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48話 この上なく尊い、最強の究極闘皇神


 48話 この上なく尊い、最強の究極闘皇神


 武の知識を持っていなくとも『美しい』と認識できる桁違いで凄まじいコンボ――その途中で、


「――あ、やべっ」


 ゴードは苦い声をあげた。


「うーわ、練武脚のタイミング、ミスった」


 コンマ二秒の間を置かなければいけない所を、間違ってコンマ一秒速く蹴ってしまった。


 これではシメの、邪龍撃鉄波まで繋がらない。

 十連以上のコンボは、どれも、ほんの僅かなミスで狂ってしまう。


「うわぁあ! 俺、ダセぇ!」


 ――確かにゴードはミスったが、しかし、そもそも、十六連撃は、何年も、それだけを練習してきた者でも五回に一回成功すれば万々歳という、異次元の技術。


 一般的な基準で言えば、別に、失敗したからといって、恥ずかしがるようなことではないのだが、


「うわぁああああ! マジかよぉお! うぅわ……くっそぉおおお」


 失敗したショックのあまり、ゴードはつい、動きを止めてしまった。

 それはつまり、長時間空中に浮かされていたバーナスが、ようやく、地面と触れあう事を許された瞬間。


「ごほ……ぅえ……」


 地に堕ちてきた時のバーナスは、全身ボロボロで息も絶え絶え。

 そんなバーナスの事など、どうでもよさそうに、ゴードは、頭を抱えて、


「……俺、マジ、だっせぇ。ありえねぇ」


 死ぬほど恥ずかしそうに、顔を赤らめて、


「棒立ちしているバカ相手の十六連くらい、失敗すんなよなぁ……ありえねぇだろ……あぁ……はずかしぃぃ」


 天を仰ぎ、顔を覆う。


「もういいや。心折れた」


 ボソっとつぶやいてから、


「金もらってねぇけど……もう、いい。出前を頼んだヤツが死んだのは俺のせいじゃねぇんだから、このまま帰ったからって、そんなに怒られやしないだろ。仮に怒られたとしても、もう、知らん、知らん。俺は悪くない!」


 ズナボロのバーナスに背を向け、


「じゃあ、俺、もう帰るから。つぅか、いい加減、これ以上、帰るのが遅れたら、睡眠時間的な意味でヤバいんだよ」


 そう言って、マッハドラゴンにまたがるゴードの背中を、地に伏しているカウナは、涙目になりながら見つめていた。


(……き、気が変わって戻ってきたりしませんように!! お願いだから、そのまま消えて!!)


 などと、ゴード以外の神に祈りながら。



 ★


 パナーに乞われ、ルートが開いた関所に向かった二人の女神の目に、


「……んーだよ! 死んでんじゃねぇか!」


「いえ、虫の息ですが、まだ生きていますよ。というか、二人いますね。銀肌の男一人と聞いていましたが?」


「ぁ、いえ……ぁの……あ、あれ?」


 状況が理解できず、しどろもどろになるパナーに、死にかけのカウナが、


「おね……がい……」


 這いずってきて、パナーの足もとにすがりつきながら、


「二度と、この世界に……手を出さないと誓います……ですから……逃がしてください……どうか……どうか……」


 泣きじゃくるカウナを見ながら、デビナが、豪奢な金髪をかきあげつつ、いつもの荒々しい声で、


「なにがあった?! 教えろ!」


 パナーは、ガクガクと震えたまま、


「ぁ、ありえない化物が……ぁ、ぁ、暴れて……」


 そこで、うぇっとゲロを吐いた。

 深い絶望が彼女の体を支配する。

 あまりの恐怖に、顔面がグニャリと歪んでいる。


「ぁ、あの強さ……普通じゃない……異次元の……化物……うぅう……うぅう、うぇ、おぇええ」


 ブルブルと震えているカウナに、色雪が、ニコっと優しく微笑んで、


「その化物の特徴を教えてもらえますか? 言動でも構いません」



「こ、混沌と……殺戮を司る……最強神と……言っていた。絶望を数えながら死に狂え、などとも……う、ぅううううう……うぅううううう……ううううううう、ああああああああああああ」



 思い出すだけで心が砕け散りそうになる。

 あの男の発言に、ウソ偽りは一切無かった。


 混沌と殺戮の権化。

 もはや、象徴と表現してもいいだろう。


 間違いなく最強の神。

 無敵の悪魔。


 あの男の顔が脳裏でチラつくたび、体がビクビクっと痙攣する。

 魂の深部に高濃度の恐怖を刻み込まれてしまった。

 いっそ、この恐怖から開放されるために死んでしまいたいとすら思うほどの絶望。


 そんな、異常な状態に陥っているカウナの無様な姿など、女神たちの常識からすれば、いわば『当たり前』のことなので、当然、気にしてはいない。


 二人の女神にとって大事な事は、カウナの発言内容。

 その対象のみ。

 デビナは、バっと頭を抱え、その豊かに輝く金髪を振り乱しながら、


「うわ、マジかぁ!!」


 心底悔しそうに顔をゆがめ、


「おいおいおいおい!! さっきまで、ここに先生がいたのかよ! クソ! もっと急げばよかった! 畜生ぉおお!」


 色雪も、珍しく表情を曇らせた。いつもニコニコとしている美しいだけの整った顔が、深い憤りに歪んでいる。

 どんよりとした暗い顔でうつむき、悲痛の声で、


「のんびり歩いてきた過去の自分を殴りたいですね。あぁ……分かってさえいれば、全力ダッシュで駆けつけましたのに」


 心底から嘆いている女神たち。

 会えなかったというだけで絶望する絶世の美女二人。

 そんな神々に、ズタズタになっているバーナスが、


「あ、あいつは……いったい……なにもの……なんだ? 次元の違う……あの領域外の強さは……いったい……」


 地に伏したまま、静かに尋ねた。

 その問いを聞いて、デビナが、『待っていました』とばかりに、クワっと顔をあげ、心底誇らしげに、天を指差し、


「この上なく尊い、最強の究極闘皇神!」


 太陽さえも平伏させてしまいそうなシャウトで、


「あたしらの先生! 神々の頂点!」


 続けて、色雪が、恍惚の表情で、


「わたくし達を導いてくださったお師匠様。真なる絶対神。無敵の超神。武の極みを超えた果て、さらにその一歩向こう側にまで辿り着いてしまわれた、唯一にして無二の、全世界で最も偉大な御方」


 二人の発言を聞いて、


「そうか……だろうな……」


 無を見つめているような悟りきった表情を浮かべてから、バーナスは、スっと両眼を閉じた。

 あの邪悪で強大な神に、二度と遭遇しませんように――と、平熱マン以外の神に祈りながら。


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