54話 教え厨。
54話 教え厨。
「そこ! そのタイミングで、さっきから、あんたがやっている『Xタイガーコンボ』! 急いで!」
反射的に、バイゼルは、最も得意としているコンボを、侵略者に叩き込んだ。
飛びかかって放つ右のスマッシュ!
独特な切り口の左ハイキック!
全てが、面白いようにクリティカルで決まる。
今までの人生で一度も感じたことのない、完璧な流れ。
締めの『ライオンヴォイス』がしっかりと決まった所で、侵略者の体が吹っ飛び、後方の壁にめり込んだ。
バイゼルは、つい、己の両手を凝視し、
「す、凄い……な、なぜ……なんで、こんな簡単に……」
あまりにあっけなく敵をふっ飛ばしてしまった事に驚いているバイゼルの後ろで、ゴードが、どこまでも軽ぅい感じで、
「今の距離を覚えておいてくださいね」
幼稚園児に、足し算のやり方でも教えているかのように、
「中距離でZドラゴンニーを置いていれば、基本、そのスタイルは安定するんで」
「……」
「ほら、反撃きますよ。火力足んないんだから、今ので決まるわけがないでしょ」
視線を向けると、湯だった顔をしている侵略者が、
「く・そ・がぁああ!! たまたま、偶然カウンターが当たったからといって、良い気になるなよぉおお!! クソみたいなザコが、ナメんじゃねぇええええええええええええええええええええ!!」
完全にブチ切れている赤褐色の侵略者。
顔面は怒りで沸騰しているが、しかし、それからの行動に激しさはなかった。
すり足で、ゆっくりと距離をつめてくる。
そんな侵略者の様子を見て、
「はい! 相手、威勢よく叫んでいるけど、距離つめるのにビビってるぅ。そうなったら、Vシャークカッターで崩していきましょう」
見慣れた光景だとでも言わんばかりの、一切迷いがない的確過ぎるアドバイスを送り続けるゴード。
「はい、その距離!」
その後も、言われるままに技を出すと、バイゼルは、直前まで手も足もでなかった侵略者を、
「か、はっ……な、なんで……こんなザコに……」
ボコボコにすることができた。
間違いなく自分よりも強い十八次元の侵略者を、ちょっと助言を受けただけで、こうもあっさりと倒す事が出来たという異常な状況に、誰よりも、バイゼル自身が驚いている。
(この寿司屋の青年……何者だ……なぜ、こんな……)
純粋に困惑しているバイゼル。
怒りが限界を超えた侵略者。
感情のぶつかり合い。
あるいは、感覚のすれ違い。
――だからか、ついに、侵略者は、
「くそがぁあああああああああああああああああああ! ナメんじゃねぇえぞぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
感情が沸点に達したようで、
「余はエルス! 全世界統一を果たすために生まれてきた、真なる王! 絶対的覇者! その余を侮蔑した罪、万死に値する! 絶望の底で、その罪の重さを知れ!」
そこで、すぅうっと息を吸い込み、
「覚醒! トランゼクス!」
叫ぶと同時に、侵略者エルスの体が銀色に発光する。
全身から奇妙な粒子が溢れだし、筋肉がグっと盛り上がって、無数の血管が浮き出てくる。
よく見ると、三つの光臨が背後に浮かんでいる。
両目がギラリと輝く。
――それを見たゴードは、
「へー」
小指で耳をほじりながら、
「この世界、覚醒とかも普通に使えるんだ。へー」
フっと、耳クソを吹き飛ばしながら、
「チェンジ。ここからは、俺がかわります。トランゼクス使われると、対処方法が多すぎて、言葉だけじゃ伝えきれないし、あなたとあいつの反応速度差的に勝ち目なくなるんで」




