61話 頂点の風景。
61話 頂点の風景。
「生命核分裂の秘術、起動。届け――絶死の咆哮――」
起動した瞬間、無双仙女は、自身の細胞に高圧がかかった事を認識する。
圧縮される。
彼女の、あらゆるすべてが、限界まで活性化する。心魂が昇華していく。常人には到達しえない領域に届く。
そんな彼女の様子を見て、クロートは、
「なんだ、ただのブーストスキルか」
つまらなそうにそうつぶやいた。
それぞれのスタイルに設定されているスキルの発動。
虚無というゲームでは珍しくもない光景。
「異常なほど能力が上ったな……効果上昇に極振りしたか。アホなキャラメイクしやがって。だから、弱いんだよ。あれだと、持続時間は死ぬほど短そうだ。十秒持てばいいところか」
「いや、バカみたいに長いでちゅよ。軽く一日は持ちそうでちゅ」
「は? さすがにそれはないだろう。つぅか、一日って長すぎじゃねぇか。体力が徐々に減るくらいのバッド効果があっても、一日はもたねぇ」
「あのスキルの代償は、そんなものじゃないでちゅ」
「……というか、そもそも、そんな長期間発動するブーストスキルなんてねぇだろ」
「仙女ちゃんのオリジナルでちゅよ。虚無にはなかったスキルでちゅ」
「ふぅん、で? あいつが払った代償って?」
「寿命を一日に圧縮……でちゅ」
「あらあら、まあまあ」
「一回使ったら死ぬスキルか! ははは! あの女、バカだ、バカ!」
「自ら命を放棄するとは、なんと愚かな」
「え~、あの子、死んじゃうの? ぐすん……かわいそう……もえもえ、仙女さんのこと、絶対に忘れないからね♪」
「ウソつくなし。ロリエル、マジ、発言が常時テキトーすぎ。ってか、マジで、あの女、バカじゃね?」
(今日死ぬなら、露骨に撫でまわしたとしても許されるのではないだろうか。いや、もっと先のことをしたとしても、どうせ死ぬのだから……)
クロートは、ため息をつきながら、
「一回こっきりのスキル……ね。アホくさ」
つぶやきながら、グっと腰をおとした。両の拳を握り締める。
★
「ははははははははははははははははっ。見える、見えるわ! ミシャンドラ・クロート! あなたは本当に強い! 流石は神! 人間という脆弱な種の限界などは遙かに超越した極限の心技体! 惚れ惚れする! なんと美しい! 心の底から敬意を表する!」
爆裂した――と表現すべき、凶悪な拳の連打を、
両腕だけで受けたクロート。
ビリビリと全身を襲う痺れに顔を歪ませているクロートの視界の中で、無双仙女は、歓喜の表情で天を仰ぎ、
「強い、強い、強い、強い、強い、強いぃい! ああ、本当に強い!! 神の称号は伊達ではなかった! 今の私は、あなたの力を正確に測る事ができる! それが何より誇らしい! あなたの強さは、まさしく天上で輝く華! ウソ偽りない、神の領域! なんと、なんと、なんと、神々しい強さ!! なんて、美しい!!」
「……本音は?」
クロートが、ウザったそうな顔で、しびれている両手をプラプラと振りながら、
「まあ、聞かなくても分かるけどな。自分の方が強いって言いたいんだろ?」
「そのとおり!」
そこで、無双仙女は、すぅと、興奮を抑え込むように、深呼吸をして、
「あなたよりも、私の方が強い。私は、今、神を超えた。今の私に勝てる者などこの世に存在しない!!」
己が最強である事を信じ切ってやまない、輝くほどの澄んだ目でクロートの目を見つめながらそう言った。
クロートの背後で、そんな彼女をジっと見据えていた酒神が、
(まあ、確かに強いでちゅね。さすがは人生で一回しか使えない一日限定のチートスキル。とんでもない能力上昇率でちゅ。この強さは、虚無でもトップクラス。すなわち、究極闘皇神クラス……ジャイロキューブやサイジンス・ファイズと同じくらいでちゅね。史上最強にして絶対無敵のお師匠たんでも、不調時には勝てないレベルでちゅ)




