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25話 御大の命令には逆らえない。


 25話 御大の命令には逆らえない。


 Aクラスのお客様は、

 ゴードを視界に収めたと同時に、虫を見る眼で、


「おまえだよ、そこのショボそうなお前、こっちこい」


 と、傲慢力全開の『お客様は神様ムーブ』をかましてきた。


 ゴードが、


「は、はい……なんでしょう」


 モタついた態度でそう言うと、

 かるくイラついた声で、


「いいからこい!」


 と強い口調で叫んだ。


「……は、はぁ……」


 ウゼェなぁ、と思いながらも、ゴードは、

 マイに、


「失礼します」


 と頭を下げてから、

 ソォっと、Aクラスの彼女に近づいていくと、


「靴が泥で汚れた」


「……はぁ」


「はぁ、じゃないだろう、バカか、お前。拭くものをよこせと言っているの。ほんと、バカじゃない?」


「……ぇ、えっとぉ……ぁ……は、はい」


 どうしたものかと、一瞬困惑したものの、

 公務員時代の経験から、

 こういう場面では、

 『下手に逆らう』という選択肢をとった方が、

 『もっとも面倒な方に転がる』と知っているため、


 心を殺して、


「では、タオルをお持ちいたしますので――」


「私はヒマじゃないんだよ」


 そう言うと、女は、ゴードの上着(半纏)を、引き千切りながら奪いとり、


「ちっ、お前のユニフォーム汚いわね……まあいいわ」


 サササっと靴を拭くと、破れた半纏をその辺に放り捨て、


「さっさと席に案内しなさい。私は、あんた程度の身分では想像すらできないほど高貴かつ非常に多忙な身。わずかでも苛立たせないよう、必死に接待しなさい」


 高慢ちきな態度でそんな事を言い放った彼女に対し、

 マイが、我慢の限界を迎えた鋭い無表情でスっと立ち上がり、


「あなた、態度が悪すぎるわね」


 庶民をとことんまで見下し切った『辛辣が過ぎる通常運転の目』で、その女を睨みつける。

 マイの高圧的な態度にイラっとしているのが丸分かりの、

 ブチギレた表情をしているAクラスの彼女は、


「……あぁ?」


 眉間にグっとしわを寄せて、トゲトゲしい疑問符を声に出して言った。

 それは芯に響く凶悪な恫喝だったが、

 マイは、一切ひるまず、


「私の恩人に対して、あまりにも無礼が過ぎる態度……見過ごせないわ。控えなさい」


 尊大な口調と態度でそう言い放った。

 彼女――S1は、マイの顔を見ると、


(こいつ、バンデミッシュ家の娘じゃないか……)


 苦い顔をして、ギリギリと歯ぎしりをした。

 ギャンブル界の帝王。

 富豪ランキング七位に位置するカジノ王の娘。

 世界の裏側――その一部を牛耳る闇の王が溺愛する一人娘。


(……噂に名高い高慢ちきなメス豚が、こんなクソ庶民を恩人扱い? これは、いったい、どういうこと?)


 彼女について深い情報を有しているがゆえに困惑する。状況が理解できない。


(この男、ただのクズじゃないのか? いや、でも、見た感じは……)


「聞こえているの? 本当に態度がなっていないわね」


 マイのどこまでも高圧的が過ぎる態度に、

 S1は、心底からイラっとして、

 つい手が出そうになったが、

 しかし、


(……『名が通っている重鎮』との『直接的な接触』は避ける事。つながりを持つにしても、アイムやビッグなどの傀儡かいらいを通せ。それが御大からの基本指令。……御大の命には逆らえない)


 鋼の忠誠心が『臨界点を通り越していた怒り』をグググググっと抑え込んだ。

 御大――『無双仙女』に対する途方もない忠義がなければ、

 きっと、S1は、目の前の女をヤツ裂きにしていた。


「……すぅ……はぁ……」


 S1は『荒くなりかけていた息』を深呼吸で無理やり抑え込むと、

 強く、強く、ギリィイっと奥歯をかみしながら、


「用事を思い出したから帰るわ」


 声が震えないよう必死に怒りを抑えつけてから、

 捨てセリフを残し、逃げるように店を後にする。


 そんな彼女の背中を見送った直後、

 ゴードは、マイと向き合い、


「あの……私のために、一言いってくださって、ありがとうございました。マイ様」


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