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5話 傀儡の王様と、悲惨な邪神。


 5話 傀儡の王様と、悲惨な邪神。


 この世界において『武術の祖』と尊ばれる無双仙女の手ほどきを受けた若きビッグは、すぐに、その才能を開花させた。


 覚醒したビッグは、ほとんど一瞬で、その名前を世界にとどろかせた。

 この世界では、強さが地位と比例する。

 武力こそ名誉。


 ――なぜなら、この世界は、頻繁に、異世界からの侵略者に襲われるから――


 定期的に、世界各地で突如開く『ルート』から『異世界よりの侵略者』が訪れて暴れまわる『この特殊な世界』では、なによりも、そんな連中から守ってくれる強者こそを重んじている。


 ビッグはわずか十五歳で王になった。偉大なる支配者のデビュー。

 だが、実際の所、彼は傀儡に過ぎなかった。


 見た目が強そうで、実際にそこそこ強い。

 一般人の段位が二~三段、ケンカが強いと言われている者でも十段あるかないか。それが、この世界の常識。そんな世界で、五十段を超えているビッグの力は確かに別格。


 決して、強すぎはせず、なんともちょうどいい武力を持つ者。

 つまりは恰好の象徴。

 かわいいお人形さん。

 大衆の前で踊るピエロ。

 それが彼の役どころ。


 この世界には、一般的には知られていないが、しかし、ビッグなど足もとにも及ばない化物がウヨウヨ在籍している恐ろしい組織が存在する。

 この世界で稀に生まれる特別変異種だけを集めた異常な組織。

 五十段どころか、百段以下の者が存在しない絶対的最強の集団。


 ビッグは、その組織を闇に隠す張りぼての太陽。

 今日もどこか、光の裏で、絶対の力を持った正義の影がヌルリと蠢く。






 ★






 ――朝の到来におびえる。

 ボロボロになるまで働いて、

 眠れる時間はほんのわずか。


 ゴードの朝は、いつだって、深い絶望に包まれている。


(朝、くるなぁ……朝、くるなぁ……)


 うめきながら眠りにつき、目覚ましの音に絶望する。


 今にもクニャリと潰れそうな脆い頭を根性だけで支えて、布団からモゾモゾと這い上がる。

 眠る前に砕け散った心の破片を、どうにか拾い集めて器だけつくると、ゴードはよろよろと起き上がって、朝の仕事につく。

 三時に起きるのも、もう慣れた。


 魚市場へ競りに行けるのは上位の見習いだけ。

 見習いの中でも下層の存在であるゴードは店中を駆けずり回って、ひたすら掃除、掃除、掃除。くたくたになりながら掃除を終えたところがようやくスタートライン。


 次は、神経をすり減らす食材の仕込みが待っている。


 心と体を極限まですり減らした直後に訪れるのが、心技体のすべてを使う包丁研ぎ。


 技術を磨く修行と営業時間が終わると、地獄の店閉めが待っている。

 イスを持ち上げ、机を持ち上げ、雑巾を絞り、モップを振り回し、洗い物、洗濯、前日仕込み……やっても、やっても終わらない。

 この瞬間だけ時計の針が加速する。

 寝る時間がどんどん溶けていく。


 ズタズタになった魂を寝床に持っていけるのは早くても23時。

 大概は零時を超える。

 それでも翌日は変わらず3時起き。

 休日?

 ははっ。



「……死ぬかも……しれんな……」



 つぶやきながら、ゴードは目を閉じた。


 必ずやってくる朝におびえながら、ポタッポタッと、リアルにキツい時だけ流れる『余裕のない涙』で頬を濡らす。


 泣こうが喚こうが、明日はやってくる。

 望まなくとも、日はまた昇る。



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― 新着の感想 ―
[一言] 裏の組織のゼノリカ感。 無双仙女がソルか? 虚無のシステムなら1人で300倒せて当然
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