50話 神の高み。
50話 神の高み。
「まさか、ずっと……さほど強くないフリを――」
「クロートの案でな。面白かったぞ。貴様らが無様に踊っている姿」
つまりは、ピエロでしかなかったということ。
人類は、神々の掌の上で、遊ばれていた。
『神はこのくらいだから大丈夫』だと思わせる遊び。
神々の暇つぶし。
ちょっとした娯楽。
「ちなみに言っておくが、我だけが弟子の中で特別強いというわけではない。クロートと酒神は我より強い。他の者は……うむ、まあ、トントンといった所」
「……そのありえざる力と同等あるいはそれ以上の者が、八人……ば、ばかな……」
「一応、これも言っておくが、我が師は、さらに次元が違うぞ」
「……」
もはや、バイゼルの顔に表情などなかった。
何を聞かされているのかさえ分からない。
そんな、感情の向こう側に辿り着いた顔。
「一度、弟子全員と組み手をして頂いた事があるのだが、右腕一本でボコボコにされた。我が師の強さは世界が違う」
「片腕一本で八人の神を………………ぁり……ありえ……」
「信じられないか? まあ、我が師の武を見たことがなければ信じられないだろうな。つまり、我が師の力は、聞いただけでは信じられないほどの圧倒的な高みにあるということだ」
バイゼルは、ただただ絶句する。
気づけば、ションベンを漏らしていた。
みっともないなどと思う余裕はない。
ボウは、そんな彼から視線を外し、青い空を眺めながら、
「もともと、我らは皆、貴様よりも弱かった」
唐突に、わけのわからない事を口走りだした。
流石にこみあげてくる疑問符を無視できず、バイゼルが、
「……は? それは、どういうことでしょう?」
尋ねると、ボウは、穏やかな口調で答えた。
「我が師に出会う前の我々は、どうしようもない弱者だった。何もできない赤子にも等しいクズだった。しかし、この上なく偉大な我が師に鍛えられたことで、我らは、ここまでの力を得ることができた。我が師は、ただ強いだけではなく、他者を導くことにも長けた、神の中の神。すべてを超越した絶対神」
「……」
「もし、下らない復讐心を忘れるというのなら――おまえが心の底から望むのなら、」
「――ぇ?」
「我が師に頼んでやってもいい。お前には才能がある。正式な弟子にしていただくのは流石に難しいだろうが、しかし、『ちょっとした手ほどきだけでも施して頂けないでしょうか』と頼むくらいなら、してやらないでもない」
その言葉を耳にし、頭で内容を理解した直後、
「お……おぉお……おぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
バイゼルは、抑えきれない歓喜に包まれ、言葉を形成する事ができなくなった。
神々への感謝が一瞬で天元突破。
魂の底の底から湧きあがる信仰心。
気づけば、額を地面にこすりつけ、まだ見ぬ偉大なる神に、祈りを捧げていた。
「――あぁああ……ぁあああああああ!! うわぁああああ、ああ!! うわぁああああああああああ!!」
とめどなく溢れだす雄叫びという、神への賛歌。
華美に飾った言葉などより、声にならない叫びにこそ、真の信仰が込められている。
バイゼルの姿を見てボウは、そんな事を思った。




