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21話 最強神の弟子と、特殊性癖の変態。


 21話 最強神の弟子と、特殊性癖の変態。


 ――月光に照らされた淡い夜の世界。


「ん?」


 その、『いびつな気配』に気づいたのは、道場の裏山、とどまる事を知らない滝の音色に包まれた丘で、巻藁に向かって、日課の正拳突きをしていたスペクトラル・ボウだった。


 粋な羽織が風に揺れる。

 常に咥えている長い爪楊枝の先がピクっと揺れた。


 ボウの魂は、いつだって、静穏の領域にある。

 わずかとはいえ、世界を濁すその気配に、少しだけイラっとする。


 ボウの、まったく乱れのない『練』が紡いでいた『音楽的な美』が乱れる。

 寒流月を帯びて澄めること鏡のごとし。

 汚されて溜息。


 冷たく鋭い、剣豪のような雰囲気を持つボウは、厳つい両目をスっと閉じて、


「我に何か用があるようだな。出てくるがいい」


 重厚感のある厳格で芯の通った口調でそう言った。

 ボウの呼びかけに、


「げっへっへ、げっへっへっへっへ」


 その男は素直に応じた。

 いつもは深く顔を隠しているフードを脱いで、その顔を晒す。

 品のない喋り方からは想像もできない、セミロングの艶やかな赤髪とキリっとした赤目が特徴的な、スラリとしている精悍な青年だった。


 ニタニタとした薄ら笑いをやめれば、高級貴族にも見える端正な顔立ち。

 赤目の男は、ボウの足もとに平伏して、


「あっしは、バイゼル・ネクロアンサーという者でげす。所属はサバキ。コードネームはA3」


「サバキ? ああ、裏でこそこそ動いている連中か」


「っ……ご存じでげしたか」


「情報収集が得意な妹弟子がいるのでな。で、我に何のようだ?」


「このバイゼル。聖下に尽したいと所存する次第でげす」


 ボウは、あごひげをしゃくって、続きをうながす。


「げっへっへ。あっしは、こう見えても、サバキで最上位クラスの地位に立つ者。サバキ内で得た重要な情報を、あますことなく、すべて、聖下に流すことをお約束いたしやしょう。げっへっへ」


「なるほど。で、見返りに、なにを望む?」


「げっへっへ」


 気味悪く笑ったあと、スっと表情を固くし、


「神々の、望むままにしていただくこと」


 そこで、表情を、気味の悪いニタニタ顔に戻し、


「でげす」


「よくわからないな。詳しく説明することを許そう」


「は! では、簡潔に……」


 そこで、ニヤァっと不気味な笑みを浮かべ、


「あっしは、ずぅっと望んでおりやした。いつか、この地に降り立つであろう神が、邪や魔の類である事を」


「なぜだ?」


「そうであれば、あの忌々しいクソ女どもの無様な姿を見れるやもしれんからでげす。あの偉そうなバカ女どもの、絶望に塗れた顔を想像するだけで、あっしは……げっへっへ」


「歪んだ性癖か。なるほど。理解はできんが把握はできた」


「あっしの望みをかなえていただけるのであれば、この身のすべてをささげさせていただきやすぜ、聖下。げっへっへ」


「ふむ……ふむ……そうだな」


 ボウは、二度ほど頷くと、


「では、これより、貴様は我の配下。十全に尽くすがよい」


「……は……?」


「どうした? なぜ呆けている? 好きにしろと言っているのだ。喜ぶべきではないか?」


「ち、血の盟約などは? 自分で言うのもなんでげすが、強制力のある縛りがなければ、あっしなど、とうてい信用できないとおもうのでげすが」


「下賤な者の演技をしているのは最初からわかっている」


「!」


「仕草に気品がある。おそらくは、高貴な出であろう。そして、今、貴様が言った事は、すべて本音なのだろ?」


「……」


「いや、違うな。むしろ逆……本音が分からなくなっている、といったところか。まあ、どうでもいいがな。なんであれ、本気で『情報を流してくれる』と言いうのであれば、断る理由など、こちらにはない。それだけの話」


「……」


「最後にもう一度言う。好きにするがいい」


「……了解いたしました。……ぁ、いえ、了解いたしやした。失礼いたしやす」


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― 新着の感想 ―
[一言] 音楽的ねぇ。 正拳突きっを毎日か、センみたい。
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