分後。
無双仙女は、あまりの事態に絶句する。
(し、信じられん。ここまで強いとは……しかも、この男、これだけの動きを見せていながら、まだ全力ではない。いや、手を抜いているなどという低次の話ではない。すべての動きが、ありえないほど高次の手ほどき。この男の、一つ一つの動きが、私に、『がんばれ、お前はもっと輝ける』と、語りかけてくる)
全ての攻撃が、あざやかにかわされる。
確反やスカ確のチャンスをことごとくスルーされ、
逆に、ことあるごとに、磨くためのチャンスを与えられる。
こうすれば強くなれるよ。
こうするともっといいよ。
一つ一つの動きが、語りかけてくる。
無双仙女を、更なる高みへと導いてくれる。
(格が、桁が、世界が違いすぎる……か……勝てない……いや、勝つとか、負けるとか、そんな次元じゃない)
何一つ届かない。
究極の高み。
強さの果て。
絶対なる武の真髄。
(決して届かない、個の極限、神の境地。これが、神々の頂点!!)
ミシャンドラ・クロートの言葉に嘘はなかった。
確かに、クロートなど比べ物にならない。
圧倒的な強さ。
一生かけても届く気がしない、無上にして極限の世界。
(……くぅ……だが、ひるむな! 怖気づくな! これはチャンス。確信した! この神に勝てば、私は、間違いなく届く。無為な頂点などではなく、願ってやまなかった『真なる武の極み』に届く)
勝てるわけなどない。
存在の次元が違いすぎる。
拳をあてることすら、ままならないだろう。
だが、ここで引いては、一生届かない気がする。
だから、
「貴殿に、私のすべてをぶつける!!」




