34話 寡黙な超苺。
34話 寡黙な超苺。
(あの闘神は、己の動揺を必死に隠しているだけ。おそらく、私が、これほどの闘気を練れるなどとは露ほども思ってもいなかったのだろう。驚き過ぎたがゆえに、感情が無になってしまった。だからこその態度)
即座に状況を分析する。
頭の良さでも、彼女は群を抜いている。
(おおかた、『所詮はガキの集まりだから何とでもなる』と思って乗り込んで来たのだろうが、ふん……ナメるなよ。私はただのガキじゃない!)
グっと腰を落とす。
臨戦態勢。
いつでも動ける。
メリーの、戦闘意欲満々なその様子を見て、
「……ん? 超苺、どしたん?」
超苺が、無言のまま、ヒメの肩にポンと手を置いた。
彼女に対し、『動くな』という意思表示を見せる。
そして、ゆっくりと前に出た。
片手で、黒いネクタイの玉をキュキュっと少しだけ緩めながら、コキコキっと首を鳴らす。
とても静かだが、しかし内面は沸騰している。
やる気十分な超苺のオーラを感じ取り、
ヒメは、
「え、あんたがやんの? ……ふーん。ま、好きにすれば」
軽く了承して、フロントラインから一歩下がる。
メリーとの距離が五メートルを切ったところで、
超苺は、半身で構えながら、心の中で、
(気づいてしまった。そう。道着でも、半脱ぎなら、俺的にアリかもしれないと)
くだらない事を考えていた。
煩悩の塊である超苺は、メリーの全身をじっくりと観察し、
(胸は小さいが、足は長い……ふむ。ありだな。俺の地獄柔術でその体を、隅々まで、うへへ……)
『女なら誰でもいい超苺』の、
セクシャルハラスメント大爆発な視線を受け、
メリーは心の中で、
(なるほど。流石は闘神といったところかしら。すべてを見通すような鋭い視線、隙のない構え)
しっかりと勘違いをしていた。
超苺は、いつだって誤解される。
彼は、ただの変態なのだが、
寡黙すぎるのと、目つきが鋭すぎるせいで、
いつだって、ただの変態ブタ野郎だとはバレない。
(ビリビリくる……本当に隙がない……なさすぎる)
メリーは動けない。
超苺の動きがまったく読めない。
超苺の、業物のような強靭で鋭利な視線(はた目には)。
何を考えているか全くわからないミステリアスな眼光。
――それが、ただのむっつりスケベ的視線であると理解できる者は、彼の内面を設定した創造主だけ。
メリーは、冷や汗を流しながら、
(ちっ。動けない。この男、いったい、何を考えて……いや、そうか、なるほど。こちらの心を削っているのね。ふん。…………神……か。どうやら、噂よりも数段上に想定した方がよさそうね)
シリアスモード全開のメリーの前で、
超苺が何を考えていたかというと、
(本音を言えば、寝技に持っていきたい、が、しかし、寝技は露骨すぎる。触るにしても、ハプニングスケベの要素がなければ、この俺自身が引いてしまう。そう、俺は、いわゆるひとつのラッキースケベ――つまりは、『ちょいエロ』こそを好む、真の男。露骨とかモロは、ぶっちゃけ引く。そういうんじゃないんだなぁ、これが)
クソくだらんことを、えんえんと、
(しかし、この嗜みは線引きが難しい……背負い投げは感触的に弱い……かと言って、寝技はエロ要素があまりにも強すぎる。なにが正解だ? あの貧乳スレンダーを、紳士的かつ完璧に楽しめる、完全なるラッキースケベの解答、絶対なる真理はどこにある? 脳ミソよ! ここだ! 開け! 届け! 俺は知りたいんだ……真実のちょいエロを!)
(くぅ……動けない……この男……なんて自然体、完全なる静の境地……くぅぅうううう! これが……闘神!)
その時、風が吹いた。
道場の扉と扉の間を、スゥっと抜けていく。
その風が、
「おっと」
ヒメの短いスカートをコンマ数秒だけさらっていった。
そのわずかな瞬間を、しかし、超苺は見逃さない。
(見えた! ピンク! おぉおおおお! これ、これ、これぇ!)
無表情のまま、心の中で歓声をあげる。
(風、ありがとぉ! これぞ、ちょいエロ! この心をヌルリと触る感じ! そう、これなんだよ!)
そんな超苺を見て、メリーはクワっと目を見開いた。
(視線がズレた! おそらくは集中力の限界! 緊張感に耐えられなくなったわね! 闘神といえど心には隙がある! 今!)




