39話 神に選ばれし者。
39話 神に選ばれし者。
その感情の奥にあるのは、これから何をすべきなのか。
つまりは、どうするのが正解なのか。
あまりにも答えが不透明すぎる問題に直面し、
パナーは、その場で立ち尽くしてしまう。
――神の実力という現実と直面し、
『武を司る女神』の力という極限と絶無を知ったトースは、
わなわなとふるえながら、
「ありえん……こんな強さ……ありえんだろう……」
己を抱きしめて、必死に、
『夢ならはやく覚めてくれ』と、
必死に、神へ懇願する。
「なにブツブツ言ってんだ、あぁん?!」
『デビナの問いに答えよう』などという気はサラサラないようで、
トースは、ブルブルと震えたまま、
「こんな化け物が、私の前に現れるはずがない……そんなことありえない……」
「おい、こら、聞いてんだろうが、カスが! なに、ゴチャゴチャ言ってんだ! おい!」
「この私が、神に選ばれたこの私が、こんな無様な姿……ありえんだろ!」
「ぁ?! 神に選ばれただぁ?!」
「そうだ! わ、私は……神に選ばれし者」
恥も外聞もなく、トースは、『便利で汎用性の高い神』という『偶像』を利用して、自分という個の存在価値を守ろうと必死に頑張っていた。
そんな、『あからさまな行動』をとっても、『一般人からの理解』くらいなら得られるだろうという幼稚な誤解が、歴史的な悲劇を招いたといっても、なんら過言ではない。
「神の許しを得た者! こんなところで、貴様らごときに、負けるわけ――」
そこで、
――ブシュッ!!
トースの頭が炸裂した。
眼球と脳髄がビチャっと飛び散り、無数の髪の毛がヒラヒラと舞った。
デビナが、血の滴る右腕をパッパッと振りながら、
「偉大なる最強神に選んでいただけたのは、あたしらだけだ! ゴミのくせに、なに不相応極まりねぇ勘違いしてやがんだ、ボケがぁ!」
「カスのたわごとに過剰な反応を示しすぎですよ、デビナさん。お師匠様なら、そのゴミで、あと三時間は遊んでいたでしょう。もっと、もっと、もぉぉおっと、悪逆の限りをつくしながら。まあ、イラついてしまった気持ちも分からないではありませんが」
一連の流れをずっと見ていたパナー。
人間一人分の頭が豪快に炸裂するという、とんでもなくグロい光景に、一瞬だけ気を失いそうになったが、
「……あ、あ……あの!」
軋む体をたたき起した。
どうにか己を保って、必死に口を開く。
「た……た、助けていただき、ありがとうございます! そ、それに……この国を救ってくださり、ほんとうに――」
「うるっせぇ!」
頭を下げたパナーを、デビナは一括する。
押し黙ったパナーを、血走った目で睨みつけ。
「混沌と殺戮を司る究極最強神の弟子であるこのあたしが、てめぇみたいなゴミ以下のクズを助けるわけねぇだろぉが、ごらぁ!! あたしという女は、んな安くねぇんだよぉ! ラリった勘違いしてんじゃねぇぞ、ぼけぇ! ぶっころすぞ、あほんだらぁああ!」
「す、すいません……し、しかし、デビナ聖下のおかげで、腐った暴君とその側近たちがすべて死に、この国は救われました。せめて感謝だけでもさせていただきたく――」
「デビナさんが言った通り、私たちは、あなたを助ける気など塵芥ほどもありませんでしたが、どうしても感謝したいというのなら、勝手になさってくださって結構ですよ。あなたがどんな感情や気持ちを抱こうが、そんなもの、私たちからすれば、どうでもいいことですので」
穏やかに辛辣な事を言う色雪の発言を最後まで聞いてから、デビナは、ヤンキーのように、ツカツカと肩で風を切りながらパナーの目の前を横切り、玉座の近くまで来ると、その豪華なイスを掴み、
「ひゃっはぁあ!!」
ガシャーンっと思いっきりたたき壊した。
そして、そのままの勢いで、玉座の背後に掲げられていた巨大な国旗を壁からはぎとり、極めて粗雑に、ビリィイイっと破いた。
デビナのいきなりの奇行に、パナーが声も出せずに驚いていると、
「この国は、今、死んだ! あたしが殺した!」
天を指差し、喉を枯らす勢いで叫ぶ。
「つーわけで、今日から、この国は、先生の国だ! 先生の先生による先生のための国! 先生を崇め、先生を称えるだけの国に生まれ変わった! つーわけだ! いいなぁああああああ、てめぇらああああ!!」




