62話 ふりかえったら、誰もついてきていない。
62話 ふりかえったら、誰もついてきていない。
(この強さは、虚無でもトップクラス。すなわち、究極闘皇神クラス……ジャイロキューブやサイジンス・ファイズと同じくらいでちゅね。史上最強にして絶対無敵のお師匠たんでも、不調時には勝てないレベルでちゅ)
そこで、無双仙女は、神々を見渡しながら、
「ミシャンドラ・クロート。どう? うれしいでしょ? 私にはわかる。あなたの力は究極の領域に至っている。今まで、その力に匹敵する者は存在しなかった。最強ゆえの虚しさ。私には、その気持ち、その孤独がよくわかる。孤高なんて、つまらないだけ。一人ぼっちの最強なんて、ただ世界から仲間外れにされただけ。さあ、寂しいだけの空っぽな時間はおしまい。一緒に楽しみましょう。ショータイムよ! 極限の世界で、互いの魂を削りあって、無為な命に、輝きと潤いを与えましょう」
心底からの、真摯な誘い。
この日をどれだけ待ち望んでいたか。
――だが、
「は? イヤだけど?」
クロートは、あっさりと断った。
全力で拒否した――という訳ですらない。
ゆえに、
「…………………………………………は?」
無双仙女は、本当に、心の底からのキョトン顔をしてみせた。
理解が追い付いていない様子の彼女に、クロートは、畳みかけるように、
「もう遊びの時間は終わりだ。俺は忙しいんだよ。特に今日は洗濯物がたまっているし、部屋の掃除もしないといけないからな。というわけで、お開きだ。明日以降なら、ヒマだから、遊んでやってもいいぜ」
そんな、無情が過ぎるクロートの言葉を聞いて、背後にいる七人が声を出して笑った。
誰もが、本当に、心底から楽しそうに笑っている。
そんな神々をキっと睨んだ無双仙女は、ギリっと奥歯をかみしめて、
「ふざけないで!」
慟哭のように、
「冗談は、空気を読んで言いなさい! そこにいる『少年のような神』が見抜いた通り、私は今日で死んでしまうのよ! 今、この瞬間しか、私は輝けない! なのに――」
「だから言ってんだよ」
クロートが、面倒くさそうに頭をかきながら、
「嫌がらせで言ってんだ。気づけ、バカ」
「ぃ、いったい……どういうこと?! ミシャンドラ・クロート。あなただって、自分の力を試してみたいと思うでしょう? その強大な力を、思う存分振るってみたいとおもうでしょう?」
数百年という長い間、無双仙女はずっと退屈していた。
ありとあらゆる全てをかなぐり捨て、気が遠くなる程の長い時間をかけ、必死になって武の極みに辿り着いたら、そこには何もなかった。
周りを見渡しても、振りかえってみても、
そこには自分以外、誰一人いなかった。
――『虚しさ』しか『無』かった――
孤高とは、ようするに一人ぼっち。
頂点に辿り着く・無敵になる・最強になるとは、
例外なく、そういう事である。
「あなたの力を、私は受け止められる。私の力を、あなたは受け止められる。それが、それだけがすべてじゃない!」
長い、長い、長い、長い、長い、長い、長い時の中で、無双仙女は、何度も夢に見た。
同等以上の者と踊る時間。
渇いた命を潤してくれる、輝くような一日の訪れを、心の底から望んでいた。
「ミシャンドラ・クロート。私には、もう、わかっている。あなたこそが最強の神なのでしょう?」
無双仙女は、穏やかな口調で、
「あなたの力は次元を超えている。あなたの力が頂点なのは疑いようがない。あなたが未だ邪神を師事している理由も、なんとなくわかる。あなたのような神を育て上げた偉大なる神。その桁違いの手腕、私も敬意を表する。素晴らしい功績。あなたの才能があってこそなのでしょうけれど、それでも、その偉業には感嘆せざるをえない」
滔々と語る彼女に、神々は、アホを見る目を向けた。
(バカだな、こいつ。俺なんざ、師匠の足もとにも及ばないのに……)
(勘違いしているというより、そうであってほしいという願望でちゅね、これは)
(アホだ! すげぇアホがいる! クロートは、確かに弱かねぇが、先生と比べたらハナクソだっつーのによぉ!)
(酷いな。愚かさも、ここまで極まると憐れみしか感じぬ)
(現実を知らないというのは、こんなにも無様なのですね)
(この人、ほんと、おバカさんなんだね♪)
(いたたたたた。キッツゥ。マジ、このロリババァ、頭わるすぎてハゲんだけど)
(あ、ロリエルのパンツ、見えた。うーむ、下着まであざといとは、流石ロリエル!)




