31話 平熱マンは強すぎる。
31話 平熱マンは果てしなく強すぎる。
結果のすべてを目の当たりにしたA7は、
力なく、ペタンと尻もちをついた。
「なん……だ。あの強さ……ありえん」
ガクガクと震えながら、
(強さの次元が違う……あいつはなんだ……あの強さは……)
A7は思う。
もしかしたら――
(あるいは、御大よりも……)
「A7、大丈夫ですか? ぃ、いやぁ、しかし、驚きましたね。まさか、スティーブが負けるとは」
「そんなことはどうでもいい。分からないのか。あの平熱マンとかいう男のイカれ方が」
「は? ど、どういうことでしょう? 確かに、美しい連撃だと感心しましたが……」
(っ!!! そ、そうか、一般人の目では、あの男の強さが異常だと認識する事もできないのか。美しさを感じ取ることはできても、その正確な価値は測れない。『強さ』も、あそこまで果てしない領域に行ってしまうと、深い武に通じている者の目でもなければ、理解することさえできないという事実の証明)
A7は深いため息をつきながら、
「あの男の強さは領域が違う。人かどうかすら疑わしいレベル」
「サバキのメンバーに匹敵するほどですか?」
「だから、そんな次元じゃない! あるいは……言いたくないが……」
「な、なんでしょう?」
「……御大より……強い……」
「ははっ、そんなバカな」
「……」
「じょ、冗談でしょう?」
「至急、あの男と連絡を取れ。状況が状況だ。地に頭をつけて迎え入れる事も視野にいれなければならん。あの者は、噂の『邪神』が『想定以上だった場合』における人類最大の秘密兵器になる可能性がある」
「……なっ、そ、そこまでの……」
「急げ! はやく、あの男をここにつれてこい!」
「は、はい!」
★
「ゴード様、なぜ棄権など……」
一回戦の直後、ゴードはマイを連れて、闘技場の外に出ていた。
「このへんで勘弁してください。退屈ですし、そろそろ仕事に戻りたいですから」
真摯に頭を下げてくるゴードに無理強いなどできなかったマイは、渋々了承した。
並んで歩きながら、マイは、心の中で、
(小さな大会とは思えないくらい、シードの連中は、軒並み、桁違いのマスタークラスだった。おそらく、今回の大会は、裏で何者かが動いている。それは、この御方も理解しているはず。諸々踏まえたうえで、かつ、あの高位の連中ですら、ヌルすぎて退屈としか思えないとは……さすがは神)
ちょっとした勘違いをしているマイの隣で、ゴードは、
(本気で挑んでいる連中を、そうでもないヤツが倒すのは……なんというか、あっちゃいけない気がする)
などと、ボンヤリとした事を考えていた。
彼は善人ではないが、しかし、悪人ではないのだ。
★
「――まだ見つからないのか!」
「申し訳ありません。どうやら、二回戦を棄権したあと、すぐに会場を後にしてしまったようで、もうどこにも姿は見えず……会場周辺も探したのですが……」
「くそ……使えないヤツめ。もういい! おれが直接探してくる」
「お、お待ちを! そろそろ決勝が終わります……ぁ、いえ、終わったようです。リーが優勝しました。A7は、サバキの一人として、彼に――」
「そんなことを言っている場合ではない!」
「――騒がしいわね。どうしたの?」
「ぁ……S1。い、いえ……あの……」
「試験、終わったんでしょう? 講習会の準備は? まだのようだけど、なにをしているの」
「実は……すごく強いヤツがいまして」
「だから、リーでしょう? あれはいいわ。久々にAクラスまであがれる器で――」
「いえ、あの……そんな次元じゃない者が……」
「そんな次元じゃないって……じゃあ、どういう次元なの?」
「えっと……その……」
言葉がつまる。
当然。
(あなたよりもはるかに強く……それどころか、御大よりも強い可能性がある……そんなこと、誰よりも御大に陶酔しているこの人の前で言えるわけがない。最悪、不敬罪で粛清されてしまう)
「なに、どうしたの?」
「いえ、あの……」
「煮え切らないわね。鬱陶しい。言いたいことがあるなら早く言いなさい」
「い、いえ……なんでもありません。即時、講習会の準備に移ります」
「なんなのよ」