45話 死力の限りを尽くすべき相手。
45話 死力の限りを尽くすべき相手。
「はぁ……もういいや。今は、のんびり遊んでいるヒマなんかないし。こっちからいくぞ」
そう吐き捨てると、腰を落として、
殺神拳特有の超高速ステップで距離をつめていく。
(なぁっ……はやっ――)
小刻みに瞬間移動しているのではないかと思ってしまうほど、おぞましさすら感じる速度で詰め寄られ、
「いやいやいや。神ステで距離詰めてんだから、一回くらい、しゃがもうぜ。なんで、ずっと棒立ち? バカなの?」
神速のローで、スコォーンと、バーナスの足元をさらうゴード。
「のわっ!!」
バーナスの視界がグルリと回った。
反回転。
重心の居場所を見失う。
世界が反転する。
そんな状況でも、ギリギリ、
「っ!」
ゴードが攻撃態勢に入ったのを、視界の隅に捕える事ができた。
――しかし、当然、状況が状況なので、
(ヤバっ――)
対処どころか、『ヤバイ』とシッカリ認識するヒマもなく、
「ほい、ほい、ほいっと! 殺神拳名物、『おまえなんか足だけで充分だコンボ』。からのぉぉ……邪神蹴りぃいいい!」
右・左・右・右!!
超高速かつ暴風のような、怒涛の勢いで繰り出された足技の煉舞。
トドメの凶悪な回し蹴りも、まったく抵抗できず、
モロに食らってしまったバーナスは、
「ぐがぁああああああああああああああ!!」
高速道路で大型トラックにはねられたかのような、凄まじい勢いで吹っ飛んだ。
「ごほ……かぁ……」
十数メートル以上ふっとんでから、ダンダンダンッと何度も地面に衝突・回転し、ようやく止まった頃には、血まみれでボロボロになっていた。
凡夫であれば失神するしかないほどのダメージを受け、事実、全身ズタボロだが、
「く……ぅ」
バーナスは、フラフラとよろけながらも、
どうにか立ち上がり、両手をあげて拳を構えた。
(信じられん……な、なんなのだ、こいつは……)
ギリギリと奥歯をかみしめ、
(ありえない……つ、強すぎる……次元が違う)
強者であればあるほど、相手の強さが正確に測れるようになる。
バーナスなど、ゴードからすれば、ゴミに等しい中級者でしかない。
だから、バーナスは、ゴードを完全には理解しえない。
しかし、『目の前にいる男』が『遙かなる高みに立っている』という絶望だけなら流石に解すことができる。
(あってはいけない……こんな異常な生命体が、この世に存在してはいけない。こんなものに居坐られたら、世界の秩序全てが狂ってしまう……)
王としての責任感が、恐怖に支配されそうになる心を叱咤する。
へし折れてなど、いられない。
自分には、果たさねばならぬ義務がある。
(切り替えろ。私は人類という種の王。命の頂に立つ者。……このような化け物を野放しにするわけにはいかんのだ)
『偉そうにふんぞり返っている』から王なのではない。
『王の職務を全うできる力』と『必ず全うしてみせるという気概』を有するからこそ王なのだ。
バーナスはバカ殿ではない。
真の王を目指して、何百年も精進してきた、本物の支配者。
十九次元の希望。
(全身全霊、死力の限りを尽くさねばならない)
そこで、バーナスはハっとした顔をして、
(……私という個は、もしかしたら、この化物を滅するために生まれてきたのかもしれん)
震えそうになる体を、
磨きあげてきた精神力と、
丁寧に積み重ねてきたプライドで抑えつける。
己という個の、『生きている意味』まで引っ張り上げてきて、
目の前にいる、この『異常な力を持った敵』から、
けっして目をそらさぬようにと心を締め付ける。
(こいつは異常だ。普通にやっても、おそらく勝てない。……私のすべてをぶつけるしかない)




