33話 ここには私がいる!
33話 ここには私がいる!
「――まさか、神である自分らよりも遙かに強い存在が、人間の中に……ん?」
「なに? 急に、どうしたの?」
「ぃや、妙な気配が――」
――その時、
ズゥウン!!
と、妙な音が彼らの世界を包み込んだ。
周囲で、下級生たちの悲鳴が上がった。
混乱が渦を巻く。
不安定な、ピリピリとした空気。
「空間系のスキルが発動した?! おいおいおい! なんだ、この支配領域の広さは?!」
「ああ、そういえば、あんた、探知系スキルが使えるんだっけ」
「っ……おいおい、いくらなんでも広すぎだぜ。この道場全体が覆われていやがる。ありえねぇ。空間系は俺も一つ使えるが、範囲は一メートル立方が限界なんだぞ」
クレオは十年生。
この厳しいアカデミーで十年も努力を積んできた天才。
そのクレオでさえ、一メートル立方が限界。
それが空間系スキルの難易度。
『野球場ほどの大きさがあるこの道場全体を覆いつくすほどの性能を持つ極大スキル』をつかいこなすなど、いったい――
「こ、こいつは、いったい……ど、どういう――」
「まあ、落ち着きなさい。あなたは典型的なバランス型、どうしても一つ一つの性能は低くなる。効果範囲特化型なら、数十メートル立方を覆うくらい、ありえない話でもないでしょう」
「ま、まあ、そうだが……」
「冷静に現状を報告して……みんなも静かに! 心配するな! ここには私がいる!」
メリーの頼もしい一括を聞いて、慌てふためいていた同輩後輩たちが、一斉に動揺から解放された。
「さすが、いい子たちね! まずは現状を確認しましょう! 誰が、何をやったのか。クレオ、あなたのスキルで探知できない?」
「……できた! 男女の二人組み! こいつら……まさか、闘神? いや、間違いない。聞いた特徴にぴったりだ! おそらく、『ヒメ・ルギャ』と『超苺・ブルー・カノープス』!」
「闘神……へぇ……ちなみに、今、どこにいるの?」
「近い! すぐそこ! 入口の前だ!」
クレオが叫ぶと同時に、
「うーわ、マジでガキばっか。ウチ、ガキ嫌いなんだけど。鬼しんどいじゃん」
(えぇ、道着かよ……しかも、クソ分厚い系。学校って聞いていたから、エロいミニスカ拝み放題かと思っていたのに……マジかよ、くそが。裏切られたぁ)
ビッグの元に降臨した八人の闘神、その中の二人、ヒメ・ルギャと超苺・ブルー・カノープス。
女の方は着崩したセーラー服、
男の方はシュっとした喪服という、
どの角度から見てもアンバランスでしかない二人組。
二人は、ズカズカと道場に入ってきて、
「代表とかっている? ……ぁ、『あんた』っぽいね」
全体的にルーズな態度のヒメの発言に、
メリーが、
「代表ってわけじゃないけれど、現状、教官も含め、ここで最も強いのはこの私。で、闘神が、ここに、なんの用?」
「あれ、ウチらのこと知ってんの?」
「ここには、いろいろな噂が流れてくるからね」
「そんなら話が早い。あんたら全員、ウチらの弟子にすっから」
「……はぁ?」
「ウチの兄弟子が、なんか、この世界の才能あるヤツを全員鍛えるとか言いだしてさぁ。マジ、ダルいんだけど、まあ、言いだしたらきかない人を説得するとかアレじゃん? だから、まあ、テキトーに付き合ってやろうって結論になったわけ。つーわけで、あんたら、今日から、全員、ウチらの弟子ってことで」
「……ふざけた事を……はしゃぐのも大概にしておけよ、闘神!」
言うと、メリーは闘気を爆発させる。
練りあげられた芳醇なエネルギーがメリーを包み込む。
それを見て、ヒメは、無の表情を浮かべ、
「ふぁ~あ」
ヌルいアクビを一つはさんでから、
「……で?」
明らかに戦闘態勢をとっているメリーを前にして、
ヒメは、タルそうにそうたずねた。
まるで、つまらない映画でも見ているかのような態度。
強大な闘気を放つ自分を見ても余裕の態度を崩さないヒメを見て、
メリーは、
(……ハッタリだ)
冷静に、そう判断した。