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35話 超苺の境界線。


 35話 超苺の境界線。


 突撃する。

 ここしかない。

 一瞬で距離をつめ、超苺の足を払おうと――


「ぇ?」


 ――した、が、


「きゃあ!!」


(ぁ、ヤベ……反射的に投げちゃった)


 一瞬だけ宙を舞ったメリー。

 気づいた時には、頭から地面に叩きつけられていた。


 美しすぎる空気投げ。

 触れずに相手を投げる究極の柔術。


(うぉおおおおおお! なんで、空気投げしたんだ、俺ぇえええ! なんの感触もなかったぁあああ! うわぁあああ!)


 表情には一切出ていないが、しかし、心の中では絶望の暴風が吹き荒れていた。


 普通に隙をつかれてしまったがゆえに、

 あまりにも完璧なタイミングで、

 最も得意な技を反射的に使ってしまった。


 それが現状。


(せっかくのチャンスだったのにぃいい! 俺のばかぁああああ! うぁあああ)


 『クール過ぎる無表情』を貫いてはいるのだが、

 『心の中では号泣している』という、

 とてつもなく特殊な状況下の彼に、


 ――ヒメが、呆れたような声で、


「あんなカス相手に『目線切り』で誘ってからの『空気投げ』とか、やりすぎだっての、ばーか。もっと遊びなよ。あんた、いろいろと固すぎ。武道をたしなむ者として、ストイックなのは悪くないと思うけど、いくらなんでも、あんたは、カチカチすぎだっての」


 うーんと背伸びをしながら、


「さてと、残りのザコはウチがやるから、あんたは下がってて。あんただと、何人か殺しそうでハラハラすんだよね」


 両手をプラプラさせながら、残りの連中を片づけようと歩きだしたヒメだったが、


「……く……ぅぁ……」


 気絶には至っていなかったメリーを見て、ピタっと立ち止まり、


「ん? あれ? この女、気絶してないじゃん。へぇ。やるね、あんた。超苺の空気投げ受けて、まだ意識を保っているなんてさ」


「負け……てない……」


「は?」


「私は、まだ……負けてない……一度……投げられた……だけ……運悪く……流せなかった……だけだ!」


 フラフラの体にムチを打って、必死に立ちあがる。


「くぅ……うぅ……はぁ、はぁ……」


 プルプルと震える足。握れない拳。


「その根性は認めっけどさぁ、実際、もう無理じゃん」


「無理じゃ……ない!」


 そこで、メリーは、深く息を吸った。

 すると、プルプルしていた体がピタっと止まる。


「急所は外した……対応できないほどの力ではない! まだ、絶望的な状況ではない!」


 メリーのその発言を受けて、

 超苺は、


(さすがに殺しちゃイカンと思って、とっさに、落とす直前、ギリギリの所で軸をズラしただけなんだけど……まあ、いいか)


 本当に、どうでもよさそうに、心の中でそうつぶやきながら、視線をズラして、ヒメの足をチラ見する。

 彼は、常に、一貫している。




「私は……まだ、闘える!」




 覚悟を叫ぶメリーに、

 ヒメは、


「闘えると勝てるは全然違うけどね。あんたじゃ、なにをどうしたって、ウチらには勝てないから。ちなみに、言っとくけど、仮に、あんたらが、ウチら八人全員を殺せたとしても、この世界が闇に包まれる未来に変化はないかんね。ウチらのししょーには、絶対に、誰も勝てないから」


「師匠……邪神のこと? ……ふ、ふん! 所詮は、あんたらを弟子に取る程度のゴミ。確かに、あんたらは弱くない。けど、闘ってみた限り、つけいる隙は十分にあると推断する。どう高く見積もっても、S1には勝てない。あんたらみたいなゴミを弟子に取る程度のクソなど、御大の前ではサンドバックにしかなれない! 邪神がなんだ! 御大の前では、異臭漂う生ゴミでしかないんだ! 覚えておけ! 必ず、御大が、あんたらの大将である下賤で醜い雑魚邪神を踏み潰し、質の悪いその脳みそに牛のクソを塗りたく――ひっ」


 必死に負け惜しみを叫んでいたメリーの目に、

 超苺の、鬼のような顔が飛び込んでくる。

 それまでの、クールな表情とは一線を画す、

 苛烈に燃え上がったガンギレの表情。


「お、俺がっ……世界で一番尊敬しているっ……偉大なる師をっ……ぶ、侮蔑したなぁ……貴様ぁあああああ!!」


「あーあ、キレちゃった。めんどくさいなぁ」


 ヒメは、

 『メリーに飛びかかりそうになる超苺』の首ねっこを掴み、


「超苺さぁ、ししょーの悪口言われた時だけしか喋らないとか、マジどんだけ」


「がるるるるるるる」


「威嚇とか、すんなし。ったく……」


 ヒメは、面倒くさそうに、超苺の頭を掴み、


「ちょっち、落ち着け!」


 思いっきり地面に叩きつけた。

 ガツンッ、と、豪快な音が響き渡って、

 直後、超苺の額から、ピューっと血が噴き出る。


「……い、たい……」


 抗議の視線を送ってくる超苺を睨み、


「あんたは、そこで寝てろ。話はこっちでつけっから」


 そう言いながら、ヒメは、メリーの目の前まで歩き、彼女の頭を、


「ひっ」


 ガっと掴み、


「言っとくけど、あのバカがキレなきゃ、ウチがキレてたから。ウチら、マジで、死ぬほど、ししょーの事を尊敬してっから、キャパを超えた侮蔑されっと、ガチでピキっちゃうんだよね。一応、兄弟子からの指令遂行中だから、あんたは殺さないけど、ウチ、極悪非道邪神の弟子だから、とりま、死以上の絶望を叩きこむ術もマスターしてるわけ。絶望を数えながら死に狂いたくなけりゃ、二度とナメた口きくな、ボケ。わかった?」


「……ひ……ひ……」


「聞いてんだけど? 返事は?」


「……は……はい……」


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