47話 圧倒的に最強の闘神。
47話 圧倒的に最強の闘神。
(ま、間違いない……こいつは……)
理解が事実に届いた瞬間。
「伝説の……闘神……」
バーナスは膝から崩れ落ちた。
ようやく理解する。
(まさか……神が実在するとは……)
――『十九次元界』にも、闘神の伝説は存在する。
どの世界にも、『神の伝説』・『降臨の予言』は存在する――が、大概の者は、神の存在など信じてはいない。
特に、『バーナスという超人』を『必要以上に神格化し崇め奉っている十九次元界』では、神を侮る傾向が強い。
『神など仮に存在したとしても、バーナス天帝の足元にも及ばないゴミだろう。というか、バーナス天帝こそが神なのだ』
十九次元界に生きる大半の者がそう思っている。
バーナスを信仰している彼らにとって、神の伝説など、下らないおとぎ話でしかない。
『仮に、伝説が事実だったとしても、人類はすでに神を超えている』と確信している。
偉大なる天帝バーナスは、神など遙かに凌駕している。
神など死んだも同然。
我らの王バーナスこそ最強。
――愚かしくも、そう思っている。
無邪気に、そう信じている。
確かにバーナスは弱くない。
人間という種の中で、ただ一人、『神段』の領域に片足を踏み入れている、極めて稀な、超突然変異種。
間違いなく、最強の人間。
しかし、所詮は、『人間の中の最強種』でしかない。
『闘神の中の最強種』であるゴードの視点では、虫ケラに等しい。
(闘いの神……こ、ここまでの存在なのか……)
責任感やプライド。
そういった、形を持たないフワフワした観念は、想像を超えた絶望を前にしたとき、例外なく、あっさりと、脆く崩れおちる。
(いかん……むりだ。絶対に勝てん。こんなヤツに勝てるわけがない。私程度では足元にも及ばん。逃げ――)
「いやぁ、なんつーか、気づいたんだけど、闘いの途中で煽るのって、結構おもろいんだなぁ。戦闘後にファンメとかは頻繁に送っていたんだけど、油断からの身バレを警戒して、ボイスチャットとかは使ってなかったからさぁ、なんか、諸々新鮮で、ちょっとだけ楽しい」
わずかに高揚した顔を見せたが、しかし、すぐに、淡々と、
「まあ、俺の気持ちなんてどうだっていいんだけどさ。それより、さっき、お前、『俺を殺すのは確定』って言っていたよな? で、最初に殴りかかってきたのもお前。つまり、現状は、完全に正当防衛成立。というわけで、地獄を覚悟してもらう。……何度でも言うけど、俺は少年マンガの主人公じゃないんでね。やる時はとことんやるし、殺人だって別に躊躇はしない。――俺が何を言おうとしているか理解できるか? これから、俺は、おまえを確実に殺すってことだよ」
理由がある殺しは、何一つ悪いことじゃない。
それこそが、ゴードの思想。
産まれたときからずっと心の底で掲げていたポリシー。
――無意味な殺生は慎むべきだが、しかし、殺されて然るべき者は、すべからく殺されるべし――
「おっ、なんか、ここ、決め台詞のタイミングじゃない?」
言いながら、ビシっと、かっこいーポーズをとり、
「我こそは、混沌と殺戮を司る最強神。絶望を数えながら、死に狂え」
ゴードが発したセリフの物騒さがバーナスを貫く。
――ついに、恐怖が限界を迎えた。
「う、う……」
両目に、いっぱいの涙を浮かべ、
「うわぁあああああああああああ!!」
武人とは思えないほど、みっともなく、
「誰か! 誰かぁああ!!」
ゴードに背を向けて、
「だ、誰でもいい!! 誰か、助け――」
慌てて逃げようとするバーナスの背後まで、ゴードは、神ステで一瞬の内に近づいて、
「お前、バカ? 戦闘中に背中を向けちゃダメだろ」
バーナスの背筋をえぐるように、
「ぐなぁあ!!」
華麗なる殺神覇龍拳を叩き込む。
踏み込み角度と腕の角度を調節し、すくいあげるようにして、バーナスの体を垂直に浮かせてみせた。
十メートルほど真上に吹っ飛ぶバーナス。
「さあて……同段相手だと簡単に抜けられるから全く使えないが、だからこそ、おちょくり技としては優秀なネタ技で終わらせてやろう。見た目の派手さ抜群の最大コンボ、怒涛の十六連撃をとくと御覧あれ」
「ヵっ!」「かはっ!」「がぁ!」「こぉ!」「ぬぁ!!」――
ゴードは、意識を持った竜巻のように、全身を幾度も回転させ、威力のある拳や蹴りを、何度も、何度も、何度もたたきこむ。