41話 出前に赴(おもむ)く究極の邪神。
41話 出前に赴く究極の邪神。
桶を片手に、ドラゴンの背から飛び降りたゴードは、
ため息をつきながら、
「ふぉおお……ドラゴン、クッソはえぇ。『西の国まで出前にいけ』って言われた時は、注文する方も受ける方も頭おかしいと思ったけど、この速度で移動できんなら、まあ、ありえなくもない話だな。まさか、隣の国まで七分で移動できるとは……」
彼が務めている『シバク前大寿司』では、出前用に二体のドラゴンを飼いならしている。
この世界において、交通手段にドラゴンを使うのは、別段珍しいことではなく、最も速度が出せ、ゆえに最も値が張る『このマッハドラゴン』でも、値段的には、地球での『結構な高級車』くらいなので、世界一の寿司屋であるシバク前大寿司なら買えない事はない。
「あ、ドラゴンに関する記憶もあった。……へぇ。この世界には、戦闘に特化したジェットドラゴンってのもいるのか。おお、スペックすげぇ。武道の達人百人を瞬殺できんのかよ。怖ぇ。絶対遭遇したくねぇな」
恐怖に顔をゆがませつつ、桶の中の寿司が崩れていないか確かめる。
「よし、大丈夫だな。必死に抱きしめておいてよかった。記憶を探るに、どうやら、このボードロ神国の王様は『チョビヒゲの某独裁者』級にヤバいヤツらしいからな。怒らせたら大変だ。てか、この国、なにもかもがエグいな。平等な国にするため、男も女も肉体労働(意味深)が義務付けられているって……完全にラリってるよ。わけがわかんねぇ」
ブツブツ言いながら、関所の番兵の元まで歩き、
「どーもー、シバク前大寿司でーす。えーっと、トース陛下……の注文を受けて出前に来ました! お取次ぎくださーい」
大将に言われたとおり、元気よく対応をする。
が、
「うるさい! 今はそれどころじゃないんだ!」
番兵は、慌てた様子で、
この世界の電話にあたる『特殊印紙』を耳に当てたまま、
「ぇ、なに? ほ、本当に、あのクズ、死んだのか?! いったい誰が? ……闘神? 噂には聞いていたが……まさか、本当におられたとは……」
「あのー……」
「うるさい! ほんと、ちょっと黙ってろ! で? ふむふむ……え! 闘神様が、パナー皇女殿下を、正式に、この国の女王として認めたって?! ははは! さすがは神様だ! 粋なことをしてくださる! 神様、ばんざーい!」
「すいません、あの……」
「だから、うるさい! 二分でいいから待ってろ!」
「は、はぁ……」
「それで? ふむ……ふむ……はは……よかった……これで、この国は再生する……神様、感謝いたします」
言いながら、その場で膝をつき、何度も何度も頭を地面にこすりつけた。
言われたとおり二分待ってから、
「あの、その……お代を頂かないと、困るのですが……その……」
「あ、ああ……悪かった。つい興奮して……ぁ、でも、あのクソは、死んだから、その寿司を食べる者がいなくなったんだよなぁ……神様に献上するか……いや、あのクソが食う予定だったものを、偉大な神様に食していただくというのも……うーん……」
「あの、えっと、なにがあったか知りませんが、そっちの問題はそっちで解決してもろて。……とりあえず、お代だけ頂ければ退散しますので」
「うーん……ちなみに、いくらだ?」
「えーっと、限界特上で、さらに、ドラゴンを使った特別な出前になりますので、その移動経費も込みで、端数はサービスさせていただきまして、総額520万ほどに――」
「ごっ! ごひゃく?! ……そ、そんなに高いのか?!」
「は、はぁ……そうですね。ウチは、超一流店ですので、値はどうしても張って――」
「あのクソ……俺らが飢饉で苦しんでいる時に、そんなものを毎月……いや、おそらく、毎日、そんなものを食べていたんだろう。クソが……死体がどこにあるのか聞いておけばよかった。臓物にクソをすりこんでやりてぇ」
「あのー」
「あ、ああ……すまん。だが……そんな額となると、私が立て替えるというわけにも……」
「いや、あの、払ってもらわないと、ほんと、困るんですけど……」
「ちょ、ちょっと待て。とりあえず、上にかけあってみる」
――それから五分ほど経過して、
「すまない、遅くなった」
「ぱ、パナー殿下! ぁ、いや、女王陛下! な、なぜ、陛下が!」
「あのゴミが頼んだ出前の後始末という話なのだろう? ならば、私には、その処理を受ける責任がある。この国が受けた被害のすべては、私たち元王族が、あのクソの暴挙に屈してしまったことが原因。私は、持てる時間のすべてを賭して償っていくつもりだ」
「ああ、陛下! 陛下は何も悪ぅございません! 陛下が、あのゴミを倒すために、その命と時間のすべてを賭して闘ってこられたことを、民衆はみな、キチンと理解しております!」
「ありがとう……だが――」
「あの、そういうの、あとでやってくれません? マジで、そろそろ、お代を頂かないと困るんですよ。僕、店では、底辺の見習いでして、この出前が終わったあとも、やることが山ほどありまして……」




