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26話 お礼……。


 26話 お礼……。


「あの……私のために、一言いってくださって、ありがとうございました。マイ様」


 深く、深く頭をさげた。

 そんなゴードに、

 マイは、恭しく片膝をついて、

 ゴードよりも深く頭を下げ、


「私風情に頭を下げるなど、どうか、おやめくださいませ」


 懇願するような、その強い言葉に、ゴードは、


「ぇと、あの」


 いつも通り、軽く引きはしたものの、


「ああいう客は、下手に出るとトコトンつけあがりますが、立場上、僕は下手に出るしか手がありません」


 ゴードは、慎重に言葉を繋いでいく。


「マイ様がいなければ、今頃、便器でも舐めさせられていたかもしれません。本当にありがとうございました。今回受けた御恩で、十分に、この前の貸しを返していただけました。ということで、今後は――」


「いえ、私は何もしておりません」


 ゴードの計算を無自覚にブチ壊したマイは、つづけて、


「先ほどの件も、ゴード様が、その気になりさえすれば、いくらでもどうとでもできたでしょう。私の受けた恩は、一生かかっても返せるとは思っておりません」


(この機にかこつけて、関係を断ち切ろうとしたのに……)


(私は、命を助けて頂いている。カスの露払いなど、そのお返しにもならない)


(完全に失敗した……いや、まだだ。折れるな、ゴード・ザナルキア。この女の接待に時間を取られるのは、もうウンザリなんだろう。これ以上一秒たりとも睡眠時間を削られたくないと切に願うなら、この死中に活を見出せ)


 幾億通りにも及ぶ会話の流れを読み、その中から、


(よし! これだ!)


 勝機を見出すと、


「いやいや、僕の方こそ何もしていませんよ。むしろ、雑魚いチンピラをシバいただけなのに、尊厳を守って頂けたのだと考えれば、過剰に恩を返されてしまったと逆にこちらの身が縮む思い。何かお礼をしなければいけないと思うほど――」


「本当ですか?! では! ぜひ! 今日、これから、私とデートを!」


「……あれ?」


 現実は、想定のルートからさっそく外れ、


「もともとお誘いするつもりでしたが、まさか、ゴード様の方から切り出していただけるとは……流石です。まさか、心まで読めるとは」


「……いや……あの……」


 ただただ困惑するゴード。

 畳みかけるように、マイは続ける。


「実は、今日、地下闘技場で、楽しげなイベントが開かれるのです。わたくし、参加者の推薦枠を一つ持っておりまして……」


「は? ぇ、いやいや、ですから、あの――」


「あの日、ゴード様の痺れるような闘気にあてられてからというもの、いつか、また、ゴード様が華麗に舞われている御姿を拝見させていただきたいというのが最大にして唯一の夢となっておりました。ぜひ、参加して頂き、その雄姿を見せていただけませんか?」


「と、闘技場で戦いって……チンピラをドツくのとはワケが違うと思うんですが……」


「いえいえ、今回は小規模ですので、あの者たちよりも遥か格下が出てくるはずです」


(町のチンピラ以下の格闘家って、どんなんだよ……絶対に嘘じゃねぇか……この女、もしかして、俺がボコられるのを見たいのか? 反省して殊勝になったかと思いきや、心の黒さは同じって、そういうことか?)


 ゴードが眉をひそめていると、


「いや、あの、でも、マジの格闘技とかはさすがに――」


 後ろから、


「おい、ゴード。お嬢様の頼みを、まさか、断るつもりではないだろうな」


「げっ、大将……」


 半纏を着たスキンヘッドのゴツい男。

 この店の大将である『ダンソ・ルッコ』が、

 ゴードの頭を掴みながら、


「お嬢様、ご安心を。なにも問題はありません。この男をどのように扱おうと、お嬢さまの自由でございますゆえ」


 その様子を見て、マイは、冷や汗を流し、


「ご、ゴード様の頭を掴むなんてっ! な、なんと愚かな!! 下がりなさい!!」


 『水爆でキャッチボールをしているキ○ガイ』でも見るような尖った目で、


「私とゴード様の会話を遮り、あまつさえ、その玉体に、そ、そんな汚い手で……こ、このうつけが!! はやく、失せなさい!!!」


 せっぱつまったお叱りを受け、


「は、はっ!! 失礼しました!!」


 大将はギュウっと身を縮ませた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >この店の大将である『ダンソ・ルッコ』が、 やっぱ大将ラスボスじゃないですかやだー。 ホントどこにでもいるなこのラスボス…
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