27話 覆面闘士トーナメント。
27話 覆面闘士トーナメント。
マイの『ゴード様』という不可思議な発言に対し、いつも通り、いぶかしげな表情を浮かべながらも、一応、黙って、奥へと下がっていく大将。
その背中を見送ることなく、
マイは、一心に、ゴードをみつめたまま、
「ゴード様。御気分を害されませんでしたか? もし、お望みとあらば、あの無礼な男に、この世の、ありとあらゆる苦痛と絶望を叩き――」
「い、いやいや! やめてください。俺に給料を払ってくれる人がいなくなる!!」
「ご、ゴード様……あのような仕打ちを受けていながら……なんと、慈悲深い」
「あの……もう、面倒事はごめんなので……その『地下でどうこう』っていう大会、ぜひ、参加させていただきます。だから、もう、狂った行動は取らないで――」
「参加していただけるのですか?! あぁ! ありがとうございます!」
マイは、興奮に包まれた歓喜の声をあげて、
「それでは、こちらをどうぞ」
妙な装飾が施された布を差し出してきた。
「……え、なんですか、これ? 覆面?」
「今回のイベントは覆面闘士トーナメントなのです」
★
サバキのメンバーになる方法は二つある。
そのうちの一つ、サバキの一員となるためのテスト、
通称『サバト』は、毎年一回、不定期に行われる。
時期こそ不定期だが、内容は一貫している。
わずかなヒントを頼りに『試験が行われる大会』を推測し、そこで優勝すること。
この世界では、各地で、多い時は週一ペースで格闘技のイベント大会が行われている。
――今年の会場はシバクの地下闘技場で行われる覆面闘士トーナメント。
チャレンジャー達に与えられるヒントは、毎回、ほんのわずか。
『これで、どうやって戦えばいいんだ』と嘆かずにはいられないレベル。
今年は特にひどく、
ゆえに、試験運営側は、
『今年、本選まで辿り着けるものは一人か二人が限度』と考えていた。
――が、
「五人か。今年の受験生は優秀だな」
A7の発言に、運営委員長のデイラが、
「そうですね。あんな酷いヒントで、よく辿り着けるものです。伊達や酔狂でサバキの一員を志してはいないということですね」
「どいつもこいつも天才なのは確か……しかし、求められるのは、その中でも抜きんでた、天に選ばれし者。さて、どいつが俺の仲間になるか……まあ、十中八九『リー』だろうけどな」
「そうですね。今年のメンツの中では、頭一つ抜けている印象です。スティーブやロウも悪くはないのですが、手数と突貫力がズバ抜けているリーと比べれば、正直、決定打にかける印象があります」
「リーは良い。久々にA組へ上がれる大器。条件次第では、俺でも勝てるかどうか微妙な男。素晴らしい。あの男なら、きたる決戦でも、十分使える」
「決戦……」
そこで、デイラは渋い顔をして、
「ぁ、あの、A7。もしかして、近々『降臨された神とサバキが殺しあう』という噂は本当なのですか?」
「ほう。流石、耳がはやいな」
「降臨なされた神が人類の敵だという不穏な噂を耳にしました……まさか、それは、事実なのですか?」
「………………ああ」
A7の重たい返事を受けて、デイラは、右手で顔を隠して俯いた。
悲痛の表情を浮かべているデイラに、
「だが、問題はない」
A7は、確信を込めた声音で、
「神々の力はサバキより下だ。親玉の『邪神』は確かに脅威だが、人類側の頂点には御大がいる。何も問題はない」




