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55話 週末の睡眠不足。


 55話 週末の睡眠不足。


「チェンジ。ここからは、俺がかわります。トランゼクス使われると、対処方法が多すぎて、言葉だけじゃ伝えきれないし、あなたとあいつの反応速度差的に勝ち目なくなるんで」


「え、あ……はい」


 つい、従順な返事をしてしまったバイゼル。


 そんなバイゼルを押しのけて前に出てきたゴードを、

 エルスは鋭く睨みつけ、


「なんだ、貴様! 邪魔だ! 余は、今、そこのクズと闘っている。貴様などに用は――」


「――うるせぇよ」


 ギュンッ!

 と、エルスの目の前の空間が圧縮された。

 信じられない速度で間合いをつめられる。


「ぐぁあああああ!!」


 気づいた時には遙か上空まで吹っ飛ばされていた。

 顎が灼熱のマグマにでもつかったかのように熱い!

 極限の激痛。

 上空十メートル地点まで飛んだ時点で気付く。

 地獄のようなアッパーを叩き込まれ、空へと垂直に吹っ飛ばされた。



 ――殺神覇龍拳――



 最強神が最も得意としている絶技。

 超低数フレームで、ガードされても放った側が有利という、デメリットが皆無の壊れた『浮かせ技』。

 コマンドが激ムズなせいで、使い手は限られるが、マスターすれば最強格の必殺技。


「こっちは色々イライラしてんだ。わめいてんじゃねぇ。俺の睡眠が、現在、どんだけ不足しているか、教えてやろうか? 今週に入って、まだ十時間も寝てねぇ。そして、今日は週末だぁああああ!」


 ゆっくりと落ちてきたエルスの腹に、両手を向けて、


「邪龍撃鉄波ぁああ!!」


 叫ぶと同時に、ゴードの掌が闇色に輝き、ギャリギャリと、まるで世界の断末魔のような、聞く者全ての脳髄を切り裂きかねないほどの轟音が響いた。

 ゴードの体内で加速し圧縮された闘気が爆発し、収束していく。


「ぶっ、ぐほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 一点に収束された絶大なエネルギーの濁流・暴走をその身に受けたエルスの体は、吹っ飛ぶという当たり前の物理すら受け付けず、その場で、ブブブブブブッッと、尋常じゃない速度で震動する。


 高圧縮された別次元のエネルギーに、全身を絞られ、大量の血を垂れ流す。

 そんな彼の、永久に続くかと思われた振動を、ほかならぬゴードが止めた。

 エルスの頭を、ガっと掴み、


「鬱陶しいから、もう二度と、そのバチバチから出てくんな! わかったかぁ!」


「ふぁ……ふぁい……」


「失せろ、カスが!」


 叫びながら、エルスの体を、ルートの向こうへと投げつけた。

 ボロボロになったエルスの体をつつみこむようにして、ルートはスーっと消滅した。

 ゴードの、神がかった圧倒的戦闘能力を目の当たりにしたバイゼルは、


(……こ、この強さは……なんだ?)


 ただただ呆けていた。

 即座には理解できない。

 あまりにも強さの次元が違い過ぎて、何が何だか、本当に、さっぱりわからない。

 わかったのは、ただ膨大であるということ。

 異常なほど、狂おしいほど極大であるということ。


 目の前の人物が、遙かなる高みの、さらにその先にいる、超々々高次の存在だという事実だけが、バイゼルの心を占めていく。


(……最強神……)


 数秒の混乱を経て、その思考は真実に届いた。

 目の前の人物の正体。


(私は、すでに、神託を……神の教えを享受して……)


 脳味噌が震えあがる。

 全身を、温かい痺れが――極上の歓喜が包み込む。


 と、同時に、


(いや、というか……先程までの私は、な、なんと、無礼な態度を……やばい、やばい、やばいぃいいい!)


 シナプスが沸騰する。

 混乱が再発し暴走する。

 気づけば、


「ひ、非常に、まことに、無礼を、あの、その……あ、そうだ! な、な、名乗るのが遅くなって、た、大変、申し訳ございません! わたくし、バイゼル・ネクロアンサーと申します!」


 閉じたコンパスのようなお辞儀をしながら叫んでいた。

 敬意と恐怖が共鳴し、暴走している。


「いや、遅れていませんよね? 名前、さっき聞きましたよね。てか、なんすか、急に」



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― 新着の感想 ―
[一言] ゴートの周り、怖い奴しかいないw 普段からおっかない大将に、なんか急に態度を180度変えてきたマイ、バイゼル。弟子達も、集まれば騒々しい。 主役級は毎回、人間関係で変なことになりますね。 …
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