56話 誤解。
56話 誤解。
「いや、遅れていませんよね? 名前、さっき聞きましたよね。てか、なんすか、急に」
「こ、このたびは、この世界を救っていただき、まことに、まことにぃい、げほっ、げほっ、げほっ、おえっ」
「いや、俺、世界とかは特に救っていませんけど。あなたの命は、まあ、救ったと言っても過言にはならないと思いますけど」
「きょ、きょ、恐縮です!」
(おいおい。いくらなんでも、態度、変わりすぎだろ。さっきのヤツ程度の、ちょっとした雑魚から助けたぐらいでさぁ。あんなヤツよりも、ウチの大将の方が100倍ぐらい強いぞ)
ゴードは、ひんぱんに、大将から怒られているのだが、
その時に受けるゲンコツの重さはハンパではない。
何度か、反射で避けそうになったのだが、
しかし、大将のゲンコツは、
いつも、正確に、ゴードの脳天を捉えてくる。
単純な迫力や覇気もえげつない。
ゴードは思う。
『どうあがいても、大将には絶対、敵わない』と。
(寿司屋の大将の100分の1ぐらいの力しか持たないチンピラから助けたぐらいで、なんで、こんなに……もしかして、この世界の人間って、チョロイ奴しかいないのか? なんつーか、異様に義理がたいっつーか、律儀っつーか。マイさんと同じことになったらイヤだし……最初にくぎを打っておくか)
「この命と世界を助けてくださり、さらには、武の手ほどきまでして頂いたこの絶大なる御恩、決して……決して忘れはしません!! 必ず、この御恩に報いるだけの対価をお支払いいたします!」
「また大袈裟な……まあ、でも、さっき、ちょっと助言した事の対価を払ってくれるっていうのなら、一つ、お願いしたいことがあるんですけど」
「なっ、なんなりと!」
「二度と、ウチの店には近づかないでほしいんですよね」
「……え?」
「あ、で、今、見聞きしたことはすべて秘密にしてください。おねがいします」
言いながら、ゴードは、頭の中で、
(面倒くさいって理由で客を追い返したなんて、大将に知られたら、俺、終わりだからな。このことだけは黙っておいてもらわないと)
「秘密……ひみつ……な、なるほど……そういうことですか」
「あ、わかってもらえましたか。助かります」
(寿司屋で働いているのは、何らかのフェイク……おそらく、何かしらの壮大な計画の一つ……さすがは最強神。しかし、どんな理由で……ははは……予測の一つも立てられない行動をとられるとは、すべてにおいてスケールが違う)
「じゃあ、俺、戻るんで。諸々、よろしくお願いします」
そう言って去っていくゴードの背中を見送りながら、
(神の手ほどきを受け、ハッキリと気づかされた。俺はまだ強くなれる。もっと、もっと強くなって……いつか、あの偉大なる最強神のお役に――)
★
「――明日、邪悪なる神々に襲撃をかける。神は明日死ぬ」
人類の最終兵器、歴史の裏で世界を守り続けてきた秘密組織『サバキ』の中でも最上位クラスの存在――鋼鉄の女と恐れられる『A1』は、終結したサバキのメンバー全員、五十人の圧倒的達人たちを見渡しながら、
「神々は決して弱くはない。やつらの大将である邪神は、決して油断をすべきではない強大な相手。だが、しかし、我々には、御大がついている。つまり、人類側の勝利は揺るがない。これは敗北がない戦争。つまり、いつも通りだ。気楽に行け」
「A1、質問だ」
「許す。なんだ、A2」
「標的は、武点数的に二十点あるかないかが、それもたったの八人だけだろ? A組だけで十分じゃねぇか?」
「例の八人だけなら、C組だけでも問題はないだろう。だが、何度もいうように邪神が問題なのだ。まだ、邪神の力は測りきれていない。邪神が想定を上回っている場合を考えて行動を取らなければならない。……まぁ、とはいえ、所詮は、御大の御力が必要かそうでないかを判断するだけでしかないのだが」




