20話 混沌と殺戮を司る最強神。
20話 混沌と殺戮を司る最強神。
――五分後、ゲイルをフルでボッコボコにして大変満足した最強神は、
「ちょっとやりすぎたかな……まあ、俺以外がどうなろうと、俺の知ったこっちゃないけどね。俺が痛みを感じるのは、俺の体が傷ついた時だけさ。さて、そろそろ買い物の続きだ。……このメモ、未だにキチっと読めねぇけど、多分、ジォウク・ノ・ゴウーカデ……か? ゴード・ザナルキアの知識にはない言葉だな。で、商品の名前が……世界焼き? 店の世界観を統一しろよ」
ぶつぶつ言いながらその場を後にする男の背中を見送りながら、ズタボロになったゲイルは、恐怖にブルブルふるえながらも、己の幸運に心から感謝した。
(助かった……死なずにすんだ……よかった……あんな化物に狙われて、命があった……よかった……よかった……)
もはや威厳もクソもない。
ウレションを垂れ流しながら、命ある現状に感謝の意を告げる。
殺戮の神が姿を消してから一分ほど経過した時――
「……なにこれ、死にかけじゃない」
「げっへっへ、A1、どういうことでげすか? 話とまったくちがうでげす」
「あ、あれ?」
新たな戦力S1とA3を引き連れたA1が、疑問符を発する。
三人とも、全く同じフードをかぶっているので顔は分からないが、S1だけ、異常なほど高密度の闘気を纏っているので、彼女が特別であるという事だけは誰の目にも明らか。
「お、おかしいですね。A7はもちろん、私も一撃だって与えてはいなかったのですが」
「げっへっへ、となると、誰かが倒したってことになるでげすなぁ。A1とA7を相手に無双できる侵略者を……げっへっへ、こいつはただごとじゃありやせんぜ、S1」
猫背でガラガラ声のA3の言葉を受けて、
A1がS1に、
「もしかして、御大でしょうか? 時折、気まぐれに、現世を徘徊しているという噂をきいたことがあります」
「それはないわね。御大は今、恒例の霊山合宿ツアーに出かけているわ」
「ぁ、ああ、そういえば」
そこで、S1は、ゲイルの近くまで歩き、
ゲイルの顎を、爪先でクイっと上げながら、
「答えな。誰があんたをつぶした?」
ゲイルは、朦朧としているが、どうにか口を開いて、
「真っ白な服を着て……杖を持った……桁違いに強い……ばけもの……」
「白い服に杖?」
「S1、まさか!」
「……」
「げっへっへ……伝承にある神の御姿は、常にそういったスタイルでげすなぁ」
「S1! この男、確かに、S1に匹敵する力の持ち主でした! それは保証します! それだけの強者の心を折った者……御大じゃないのなら……可能性はひとつしか……」
「A1、こいつの名前は?」
「確か、ゲイルと言っていました」
「ゲイル、質問に答えなさい。あんたをつぶしたヤツの特徴を聞かせて。言動でもいい。何かヒントをよこしなさい。そうすれば、お前を元の世界に帰してやる」
「ありがたい……もう二度と、ここにはこない……誓う」
「げっへっへ、無様、無様。侵略者も、これでは、形無しでげすなぁ」
「A3、黙っていなさい」
「すいやせんねぇ、げっへっへ」
「それで?」
「やつは、こう言っていた……自分は混沌と殺戮を司る最強神だ……と」
「間違いありませんね。闘神たちが語る神物像と一致しています」
「ほかには?」
「そういえば……地獄の業火で、世界を焼き尽くす……などと言っていた気がする。その後、世界を統一するとも……あまり、聞きとれなかったが……そんな感じのことを……言っていた」
「げっへっへ。世界を焼き尽くして、自分の好きなように創りかえようとは、さすが神様……豪気でげすなぁ」
「褒めてどうする、バカめ!」
「げっへっへ、すいやせん」
「くそったれの邪神が……ナメ腐ったことを……」
「た、頼む……あいつを……殺してくれ。怖いんだ……こちらの世界に……あいつが……襲いかかってくることを……想像すると……心臓の震えが……とまら――」
「ふん、言われるまでもない」
ドンと胸を張るS1の後ろで、A3が、
「げっへっへ……げっへっへっへっへ」
不気味な笑みを浮かべていた。
何か、含みのある笑い。
深いフードから、チラリと、歪んだ笑みが見えた。
彼は――