42話 十九次元の王。
42話 十九次元の王。
「あの、そういうの、あとでやってくれません? マジで、そろそろ、お代を頂かないと困るんですよ。僕、店では、底辺の見習いでして、この出前が終わったあとも、やることが山ほどありまして……」
「だまれ! 陛下のお言葉を遮るとは、貴様、非国民か!」
「いや、あの……僕、シバクの人間なんですけど」
「ぁ、あ……そうだったな」
「わざわざ他国から出前などという無意味な贅沢を……あのクソは、本当にクソだな。あのクソを殺してくださった闘神様には、いくら感謝しても足りん。……あ、で、いくらなのかな?」
「はい、えぇ……総額520万――」
と、その時、
「ん?」
この場に起こった異常に、まずパナーが気づいた。
(なっ、ルート?!)
空間が歪み、大気が震えた。
バチバチと電流が走り、黒い光が渦を巻く。
空気を軋ませるようなその音に、ゴードも気づく。
「んー? なんの音?」
振り返ると、後方十メートル付近の空間が歪んでいた。
それを見たゴードは、
(あ……この前、路地裏で見た変な歪みだ。もしかして、この国では日本の地震的な感じで、頻繁におきるのかな? つくづく、おかしな世界だなぁ。……でも、ゴードの記憶には、そういう災害の知識は無いんだよなぁ……どういうことだろ。最近起き始めた異常気象なのかな?)
のんきに、そんな事を考えていると、その歪みから、
「――くく……確かに感じるな。強大な波動」
銀の肌を持つ、黒髪の男が現れた。
(人が出てきたよ……あの歪みって、もしかして、ワープゲート的なかんじなのかな? てか、あいつ、肌の色、すげぇな。銀とか、かっこよすぎだろ)
いまだ、のんきに現状を観察しているゴードの後ろで、
パナーが、
「ひっ、ひぃいっ……じゅ、十九次元の侵略者……よ、よりにもよって……」
ブルブルと震えながら、後じさりをしていた。
その姿を見て、銀肌の男は、
「そこの女……異世界の知識を持つということは、貴様、この世界の重鎮だな? 防人……いや、その滲み出ている気品から鑑みるに王族か? くくく、幸先がいい。案内してもらおうか。知っているのだろう? 数日前、この世界に突如現れた圧倒的な力を持つ存在――その居場所を」
「ぅ……ぅ……」
「くくく、私のオーラに震えているのか。当然だな。全世界最強の十九次元を統べる、この久遠天帝バーナスの威光に直接触れているのだから。身を縮ませるのも致し方ないこと。とはいえ、しかし、このままでは話が進まんな」
言うと、バーナスは、
「まずは、目を覚ましてもらおうか」
一瞬で番兵の目の前まで移動すると、
番兵の頭を掴み、
「貴様の態度如何では、この世界に生きる全てのものが、」
ブチっと、一瞬で握りつぶした。
砕けた頭蓋骨。
飛び出した眼球。
「こうなると心得よ」
ポタポタと血液が滴る、凄惨な光景。
非常に簡素な命の終わり。
バーナスの手の中で、ダランと力なく垂れ下がるだけの死体。
「さあ、質問に答えよ。私を楽しませてくれるやもしれぬ強者、可能性を秘めた化け物、この世界に顕現した未知なる存在の居場所を吐くがよい」
鋭い眼光に睨まれ、
「ぅ……ぅ……」
パナーの震えは限界を迎える。
十九次元界の者がどれだけ強いか、元王族であるパナーは、知識だけとはいえ、よく知っている。
ゆえに、そんな最強世界の頂点に立った者に睨まれた今、
怖くて、怖くてたまらず、足がガクガクと震える。
――が、
「うぉおおおおお!」
恐怖を振り払うように咆哮!
心を奮い立たせて睨み返す。
勇者であり女王。
その誇りと責任感が彼女を突き動かす。
腰の剣を抜き、一直線に斬りかかった。
それに対し、バーナスは、
「やれやれ」
ため息をひとつ置いてから、
右手の指を一本立てた。
――パリィン!
「なっ」
振り下ろされた剣を、バーナスが指だけではじいた。
その瞬間、魔法の剣は、粉々に砕け散る。
弾け飛ぶ鉄の破片を見て、呆然とするパナーに、
「満足したかね?」
とことん見下した声音で、バーナスはそう言った。
「……こんな、ばかな……ここまで力の差が……」
「では、質問の続きだ。答えてもらおう。この世界に顕現した化物、私の獲物はどこにいる?」




