60話 現実になった夢。
60話 現実になった夢。
「――御大、A1から救援要請がきました。どうやらサバキは全滅したようです」
「あれ? 楽勝だって言ってなかった?」
「……実力的には、間違いなく、サバキ全軍の方が神々よりも上でした」
「となると、巧妙な奇襲でも受けて、逆に制圧されちゃったのかしら?」
『S2』の話を聞いて、『十歳くらいにしか見えない少女』――無双仙女は、
「それとも、まさか、あなたたちが、神々の力を見誤った?」
「そんなはずはない……と思うのですが、断言はできません。申し訳ありません」
「謝る必要なんてないわ。そうであってほしいと思っていたのだから」
「……」
「誰にも負けなくなったのが九百年ほど前、誰にも挑まれなくなったのが七百年前。自分がどこまで昇ったのか確認したくなったのが五百年前」
無双仙女はニコっとほほ笑みながら、
「何百年も待ったのだから、モノサシくらいにはなってもらわないと困るのよね」
「無理でしょう。御大は強すぎます。どうやら神々は、想定より高い力を持っていたようですが、どれだけ高く見積もっても、八人の内、一人か二人がS1に匹敵するかどうか、というのが関の山だと思われます。御大の御力を持ってすれば、どうという事はないでしょう」
「八人全員がS1を軽く凌駕している可能性は、ゼロ?」
「ゼロ……ではありませんが、限りなくゼロに近いかと」
「ゼロじゃないなら夢くらい見させてよ。最大の理想は、そうね……八人全員が、私の倍以上強いって所かしら」
「ありえません」
「相手は仮にも神よ? そのぐらい、あってもいいはずじゃない」
「夢ではなく現実を見てください。御大の力は神をも凌駕しております」
「おかしな話ね。神を凌駕した自分が現実で、負ける未来が夢だなんて」
夢は――
★
――現実になった。
「きゃあっっ!!」
クロートの蹴りがきれいに入り、無双仙女は尻もちをついた。
つい、柄にもない悲鳴をあげてしまうほどの衝撃。
けられた鳩尾を両手で押さえながら身もだえする無双仙女。
そんな彼女を見下しながら、
「この程度か……」
ガッカリしながら肩を落とすクロートの後ろで、
わざわざ集まってくれた仲間たちが、
「あらあら、無双仙女さんは、桁違いに強いというお話でしたのに……」
「五百段そこそこじゃねぇか! ザコいんだよ、クソが!」
「オイちゃんも、さすがにここまで弱いとは思わなかったでちゅ」
「サバキ程度の組織が『実質的覇者』となれる世界に、多くを期待する方が愚かだったということであろうな」
「クロートきゅん♪ それ以上、小さな女の子をイジめちゃ、メっだよ♪」
「ロリエル、それ勘違いだし。あいつ、ガキに見えっけど、実際は、千歳を超えている超クソババァだって話だかんね」
(小学生にしか見えない千歳の仙女……むしろ、ありだな。スクール水着を着せて撫でまわしたい。胸がないのが逆にいいパターンのヤツだ)
ペチャクチャおしゃべりしながら、クロートと無双仙女の戦いをノンビリと観戦している七人の神々。
そんな、超越者達を見渡しながら、無双仙女は、
「は、はは……」
歓喜に打ち震えていた。
「素晴らしい……ここまで……ここまでの強さだったか、神!」
叫ぶと、無双仙女は、額に右手の中指をあてて、
「この秘術を使う日を、開発した日から、ずっと夢見ていた。ようやく……夢が叶う」
「夢? 秘術?」
「願わくは、この技をも打ち破ってほしい……けど、さすがに、それはなさそうね。本当の本当の夢は、この力をも超える力を持った最強神の教えを受け、究極の先にある真の頂きへと昇ることだったけれど……まあ、よくばっちゃダメよね。この技を使うに値するほどの相手に出会えたことに感謝する」
「さっきから何言ってんだ」
「生命核分裂の秘術、起動。届け――絶死の咆哮――」




