37話 荒々しい女神様。
37話 荒々しい女神様。
(誰でもいい……だれか、助けて。……だれか……だれか!!)
懇願する。
神に祈る。
そんなパナーに、
「所詮はメス! 下卑た虫けら!」
トースは、虫を見下す目で、
「女という、きわめて質の低い劣等種。貴様らの命に価値などない!」
足に力を込めて、踏みつけ圧を増していく。
――と、その時、
「あらあら、随分と盛り上がっていますわね」
「かはは! あいつ、ほんとに国王か? 不細工すぎんだろ!」
突如現れた二人の女性。
穏やかな雰囲気を放つ雪のように白い美女と、
褐色肌の荒々しい笑顔が特徴的な美女。
そんな二人の美女を目にして、
トースは眉間にしわをよせながら、
『すぐ近くで待機している外務省大臣のゴルン伯爵』に問いかける。
「だれだ? 新しく納品された女か?」
いつもなら、トースの問いかけに、
まずは最敬礼で応えるゴルンだったが、
「ぁ、ぁ……」
この時ばかりは、ただただ、全身を震わせながら、
「あ、あいつら……」
「どうした? 私の質問に答えよ」
「トース様! ぁ、あの者たちは、おそらく、噂の闘神です! 数日前に政務官が提出してきた報告書に記載されていた外見的特徴と、ぴったり一致しています!」
「……ほう。シバクの城に降臨したという、例の異物か……どっちもいい女だ。くく、よし、決めた。気高く偉大な神を我が国の商品にしてやろう」
言いながら、トースは、パナーを、
「お前で遊ぶのはあとだ、そのへんで寝ていろ」
と、雑に蹴り飛ばしてから、
「ようこそ、女神様。さっそくだが、味見をさせていただこう。その後、私のために、身を粉にして働いてもらう。その美しい肉体をフルに使ってな」
ニヤリと黒くほほ笑む。
まさに悪魔のような笑顔。
「神で遊べるとなれば、さぞかし高い値がつくだろう。くくく」
そんな傲慢が過ぎるトースを、『変わった形状の微生物』でも観察しているかのような、正も負もない、とてつもなくフラットな感情で見下している金髪の神が、
「かはは! この国、すげぇヤツが王様やってんな!」
褐色の美女――デビナ・バーサキュリアが、豊かな金髪をかきあげながら、荒々しく笑いつつそう言うと、
「男はどっちでもいいと言っていましたから、あれは、テキトーに遊んでから処分してしまいましょう」
白皙の妖艶な美女――色雪が、肌と比例した漆黒の髪をなでながら、上品な仕草で穏やかに微笑みつつそう言った。
「つーか、クロートのやつ、マジで女を全部弟子にするつもりか?! 万単位でいんぞ!」
「才能ある者を選別すると言っていましたから、全員ではないでしょう」
「才能の選別だけでもよぉ、万単位ってなると、すげぇ手間暇かかるぜ! 前から思っていたけど、クロートって、絶対マゾだな!」
あからさまにシカトされ、自尊心をボコられたトースは、それゆえに沸騰する心を、凍えるような精神力で鎮める。
――痛みは知っている。
孤独にも慣れ親しんでいる。
ゆえに、問題とすべき『何か』を、『そんな地点』に置きはしない。
「いい度胸だ。……決めたぞ。少々、手荒に味見をすることにする」
そう言って、ツカツカと歩いてくる。
両手の関節をボキボキと鳴らしながら、
「骨のニ・三本は覚悟してもらうぞ」
トースは、心を鎮めつつ、集中力を高めていた。
闘うためだけの兵器になろうと、魂を数式化する。
代数をあてはめ、己を計測する。
「不遜にも神を名乗る愚か者どもめ。その罪の定数でも数えているがいい」
ニヤリと不敵に笑って、両の拳を構えた。
臨戦態勢。
精神統一は終了。
「真なる王である私の前にひざま――」
「お前、さっきから、ゴチャゴチャうるせぇ!」
ペチャクチャとやかましいトースの足を、
「ぬぁ!!」
デビナが、右足で軽く蹴りあげた。
デビナ視点で言えば、『軽く蹴りあげた』だけだというのに、トースの体はグルンと豪快に回転し、頭から地面に激突する。
「がっっっはぁっ!」
当たり所がよかったので、首の骨は折れずにすんだ。
しかし、頸椎には亀裂が入ったようで、神経に障害が出ている。
「う……ぐぅう……」
完全マヒにはなっていないが、
指先にしびれが出ている。
眩暈と吐き気も。
「っ……ぅ、うぼっ……うへぇ……っ」